探偵は花畑で高笑う(後編)
早森琴音は事務所にいた。
「ふむ。そんなに大変な案件じゃないような気がするんですが」
「そんなことありませんよ。琴音さんは優秀だから」
風村探偵事務所。
琴音はよく顔を出しているので、顔馴染みなのだが
「おおー。すごーい。地図がたくさーん」
地図をキラキラした目で見る瑞希。
「ええ。それは私が風村にお願いして買ってもらったやつですね」
「地図見てるねー」
「ええ。そうしていてください」
琴音は書類に目を通す。
大体状況は把握した。
だが
「まあ、女でしょうね。これで見ると」
飯村英二というファイルには、そのひとなりが記されていた。
「依頼人の要望も10:0じゃないし。そこそこのところで妥協案だせば済みますね。まあ、とっととやりますか」
琴音は書類を閉じると
「瑞希、一緒に帰りましょう」
「うん!もう終わったの?」
「ええ。簡単ですわ。明日から少し出かける事が多くなります。良い子でお留守番してくださいね」
「ええー。一緒にいたいよー」
「ダメです。宝探し以外はね。まだ早いです」
「むう」
「これで、人の弱み握る快感とかに目覚められても困るのです。瑞希、良い子で待っていてください」
「うん。わかったよ」
瑞希は渋々と頷く。
「素晴らしいです。大丈夫ですよ。瑞希ならそのうちなんでもこなせるようになります」
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翌日の学校。
早森瑞希は不満だった。
「むう。お姉ちゃんがいないお家に帰ってもなぁ」
暇なのだ。
琴音がいれば、常にお喋りをしている。
琴音は優しく、なによりも頭が良かった。
会話をしていて、なんのストレスも無いのだ。
「1人で図書館行こうかな?」
そう思っていると
「あれ。みずき君、なにしてるの?」
クラスメイトの内海雅が話しかける。
「帰ってもやることないから困ってるの?」
「じゃあ二人であそぼー」
いつも雅は、瑞希に話しかけては玉砕の日々を送っていたが
「いいよー」
「わーい!」
初めて、瑞希は、雅のお願いにこたえた。
公園。
「なにして遊ぶ?ちゅーしよー?」
「ちゅーって遊びなの?」
「ううん。ほんき」
「じゃあしない。遊びしようよ」
微妙にすれ違った話をしながら、二人は公園でベンチに座って話をしていた。
「微妙に寒い」
「なにか飲む?」
瑞希は財布をだす。
「いいなー。みずき君、お金持たせてもらってるんだ」
「うん。お姉ちゃんが、持ってなさいって」
二人でコンビニに行き、買い物をすると
「みずき君、好きな人いるの?」
「おねえちゃん」
「むう」
即答されて不満そうにする、雅。
「おねえちゃん、綺麗なの?」
「綺麗だと思うけど、優しくて、頭いいから好き」
二人はたわいもない話をしながら、夕方になり別れて帰った。
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「ただいま、瑞希」
「お姉ちゃん!おかえりー!」
帰ってきた琴音に飛びつく瑞希。
「良い子で待っていましたか?」
「うん!暇だから、クラスの子と話してた」
「あらあら。良いことです」
琴音は瑞希の頭を撫でる。
「明日で終わります。良い子で待ってください」
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琴音は証拠を整理していた。
「まあ、こんなもんでしょうね」
飯村英二の弱みは握った。
あとは
「さて、あとは交渉するだけですね」
国定公園の花畑で人を待つ琴音。
すると待ち人は来た。
「飯村英二さん」
ベンチに座ったまま声をかける。
「……?どこかで会ったかな?」
「相続の件でして」
「弁護士か何かか?それにしては幼いが」
「そんな上等なものではありません。お兄さんの栄一さんとの配分のお話でして」
「なんの話か分かりませんが、話なら正式に……」
琴音は写真を見せる。
すると飯村の顔が青ざめた。
「栄一さんに対して、女性関係を理由に遺産配分に対して意見書を出されています。ですが、同じことをされているようでは、色々これからの交渉は辛いでしょう」
「し、しかし!兄貴は強姦だろ!あれは女に金をバラまいて不起訴にしてもらっただけだ!俺は違う!」
「お金で関係を黙ってもらう行為には変わらないかと」
また新しい写真を見せ付ける。
そこには、女性に金を渡すシーンが写っていた。
「別に遺産を諦めろ。という話ではなく。意見書を取り下げるだけです。大したことではないかと」
「断れば?」
「遺産配分の場でこれが流れるだけですね」
「それに応じたところで、この写真は……」
「意見書取り下げれば、そもそもこんな写真、問題にはなりませんよ。遺産配分で、兄を女性関係で糾弾しながら、本人も同じことしている。というだけですから。実際、双方合意があるのでしょう?」
「……分かった。これは貰えるのか」
「どうぞ」
「意見書は取り下げる」
話は終わった。
そして琴音は独り言を言う。
「これは独り言ですが、あの女の人は色々マズいですよ。この意見書もあの人の提案でしょうが」
飯村は立ち止まる。
「当初遺産配分の、2億相当のなにが不満なのですか?当初は納得されていたばすです」
琴音は歌うようの言う
「あの女性、溝口さんの借金と、男性関係を探ることをお勧めしますよ」
「探偵か」
「そうです」
「分かった。考えておこう」
琴音は書類を見せる。
「これはサービスです」
怪訝そうな顔でその書類を見ると、奪う。
「保険金かけられてますよ。自覚ないと思いますけどね。あと、これあなたの遺書。これまた知らんと思いますけどね」
震える飯村。
「お金が集まる所には、ハゲタカがたかりますよ。気をつけてくださいね」
琴音は笑いながらその場を去った。
帰り道。
「あら。瑞希」
公園を通りがかると瑞希と少女がいた。
「みずき君、明日も会える?」
「明日はおねーちゃん帰ってくるから無理」
「えーーーー」
女の子はがっかりしている。
仲良くしているようだ
「瑞希」
「わあ!お姉ちゃん!」
「……わあ、綺麗な人」
「瑞希のお友達ですか?なかよくしてくださいね」
「は、はい」
「お姉ちゃん!終わったの?」
「はい。私にすれば、楽な仕事です。明日から元の生活に戻りますよ。ああ、その前に明日は風村に報告しないとですね」
「わーい!」
琴音に抱き付く瑞希。
それを少女は羨ましそうに見ていた。
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「依頼人からお礼の連絡が来たよ。意見書は取り下げられたと」
「それはなによりです。こういうのは、他に敵が出来たら、どうでも良くなりますからね」
風村の見舞いに来た琴音と瑞希。
「しばらくは、事務所は開店休業だ。まあ金はあるからな。今のうちに事務員には休暇だすさ」
「ええ。ゆっくり休むことも大事です」
「しばらく仕事の紹介も出来なくなるな」
「そういう時もあります。事前調査はいくらでもやることありますからね」
琴音は微笑む。
「まあ、あの依頼人の弟さんから、そのうち依頼ありそうですしね。意外と宝探しの需要って多いのですよ」




