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探偵は社長室で高笑う

早森琴音の快楽の源は宝探しその物ではない。


誰かが懸命に探して、なお見つけられない宝を、あっさりと見つけ出す。


その時の依頼者が見せる愕然とした顔、自分の馬鹿

さに衝撃を受ける顔に快楽を感じていた。


その快楽を探し求めるために、琴音は日々の情報収集に余念がない。


誰かが必死になにかを捜していないか?


そしてそのモノはどこにあるのか?


琴音は、情報を整理し、現場に行く前に答えを用意しておく。


クライアントに会うとき、それは宝を見つけ出したときだ。


会うなり宝を見せ付ける。

だからこそクライアントは愕然とし、呆然とするのだ。


こんなに簡単な場所にあったのかと。


だが、実際は簡単ではない。

琴音は事前調査にかなり時間をかける。

そのために全てが疎かになっていた。

身嗜(みだしな)みは酷いし、食事もろくに取らない。


風呂は「身体が(かゆ)くなったり臭くなったりすると集中できない」と言う理由で毎日入ってはいたが、長い髪は「時間がない」という理由で放置することがある。



クライアントに会う時以外は身嗜みに一切気を使わない。

そんな無駄な時間は過ごさない。

身嗜みは、クライアントが愕然(がくぜん)とする様を見物するための正装以外に価値を見いだしていなかった。



今日も図書館に籠もる琴音。

今回は誰も来ない。

見ているのは大量の新聞。


「ふむ。もうそろそろ頃合いなんだけれども」

既に目を付けたお宝がある。

その場所も分かっている。

しかし、クライアントが琴音を呼んでいない。


もちろん、押しかけて宝の場所をバラすことも出来る。

しかし、以前それをやったら、相手は愕然とすることもなく、単に感謝だけしてきたのだ。


探偵に依頼せざるを得なくなるほど、追い詰められないと、あの表情は見せない。


だから琴音は待つ。


例えそれに人命がかかっていても。

================================



「ふむ。俺だけではなく、外部への依頼自体をしていないな。神戸(こうべ)氏は」

「そうですか」

風村と、いつもの店で打ちあわせ。


琴音は携帯が嫌いなのだ。

毎回メールでアポを取って、ここで話をする。


「琴音としてはもう死人が出る頃と睨んでいるのか?」

「ええ」


神戸家は資産家だ。

その遺産争い。

当主はまだ健在だが、その遺言は発表されている。

その内容が問題だった。


「会社は長男、土地、家屋は次男、それ以外のわたしの財産は全ての子に均等に分ける」


神戸家当主、菊蔵(きくぞう)の妻は無くなっている。

子沢山で5人子供がいる。


会社や土地家屋以外の財産も莫大だ。

それを五人で割る。


子供たちは不満もあったが、特に逆らわなかった。

長女、次女は既に嫁入りしているし、三男は自らの意志で家を飛び出ていた。

遺産が少ない、多いであまり騒ぐ気はなかった。


次男も、膨大な土地家屋を手に入れるので満足していた。

もちろん、土地の税金はかかる。

だが、それでも継承する土地家屋の資産は多い。


そして長男、(あきら)

これが問題だった。


会社はいい。

しかし個人資産が殆ど継承されない。

土地家屋は次男にとられるし、財産も1/5。


長男と次男の仲は劣悪だった。


そして、それを示唆するように、遺書にはこう書いてある。


「遺書作成から継承の間に、子の誰かが亡くなった際には、その与えられるべき財産は長男へと受け継がれる」



「あんな分かりやすい抜け道を用意されているのに気付かないとかバカなんですかね」

「バカなんだろうな。神戸晃氏の評判は良くない」


二人は週刊誌を片手に話し合う。

そこにはゴシップ記事で、神戸家の内紛が書かれていた。


「いくら俺であろうとも、遺産で揉めている真っ最中に長男が次男を殺したら、コーディネートのしようがない」

「あの遺書はその歯止めですからね」


遺書は公開されている。

子供の誰かが死ねば、長男に遺産が転がると明記してある段階で、誰かが死ねば、真っ先に長男は疑われる。

殺人なんてしようがない。


だからこそ神戸晃は悩んでいたのだが。


「しかし、それでも神戸晃は俺に依頼してくると」

「風村に連絡してくるぐらいならまだ理性が残ってるほうでしょうね。私が一番恐れているのは、風村に依頼せず、神戸晃が弟を殺すことです」


「もう、俺から売り込むか?」

「お任せします。が、わたしは自分から売り込むのは好きではありません」

「そうだな、まあ上手くやるさ」


携帯を取り出し

「ああ、どうもどうも、風村です。ご機嫌いかがですか?…ははは、それはなによりだ。今日電話したのはですね、神戸晃さんの件なんですが」

================================



神戸晃の前に立つ風村と琴音。

琴音は、真っ赤なドレスを着ており、髪も完全に整えていた。


「これはこれは風村さん。ようこそおいでくださいました。また、このような綺麗なお嬢さんもお連れとは驚きました」


「ええ、神戸さん。お忙しい中、時間を空けてくださって感謝しますよ。今日の話はあなたの悩みを多少は緩和できる内容なのですから」


「期待しています。おい、下がれ。また誰も人を入れるな」

秘書を下がらせる晃。


「本題から入りましょう。次男の(とおる)氏の殺害は止めた方がいい。ごまかしようが有りません」

顔が引きつる晃


「…徹との仲は悪いのは事実です。しかし、殺人など…」

「回りくどい言い回しはお互い止めましょう。私は殺人コーディネートを家業にしている。殺人まわりの動きは見れば分かります」


つい先日、ついに晃は何人かのイリーガルな団体と接触していた。


「…そ、そうですか。しかしですね」

「財産を1/5が辛いのは分かります。しかし1/3なら?」

「1/3…?もちろん、それだけあれば…し、しかし、他の兄弟を殺すと言うことですか?次男はともかく、他の3人は…」

晃は次男との仲は劣悪でも他の3人との仲は悪くない。

既に3人とも家を去っているのだ。殺すのも気が引けていた。


「そのような話ではありません。それは次男さんと一緒です。この時期に兄弟が死ぬのはあからさま過ぎる。そこで彼女を呼んでいます。琴音」

「はい。神戸晃さん。1/5を1/3にするお宝があります」

「お、お宝?」

「はい。あの遺書には抜け道があるのです」



琴音が宝の説明をすると

「な!なるほど!その通りだ!確かに!想像がつかなかったぞ!」

晃は驚喜(きょうき)していた。


「お宝を見つけただけでは、単に財産が減るだけです。そこで風村の出番です」

「な!なるほど!」


「次男の殺害のコーディネートは不可能だ。だが、琴音のプランならばコーディネートできます」


「そ!そうか!是非頼む!」

「それで、晃さん。お宝の目処はついていますか?」

「…い、いや。確かにうわさ話は聞いていたのだがな…」


「琴音は既に見つけています」

「な、なんだと!い、いや。だからこそわざわざ来てくれたんだな。それで、そのお宝は?」


「はい。新城パークネイト1204室にあります」

「…ん?新城パークネイト……な、何だと!?」

愕然とする晃。



「お宝である、菊蔵さんの隠し子。遺書の項目にある『全ての子』の条件を満たし、1/5を2/6にする切り札。彼女こそ、菊蔵の三女。名目上はあなたの長女でしたね。神戸優美(こうべゆうび)さん。ああ、今は中根優美(なかねゆうび)さんですよね。この前ご結婚されたので。彼女は、貴方の妻と、菊蔵さんの間に出来た子なんですよ。ご存知なかったとか?」



「ば、ばかな…」座りこむ晃。


「アハハハハハハハ!!!どうされましたか!?愛情をもって育てた娘が実は妹だったことにショックを受けられましたか!?」


「そ、そんな。し、しかし…だが…」


不義(ふぎ)の子ですし、殺すのに躊躇(ためら)いはありませんよね」

「ば!ばかな!」

「では財産を1/6になさいますか?」

震える晃。


「他人である私が知りうる事実ですよ?そのうち噂がまかれます。だからこそ機先(きせん)をせいして殺人を行うべきです。この段階での殺人ならば風村のコーディネートで誤魔化(ごまか)せる」


「ま、待て!例え!血の繋がりがなかったとしても!優美は!優美は!」

涙を流しながら、晃は吠えていた。

「だから血の繋がりはありますって。妹ですよ、あなたの」


「あ、あああああ…!!!」

床の上でのたうち回る晃。


「アハハハハハハハ!!!私は満足しましたよ!風村。あとはお任せしますわ」

「ああ。琴音。お前の出番はここまでだ」

================================



「楽しかったです」

いつものコーヒーショップ

「結局、晃は優美を殺した。俺の仕事も出来てなによりだ」


「子殺し、あ、いや妹殺しをする気持ちってどうなんでしょうね」

「不義の娘である妹に8億の価値は無かったんだろ」


有価証券等で60億の資産があった。

12億か、20億か。

晃は20億を選んだ。


「いつもと違うシチュエーションでしたけれども、ああいうのも良いですね」

「22年愛情込めて育てた娘が不倫相手、しかも親父の子供だったと分かれば、あんな顔もするさ」


もし優美が結婚していなければ殺す必要も無かったかもしれない。

晃の家の中の話としてまとめれば良いだけだ。


優美の結婚は3ヶ月前の話だ。

つまり


「あの馬鹿が、もう少し優秀だったら、あんな顔見せなかったと思うと、とても愉快です」


琴音はボサボサの髪のまま、コーヒーを飲み干して微笑んだ。

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