探偵は川の下で高笑う
早森琴音は今日も笑っていた。
「どうですか!クライアント!これこそが宝の筈です!」
依頼人の宮本駿は震える手で、その宝を持ち上げる。
すると、そこにはボロボロになった紙が入っていた。
「……おや?」
琴音は不思議そうにクビを傾げる。
依頼は父親の隠し財産を探して欲しいというありふれた依頼だった。
父親の行動から隠し場所を推定し、掘ったところ、頑丈な箱が出てきたので、琴音は見つけたと思ったのだが、そこには紙が一枚あるだけだった。
そこには
『よくここが分かったな。だがもう一ひねりだ。頑張れ』
琴音は怒ることも、申し訳がることもなく
「愉快なお父様ですのね」
「…も、申し訳ありません。確かに、親父はこういう人間でして……」
紙を受け取ると
「ああ、ヒントになってるんだ、この紙」
「なんですって!?」
「この点は不自然です。ヒントですよ」
文章中の点を指差す琴音。
「これは難易度高いですね。申し訳ありません。もう少しお時間頂いてよろしいですか?」
「もちろんですよ。よろしくお願いいたします」
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琴音は瑞希を連れて山を散策していた。
「事前調査にはどうしても限界があります。今回のようなね。その場合はもう、こうやって実地で歩き回るしかありません」
「うん。お姉ちゃんでも全部分かる訳じゃないんだね」
「私もまだ未熟ですよ。瑞希。私の夢は、あなたが私を超える事です。あなたと競うことで、私はより高みに昇れる。井の中の蛙ではだめなんです。レベルの高い人達の中で切磋琢磨しないとね」
琴音は微笑み
「でも瑞希、私は必ず今回の宝を見つけ出す。それを見届けてください」
「うん!」
琴音は慎重に山林を歩き回った結果
「点と点が繋がりました」
「分かったの?」瑞希が聞くと
「ええ。ヒントは解明しました。これでいくと、場所は山ではなく、降りた先ですね。家の方かな?」
二人は山を下り家のほうに向かう。
すると
「川ですね」
「川の下にあるの?」
「まあ有り得ないところに埋めてますね。川の下って。埋める時大変だし、埋めたあとに水がジャブジャブ下に浸透しますよ。コンクリートかなにかで埋めないと」
琴音は長靴に履き替えて、川の下を探っていると
「あ、本当に人工物の手応え。ビンゴか」
「さすがおねーちゃん、すごーい」
「まだ分かりませんね。かなりひねくれ者みたいですし」
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琴音は依頼人に場所の確認をし、川をせき止め、重機で川の下の人工物を撤去させた。
すると、大きな空洞が出てきた。
「しかし、なんでここまでやりますかね。本気でお父様の趣味を疑いますわ」
「本当に申し訳ないです。でも父を知っている身としては、やりかねないと思っています」
空洞に降りると、目的のものは見つかった。
前と同じ箱があったのだ。
「また他のヒントかも知れませんよ」
「流石にそこまではと思いたいです……」
開けると
「外れ、ですか、また紙ですね」
「い、いえ当たりです。この紙は宝です。さすが早森さん。本当にありがとうございます!」
「……?それで良かったのですか?まあクライアントが満足されればそれで良いのですが」
「はい!ありがとうございます!」
琴音に見られたくないのか、その紙を隠しながら、宮本は早口で話していた。
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「あれ、なんだったんですかねー。あんな人工物を作ってまで埋めた物が紙っぺら一枚?そんな馬鹿な。私の予想だと、あれもヒントな筈なんですが」
「ことね。多分だけど、あれはやっぱりヒントで、あの人でも分かる内容だったから追い返したんじゃないの?」
「瑞希、良い予想ですね。でもね、もう依頼金は振り込まれているんです。宝を見つけようが、そうでなかろうが、払う金は一緒です。今回はそういう契約ですからね。最後までいても一緒だったんです。途中で返す理由はない」
「うーん、うーん……なんだろーなー」
「まあ、いいです。ご飯にしましょう。なんか普通の宅配デリバリーばかりだと食塩取りすぎるそうなので、今度から塩分の調整もしてくれる宅配サービスに切り替えました。美味しいと良いですね」
「うん!お腹すいちゃった!」
二人は仲良くキッチンに向かった。
食事をして、風呂を浴びると
「わ、おねーちゃんのベッド広くなってる」
「ええ。いつもみずきが来るので広いのに変えました」
「わーい!一緒にねよー」
すると
「ああ!分かった!あの地図は死体の埋め場だ!」
琴音が唐突に言う。
「死体?」瑞希がきょとんと言う
「あの最初のヒントがずっと気になっていました。なにか解き明かしていない物がある。ずっと引っかかっていたんです。その答えが分かった。あれと、見つけ出した地図を重ねれば浮かび上がるんだ。そして、私が見た地図の文字を解読していけば、『死体』と言う文字が浮かび上がる」
「宝って死体?」
「でしょうね。多分ですけど、クライアントにとっての邪魔者を、親父さんは黙って殺したんじゃないですかね?それの場所を知らせた」
「なんでー?」
「墓場まで持って行く秘密、と良く言いますが、そう言うのって結構無理みたいですよ。どうしても言いたくなったんでしょうね。でも出来るだけ見つからないように、あんな嫌がらせみたいな場所に隠したと。人間の心理は複雑怪奇」
琴音は瑞希を抱きしめて
「みずき、私達はそんな複雑怪奇な人間の心理を解き明かすのが仕事です。これからも頑張りましょうね」
「うん!」
二人はそのまま抱き合って、ベッドで一緒に寝た。




