探偵はカラオケボックスで高笑う(中編)
「准一も悩んでるみたいですねー」
カラオケボックスでパフェを頼み食べている琴音。
「難しいの?」
「凡人はあのヒントぐらいではたどり着けるはずがありません。まあでも准一には充分でしょう」
「琴音も?」
「私なんか分かるはずがありません。私は殺人事件関連の心理は素人なんです。今回は被害者が依頼人だったから分かっただけですよ」
琴音は瑞希の頭を撫でて
「准一はそのうち答えを導き出して、この部屋に駆け込みますよ。それまで甘いもの食べていましょう」
「うん!」
准一は資料を見直していた。
そして
「実行犯は分かった。だが、なんでた。なんでこんなややこしい事件を起こした」
そこが分からない。
「琴音がカラオケボックスにいたのは依頼の為、としか思えない。となると、本当はあのパーティールームに呼んでいた5人というのは……あ!計算あう?あ、あわないか。一人合わない。うーん」
突然電話を掴んで
「署長、風村との接触は?」
『なにが?』
「容疑者と風村は接触してるのか?って聞いてるの」
『え?容疑者分かったの?』
「カラオケボックスの店員の榎本桃香、店長の大原幹夫。この二人が容疑者。風村と接触しているか調べて」
『ええー。あの二人?そら調べたんだよ。でも事前の被害者との接触はゼロだよ?』
「あんな儀式的な殺人事件、よっぽどこじらせた感情だよ。家系から辿って」
「さて、その上でだ。風村の仕事じゃないという前提で色々考えますか」
急ぐ必要はない。じっくりと構えて資料を並べていた。
するとすぐ電話がかかってくる
「はいはい。もう分かったの?」
『調べるの面倒だから、風村に直接聞いた』
「はあ?そんな適当な」
『被害者に琴音ちゃんを紹介したらしいよ。容疑者には接触してないし、取り調べしてもらってもいいよって』
「ああ、とりあえず信じますよ。風村の仕事にしては大仰しすぎる。こんな怨念じみた工作しないでしょうしね。でも5人の意味は分かってきたなぁ」
風村、琴音、瑞希、そして容疑者の店員である榎本、大原。
集まる予定の5人は分かった。
次、なんのために?
それは宝探しだろう。他に考えられない。
仮想通貨のベンチャーの宝探し。
琴音に聞けば教えてくれるだろうが、それはなんとなく嫌だ。
それよりも、なんでそれがあんな殺人事件になるのか。
「十字架に生贄……。はらわたを刺し貫く。これは要はキリストだろ?キリスト…?」
資料をもう一度、見直す
「容疑者はキリスト教関係ない。被害者は……?あ、カトリックなの?被害者が信者ってことは……あ、ああああ!!!!ここの取扱いの仮想通貨!!!!!これか!!!」
仮想通貨に様々な種類がある。
有名なビットコイン。
それ以外にもアルトコインと呼ばれる様々な仮想通貨がある。
ここの会社はこのアルトコインの取引に強かった。
その銘柄と説明の資料。
日本の会社で唯一取り扱っているアルトコインがある。
この会社の取引がキッカケで、大暴落を招いたアルトコイン。
その投資にはカトリック信徒の基金が絡んでいた。
「カトリックの信者が、カトリックに迷惑をかけた。その詫び?いや、それじゃ自殺でいい。これは詫びなんかじゃない。そもそも被害者の今後のスケジュールはびっしり埋まっていたんだ。会社もまだまだ諦める段階じゃない。他殺だ。だから?」
「わきやくー。わかったー?」
「あれ?瑞希君じゃん」
「パフェ食べ終わったから遊びにきたんだ」
「ああ、もうちょっとだよ。あと謎は三個だねー」
「琴音がね、『あと30分でエロい歌歌うから』って伝えてって」
「マジで!?30分かー。頑張るよ」
すると瑞希は
「ねえねえ、准一は、おねーちゃんとチューしたい?」
「おお。また良い質問だね。めっちゃしたいよ。瑞希君もしたいの?」
「うん。でも、なんでチューするの?」
「好きだからだね。もしかして、学校の子にチューせがまれてるの?」
「そう。みやちゃんって言う子が、すぐチューしようって」
「へー。モテるなー。そういう時はすぐしてあげれば良いんだよ。変に断ったり焦らしたりするから、付きまとうんだ。すぐしてあげればいい」
「わかったー。ありがとー」
瑞希は去った。
そして、資料を見直して
「儀式。復活か。相場が復活するってこと?」
スマートフォンを見ると
「うわ、上がってんじゃん。なんでやねん」
准一は色々クビを捻りながら唸っていた。
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「おねーちゃん、ただいまー」
「はい。どうでした?」
「チューのアドバイスされたよ」
「へー。なんて言ってました?」
「すぐしてあげれば離れるよって」
「ああ、それはそうかも知れませんね。准一はそういう駆け引き上手いですから、参考になるかも知れません」
うんうんと頷く琴音。
「じゃあ準備していますか。抜群にエロい歌を浴びせかけてやりましょう」
琴音は力こぶしを作り、気合いを入れていた。
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「署長、全部分かった」
『オーケー。詳細は署に戻ってからね。とりあえず概要教えて』
「実行犯は大原と榎本。大原は睡眠薬を店に入るときに被害者に飲ませている。榎本は起こすような素振りでナイフで腹を突き刺してる。返り血を浴びていたけれども、それは調書によると、揺すったときに付いたと言ってるみたいだけどね」
『あの2人の犯行動機は?』
「仮想通貨の相場復活。今回の事件で、ある仮想通貨の相場が上がっている。その為の儀式」
『人殺したら相場上がるの?』
「信じる者は救われる」
『なんだそりゃ』
「まあロジックは説明出来るよ。帰ったらね」
『なんかバックがあるの』
「神のみぞ知るってね」
『どーいうことー?』
「帰ったらねー」
『まあいいや、榎本と大原ね。手続きするわ』
「よろしくー」
「ことねー。わかったよー」
ドアを開けると
『Je ne fais que penser à toi♪』
「また、英語ですらない!?」
琴音はもう歌っていた。
「わきやくー、うるせーぞー」瑞希
「なにこれ?フランス語?エロいかどうかも分かんないじゃん、これ」
琴音は綺麗な声で歌い上げる。
「発情した?」
「ごめん、タイトルも見てないので、全く言葉が分かりません」
「それは残念。で、もう私達はいい?」
「殺人事件の全容は分かったよ。ただ、琴音の依頼が分かんないな。被害者に呼ばれたんでしょ?なんで来ない依頼人をいつまでも待ってたの?」
准一はそこが分からなかった。
「加害者の属性が分かったならば辿り着くでしょう。私も警戒していたのです」
「瑞希君来てから慎重になってきたね、琴音」
「そうですね。瑞希は私の宝です。最近自覚してきましたよ、臆病になってきたなと」
「まあ、でも良いことだよ。じゃあそういう事で」
「はい、わきやく。これおねーちゃんの曲」
「お!瑞希君!ありがとー!」
瑞希が曲名を書いてくれていたのだ
「では、准一、また会いましょう」
琴音は笑いながら言った。
「読めない」
六歳児が、教わってないフランス語を書けばこうなるか、的なヘンテコリンな記号が書いてあった。
「たしか歌えば検索できるサービスあったでしょ。歌ってみようかな」
まだ琴音の歌は憶えていた。
歌っていると
「おお!引っかかった」
タイトルは
「Je te veux(あなたが欲しい)」
「まあ情熱的なタイトルだねー」
カラオケに配信されるぐらいなので、ちゃんと訳詞もあった。
「どんなエロい歌詞……」
スクロールすると
「……ええ~?これカラオケ配信オッケーなの?フランスすげーな」
内容は直接的な性行為を連呼する激しい内容なのだが
「ああ、でもいい歌詞だね。身体だけの関係の悲しみかぁ。でも心がこもったセッ○スなんて偽善はクソ食らえってね。うん。うん」
准一は頷いていた。
「なんか不穏なこと言ってないで、この説明してよー」
准一が書いた推理文を署長が持ってくる。
「はいはい、しますよ。このままだと10人単位で人が死にますからね。ああ、面倒だなぁ」
准一は欠伸をしながら、書類を書いていた。
劇中の歌詞と作品は架空で、実在の曲ではありません。




