探偵は花畑で高笑う(前編)
早森琴音は相談していた。
「これは、謙遜でも嫌味でもなく、心の底から言っています。本当に迷惑なんです」
相手はクラスの学級委員長。
「私としては、この状況は耐え難いです。本気でどうにかしたいのですが」
「……ま、まあ落ち着いて」
学級委員長の後藤三月がとりなす。
元々の話は、最近琴音目当てで、他のクラスの男子が、なんとか琴音と仲良くできないかとウロウロし始めた事だった。
これに対して、後藤は「結構邪魔だからなんとかしてくれない?」と、最近急にモテた琴音に対する嫌味も込めて伝えたら、こうなった。
琴音は
「どうにかしてほしいのは、こちらの方です。あれは本当に迷惑なので、委員長権限で永久追放とかにしてください」
と逆につめてきたのだ。
「何度も言いますが、この格好は弟のためにやるようにしたのです。あんなクソ無能共にたかられる為ではありません」
サラッと凄いことを言う琴音だが、後藤はパニックになっていた。
「じゃ、じゃあさ、彼氏できたと言えば……」
「もう言ってますし、そいつはわざわざ学校に来てくれて、証明までしてくれました」
准一は何度か、校門の前で琴音を待っていて、彼氏アピールをしていたのだが。
「……そ、そうだよね。私も見たし。なんで、こんなに男が寄るんだろうね」
元々は琴音に対する嫌味のはずが、全然違う話になっていた。
「本当に男はバカです。今までは面倒だからダブダブの制服着てたんですよ。着やすいですから。それがサイズ合わせたら胸しか見ないし。あいつら、私をセフレ狙いとかで見てるんじゃないでしょうか?そんな奴らに、たかられる不快感分かりますか?」
琴音の言ってる事は正論だなー。と後藤は天を仰いだ。
そして
「分かった。とりあえず、このクラスで琴音に話かけるのは禁止にするから。それでいい?」
「はい!是非!お願いします!」
放課後、琴音は図書館に向かっていた。
すると
「おや?ちょうど帰りかい?」
「風村。奇遇ですね。依頼ですか?」
「うん。今回は普通の依頼だよ。遺産相続で揉めてるんだが、相手の弱みを探るというやつさ。面白くはないが、コーディネートの仕事の種になるからな」
「地道さも大切ですものね」
「今日は機嫌が良さそうだな」
「はい。学校での揉め事が解決しそうです。あれが続くようなら退学しようかと」
「ああ。顔を出すとモテるからな、琴音は」
「これは瑞希の為です」
「ははは。愛されてるな、瑞希は」
「はい。あの子は私と対等に話が出来る素敵な子になります」
にこにこしている琴音。
すると、風村の電話が鳴った。
「すまないな、呼び止めて」
「ええ。気をつけて」
琴音は風村と別れて歩く。
すると
『ドンッ!』
鈍い音
そして
「キャアアアアアア!!!!」
女性の叫び声。
琴音は振り向くと
「!?か、風村!?」
風村が道路で倒れ込んでいた。
横断歩道。
信号は青。
「し、しんごう無視で……く、車が」
「そんな事は後です!そこの人!携帯電話で119番通報!」
琴音は棒立ちしている女性に指示をする。
「私の体力では風村は担げません!そこの男性2人!手を貸してください!ここに置いていくわけにはいきません!」
「し、しかし、現場検証……」
「そんなの移動させたってできます!このまま道路の真ん中で倒れていたら、気付かぬ車に跳ねられかねません!」
「わ!わかった!」
男2人が担ぐ。
「あなた、車を目で追っていました。警察に電話してください。目の前で轢き逃げがあったと」
「わ、わかった。でも、あんまり俺、時間が」
「この交差点ならすぐ警察が来ます。お願いします」
「そ、そうだよな。事件だもんな」
一通り指示をしたあと、琴音は風村の様子を見る。
「……呼吸は正常ですね。命に別状はないと良いのですが、骨は折れてるか。さすがに」
すぐに救急車と警察は来た。
すると
「こ、ことね」
「風村!意識が戻りましたか」
「ああ、骨は折れてるようだが、生きてるな。僥倖だ」
「轢き逃げされました」
「ナンバーは憶えてるよ。俺は執念深いんだ」
少し笑う。
「琴音、瑞希君を待たせているのだろう。戻りなさい。その上で明日以降病院に来てくれないか?相談がある」
「分かりました。風村」
「殺されても仕方のない事しかしていないが、あれは単に、運転してる馬鹿が携帯弄ってただけだしなぁ。死ねんよ。こんなので」
翌々日、警察と病院に問い合わせて、風村の見舞いに、琴音と瑞希は来ていた。
「面会謝絶じゃなくて良かったです」
「ああ、怪我はそれほどでもない。だが、全治3ヶ月だ」
苦笑いする風村。
「まあ、休み無しで働いている風村です。たまには良いんじゃないでしょうか?」
「それが相談の件だ。一件、どうしてもやらないといけないことがある」
「コーディネートですか?」
「いや、それは琴音には頼まない。遺産相続の揉め事だ」
「ああ、別れ際言っていた」
「うちの事務員達には手が負えないやつなんだ。だが、琴音の調査能力ならば追える」
「怪我したときぐらい休めばいいのに……」
「これからの仕事は断る。だが受けた仕事を断るのは無しだ」
「まあ、風村の責任感の強さは知ってます。良いでしょう。書類は事務所ですね?」
「ああ。飯村英二というファイルがある。それに全てが挟んである。琴音ならば、それを見れば説明しなくても分かるはずだ」
「ええ。ゆっくり休んでください。終わりましたら報告しますよ」
「おねーちゃん。宝探し以外もやるの?」
「不本意ですが、そうですね。風村からのお願いは断りにくいです」
「なんでー?」
「世話になっているからですよ。瑞希、どんなに優秀だろうがね、こんな小娘に大事な宝を探させるなんて、普通の大人は決断しません。風村がいるから、私は今までやってこれたんです」
「そーなんだ。優秀さで選べないなんて、普通の大人は無能だね」
「そうなんですよ、瑞希。でもね、自分で大切な宝探しも出来ない無能が、私達のお客さんなので、それでいいのです」
「なるほどぉ」
「さあ。久しぶりに人の弱みを握る仕事でもしますか」
琴音は、瑞希と手を握りながら、病院を出た。




