探偵は城郭跡地で高笑う
「城跡の宝探しとかロマンですね」
早森琴音はにこにこしていた。
「高名な早森先生にしか頼めないのです。この依頼は本当に秘密裏にして頂きたい」
「まあ、ばれると凄い騒ぎになりますからね。文化庁への申請も必要となります」
「……このような依頼はだめでしょうか?」
「クライアント、念をおされると、私としては違法行為は出来ませんとしか答えられません。お分かりですね?」
「分かりました、では単純に城跡にある財宝を見つけて頂きたい。他言無用で」
「ええ。承りました。クライアント。早速行きましょうか」
「え?もうですか?」
「はい。場所は明らかです」
琴音は地図を開きながら歩く。
「わたしはこのような依頼を受ける前から、歴史上の人物の隠し財産などの調査を、事前に調べているのですが」
「そうなんですか!?」
「はい。先に言っておきます。ここには当時の隠し財産などありません。歴史書を紐解いても、このあたりに隠す意味が無いのです。江戸時代、そして明治時代、その時代に埋めるのであれば、こんな目立つ、城の付近には埋めない」
依頼人は立ち止まる。
「え?では無いのですか!?」
「クライアント、あるのですよ。宝は。当時の宝ではない、宝が。順番に説明します。明治六年の廃城令で、城郭が取り壊された」
「はい。元々城としては、江戸時代の一国一城令で、機能は失っていたのですが、城郭は残っていた。それが明治時代に取り壊された」
「廃城令は、金がかかるので、わざわざ壊さない城もあったが、ここは壊した。石材利用を目論んだそうですね。立派な石垣だったそうで」
「そうです、そうです」
「時代を進めます。昭和の時代、昭和恐慌の引き金となった政策がありました。それは金本位制の復帰。金、貨幣の輸出許可が出た」
「ええ。そうでしたな」
「タイミングとしては最悪だったあの政策。あれが宝を埋めるキッカケになった」
「え?」
琴音は立ち止まる。
「昭和恐慌の前から日本では震災等で不況が続いていた。ようやく不況が癒えて、世界からから取り残されていた金本位制に戻ろうとした。あの段階では、金本位制への復帰は規定路線。海外への輸出を準備していた人達は多くいた。そう。ここの近くに住んでいた富豪もね」
「ま、まさか!そ!そうか!この位置は、大崎家の家屋の目と鼻の先!?」
「そうです。綿関連でボロ儲けだったらしいですが、長引く不況で事業転換を考えていた。いずれくる金、貨幣の輸出許可に合わせて商売をしようと溜め込んでいた。それが一点あの大不況。このあたりも悲惨だったらしいですね、失業者は溢れ、治安は悪化した。強盗、放火の被害は多かった。そのために、大崎家は家よりも安全な場所にひとまず埋める事にした。それが、城郭跡地。岩の下を動かすのは嫌でも目立つ。目と鼻の先に埋めれば監視もできる。そう思った」
「そ、その大崎家は……」
「そうですね、当主は病気による急死。混乱により会社は売却。跡継ぎも戦争で戦死。大崎家は女性のみ生き残り、その人達は嫁いでいき実質消滅した」
大きな岩の下にスコップを突き立てる琴音。
「この下にあります。ただし目立ちますよ?重機を勝手に入れるわけにもいかない」
「で、でも、ここに宝が」
「はい。クライアントが掴まされた偽情報。あれは本当はデタラメなんですよ。江戸時代に埋めた宝?なんで江戸時代の人が城塞なんて分かりやすい場所に宝埋めるんですか?ところがね、そこには違う時代の宝が眠ってる。面白いと思いませんか?」
琴音は高笑いしながら、岩を撫でていた。
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「だから慎重にやれって言ったのに」
それは新聞記事。
『城跡から昭和初期の古銭が大量に発見される』
「偽情報に振り回されたり、バカなんだろーなー」
依頼人は琴音と同種の人間。
宝探しをする人間。
しかし、それで食べていける訳もない。
彼は仕事のあいまに、宝の噂を聞いては探し回る、アルバイトトレジャーハンターだった。
しかし、宝探しには金がかかる。
メインの仕事の給料だけでは支えきれなくなった頃に、城跡の宝の情報を仕入れた。
しかし、自分ではその情報から探せなかった。
そこで、恥を承知で、有名な琴音に頼った。
他言無用としたのは、恥の問題と、公にすれば、文化庁と権利者に大部分が取られてしまうからだが
「夜中に一人でスコップで土掘ってればそら通報されるわ」
埋めた当時の大崎家の状況とは違う。
今は夜も人があふれている。
夜中にそんなことをすれば通報される。
「まあ、宝はあったので満足です」
新聞を読みながら、美味しそうに琴音はコーヒーを飲んでいた。




