探偵はカラオケボックスで高笑う(前編)
早森琴音はカラオケにいた。
「みずき。なにか歌える曲ありますか?」
「うーん。どんぐりころころ」
「では、いれますか」
「ことねー。歌う前に話しよーよ」
カラオケボックスには、琴音と瑞希、そして准一がいた。
「で?私達は今の事件には関わっていませんよ?」
「いやいや。カラオケボックスでの殺人事件。そこにたまたま琴音と瑞希君がいた?琴音、カラオケなんてしないだろ?」
カラオケボックスで殺人事件が起こった。
カラオケボックスには監視カメラが必ず設置されている。
犯人の特定はすぐ済むはずだった。
ところが、被害者である鈴木謙介は、ずっと一人で部屋におり、歌うことも無くずっと椅子に座ってうずくまっていた。
容疑者らしき人物は誰一人として映っていない。
死因はナイフによるわき腹から腹部を刺し、貫いたことによる出血多量の死。
その傷は自傷では不可能な傷跡だった。
他殺なのは明らか。
その血は室内のみで、廊下には一滴も検出されなかった。
室内での犯行としか考えられない。
映像は途切れていない。
警察は混乱し、准一を呼び推理をさせたのだが、その映像を確認していて准一は叫び声をあげた。
その日の映像を全てチェックしていると、琴音と瑞希がいたのだ。
そこで准一は、該当のカラオケボックスに、瑞希と琴音を呼んだのだ。
「あら?准一。わたしは声だけは綺麗と言われるんです。歌は得意ですよ?」
「あ、じゃあ聴いてみたいな!エロい歌唄って!」
「はいはい。まずは瑞希からですよー」
「じゃあ、うたうねー」
音楽に合わせて、瑞希がどんぐりころころを唄う。小学生らしい、純朴な歌い方。
「瑞希うまいです。じゃあ次は私です」
琴音はマイクを持つ。
その間、准一はずっと考えていた。
(琴音は基本的には無駄なことをしない)
この歌はヒントだ。多分琴音はこの曲でヒントを与えようとしている。
そう思ってその歌詞に集中しようと画面を見ると
『Ave verum corpus K.618』
「は?」
画面表示されたのは、モーツァルトのオペラ。
そして
「ア~~ヴェィ~~ ヴェ~ルゥム コ~ルゥ~プスゥ~~~」
「英語ですらないじゃん!!!これ何語!?」
「うるさいですよ、准一。歌の最中に邪魔しないでください」
「わざと言ってるよね!?琴音!」
「うるさいぞー。おねーちゃんの歌きかせろー」
結局、琴音は歌い終わるなり
「これで充分だろう。出ていけ」と准一を追い出した。
准一は歌の和訳の歌詞をネットで確認する。
『素晴らしきかな、処女マリアより、生まれ給いし……』
賛美歌だった。
「これでなにを伝える気なんだろーな。琴音は」
読み進めると
『人の為に苦を受けて、
十字架の上に生贄となり、
脇腹を刺し、
貫かれ…』
目を見開く准一。
「わ、まんまのヒント来るの?これ」
『水と血を流し給われた。
願わくば我らのために、
死の試練を知らせたまえ』
「え?終わり?」
事件と重複するのは
「わきばらを、刺し、つらぬかれ」
のみ。
「ええっと、事件を整理しよう。被害者は鈴木謙介。37歳、独身。今流行りの仮想通貨関連なベンチャービジネスの取締役。ところが、最近の暴落で業績が悪化する最中の事件、と」
准一は事件に関する資料をカラオケボックスの机に並べる。
「被害者はカラオケ好きだった。だが、今のところの聞き込みでは、一人カラオケが好きなタイプではなく、みんなで騒ぐのが好きだと。実際、カラオケボックス入店時には、後から人が5人来ると言ってパーティールームを借りてる」
事件直後の写真を見ると
「しかし、変な形で椅子が並んでるねぇ。ど真ん中に座って死んでると言うのも不自然すぎる。カメラがバッチリ映る席を狙ってるのかね」
カメラの視覚が存在しない、ど真ん中の席。
「だが、会社の社員や友人に聞いても、誘われた形跡はない。電話やメール、LINEの履歴もない」
准一は天井を見上げると
「監視カメラの映像は弄られた様子はない。被害者はずっと椅子に座って待っていた……あ?あれ?」
准一はスマートフォンの画面を見直す
「十字架の上に生贄、十字架!!!あのパーティールームの椅子の形、変だと思ったら十字架か!十字架の上だ!確かに!」
現場写真を見直す。
しかし
「うん、十字架の上で生贄。わき腹を刺し貫かれた。だからなんだ」
また行き詰まる。
「そもそも、なんで琴音がヒント出せるんだろうか。そこだ。なにか絡んでるのは確定。琴音は殺人事件の推理は専門じゃない。なんで、琴音が先にたどり着いているのか。それは事件の全容を知っているからに違いない」
「他殺…なのは間違いない。傷跡は明らか。だが、部屋には誰も入ってない……え?なんで入ってないの?」
准一が素っ頓狂な声を出す。
電話を取り出し
「署長!聞くの忘れてた!なんであの映像、誰も入ってないの!?」
『なんでって、入ってないから、入ってないんじゃないの?』
「注文は?だって、被害者は電話もなにもしてないじゃん。普通カラオケボックスって、最初に店員は入るんじゃないの?あと案内は?」
『調書に書いてあるよ。人が集まってから注文するからって被害者が伝えたらしいよ。案内も不要って勝手に行った。映像に一人で廊下行ったの残ってるでしょ?』
「そっかー」
『推理不調?』
「もうちょっと待っててー」
『あいよ。じっくり待つさ。普通の捜査じゃ分からなくてね』
「資料の読み込み不足だねー。琴音の登場で浮き足立っちゃったかな」
もう一度、一から調書を読み直す准一。
「予約は五時間。五時間後に連絡したが誰も電話に出ない。映像見てると一人で寝ているようにも見える。それで見に行ったら、死んでいた、と。で、通報者は、店長。目撃者は店員である榎本桃香。その時の映像っと」
映像を見ると、中に入り、声をかけたように見える榎本。そして肩を抱いて揺らす、そして、下を向くなり悲鳴をあげた。
「あ?ああ、そういうこと?」
准一はなにかを納得する。
その後、室内電話で店長を呼び出し、店長が慌ててやってくる。
「なんでこんな事になったのか、が分からないとなー。琴音のヒントはそこか。賛美歌になぞった殺人事件とか燃えるねー。殺人事件専門の探偵として、負けないようにしないとね」
作品内の歌詞の著作権について
https://syosetu.com/site/song/ve
verum corpus K.618
は「作詞家・翻訳家の没後50年が経過している場合は、著作権の保護期間が失効しているものとして原則対応対象外」に該当します。
その訳詞ですが、これは正確な訳ではないです。
ラテン語辞典を参考に、自分で訳しました。
あくまでフィクションとしてお楽しみ頂ければと思います。




