探偵は神木の前で高笑う
早森瑞希は転校先で黙っていた。
引き取られた早森琴音。
義姉にあたる彼女は「バカに関わるな」と瑞希に教育した。
瑞希は琴音を心から敬愛していた。
自分より頭がいい。そしてなにより、琴音は瑞希に優しかった。
瑞希の会話についていけ、行動も理解した。なによりも、瑞希を甘やかしてくれた。
なので、瑞希は「琴音に従っていれば間違いない」と、指示に従っていた。
小学校でも問題を起こさない。
その代わり、新しいクラスメイトに関わることもしなかった。
「早森君は心配ですね」
新人教師の中川は憂鬱そうに話す。
「ただ、彼は家族を失ったばかりとか。暖かく見守りながら様子を見るしかありませんよ」
ベテラン教師の鈴原が中川を励ます。
「そうですよね。なにも出来ないのはもどかしいですが、あんな小さい時に家族を失っているんです。心に大きな傷を負っていますから。慎重に対応します」
「そうです。ただ話しかけるだけが教育ではありません。暖かく見守り、大事な時に一言声をかける。これも大事なことです」
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鈴原のこの教育方針は、瑞希と、中川、そしてそのクラスメイトに幸いとなった。
もし、中川が積極的に関わろとすれば、瑞希は今までと同じように、邪魔者を排除しようとしたろう。
瑞希にとって、義姉である琴音と、教師である鈴原と出会えた事は幸運だった。
学校が終わり、琴音の学校に向かう瑞希。
今日はそのまま図書館で調べ物の約束があるのだ。
すると
「おや、瑞希君じゃん」
「おお、脇役」
准一とたまたま会った。
「学校帰りかい?琴音の家は逆方向だけど」
「図書館に行くのだ」
「ああ、調べ物か。琴音に会いたいけど、僕も警察に行かないといけなくてね。琴音によろしく」
「わかったぞー」
「楽しそうにしてて良かった。琴音と仲良くね」
「おう!」
学校に着くと
「瑞希、お疲れ様。それでは行きますか」
「うん!」
門の前で琴音が待っていた。
しかし、門の前は人だかりが出来ていた。
琴音はいつものボサボサの髪ではなく、キチンと整えていたし、制服もちゃんとしていた。
あまりの変貌ぶりに、話しかける男子が殺到していたのだが、琴音は無視をしていた。
「おねーちゃん、男に話しかけられてた」
「瑞希に伝えたように、バカは相手にしないことです。反応するだけ時間の無駄です」
「なるほどー。そーいえば、さっき、脇役に会ったよ」
「准一と?ああ、警察に向かう途中でしょうね」
「脇役もバカなの?」
瑞輝が聞くと
「いいえ。准一は天才です。近い将来近代史の教科書に名前が載るようなね」
微笑みながら琴音は言った。
「あいつは脇役ですが、知能は恐ろしく高い。なにかあったら頼りなさい。風村よりも准一の方が良いでしょう」
「分かったよー。かぜむらっていうのはダメなの?」
「頭は良いですが、職業が不味いです。貴方との相性は最悪です。私の判断無く会わないように」
「うん」
「それでは図書館で調べ物です」
2人は椅子に座り、地図を見ながら話していた。
「今回はまだ依頼として成立していない案件です。私の調べ物の大部分はそれ。依頼が来る前に調べ尽くすのです。このケースでは、地主である遠藤氏が、所有の山林を掘り返している」
「なにかを、さがしてるってこと?」
「そうです。そこからどんどん推測していきます。山林は広い。その山林をどうやって探しているか。重機を使っているならば、探し物は頑丈なもの。そうではなく、手を使ったりしていると、それは繊細な物になる」
琴音は地図を指差しながら
「探す範囲も重要です。場所がある程度特定出来ているのか、それとも広範囲か。広範囲を探しているのに、少人数で掘り返している場合は、大抵は表に出せない金です」
「にゃるほど」
「いいですか、みずき。想像力は翼です。貴方には才能がある。想像力があれば、どんな宝も見つけ出せるのです。今回は一緒に考えましょう」
「うん!頑張るね!」
2人は仲良く図書館で調べ物をしているうちに、早々に答えにたどり着いた。
「みずき、素晴らしいです。恐らくそこでしょう」
「わーい」
「普段の流儀には反しますが、良い勉強です。今週末にも話に行きますか」
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週末、琴音は瑞希を連れて遠藤の元にいた。
「急に押し掛けて申し訳ありません」
「いえ。しかし、驚きました。こんな可愛らしい2人が来るとは」
風村経由で、話があるので、お会い出来ないか?とアポを取っていた。
「単刀直入に申し上げます。私の商売は宝探し。ありとあらゆる宝を探し当てるのが仕事です。そんな時に、遠藤様が所有の山に宝があると知り得たのです」
「!!!???な!?そ、そんな!?」
驚愕の表情を浮かべる遠藤。
「宝を探していることを知り得たのではありません。宝の場所を知り得ました。別に横取りする気もありません。見つけたお宝は全て遠藤様の物ですわ。実際にそこにあるかだけ確かめたいのですが」
「も、もちろん!出てきたら謝礼もします!」
「ありがとうございます。それでは行きましょう」
遠藤と、琴音と、瑞希は、山中にいた。
「山に宝を埋めるというのは、ありふれた話なのですが、見つけだすのは実は大変でして」
遠藤に話かける琴音。
「ええ。それは思い知りました」
「山、特に山林は目印が役にたたなくなる。木は育つ、土は削られる、土砂崩れとか起こしたら、どんな目印も意味が無くなる。この山もそうですね。土砂崩れの跡がある」
「その通りです。もう少し早く宝の地図が見つかっていれば」
「まあ、地図見ても無駄ですよ。形が変わっています。大事なのは、埋めた人はなにを考えていたかです」
琴音は立ち止まり
「クライアント、これは極めて単純な話です
。隠した宝の場所が分からなくなったら困る。だから目印をする。でも、山火事とか、土砂崩れとかある。それでも埋めるに値する場所はどこか?そう考えていけば、そんなに難しい話じゃない」
琴音は大きな木を指差し
「古木。500年以上生き残った古木ならば、これからも無くならない可能性は高い。そう、可能性の話ですよ。可能性の高いところに宝を隠すのは合理的」
「な!なるほど」
「でもですね、これでは無いんですよ。この山にはもう一つ古木がある」
「……古木……?ああ!まさか!神木!?」
「はいです。神木と奉られている木。そこにあります」
「で、でも、そこは」
「掘りましたね?それも知っています。でも違うんです。地面じゃないのです」
「地面じゃない?」
「はい。地面ではない場所に宝がある。もうお分かりでしょう?」
「まさか!?」
「そう、木の中」にこりと琴音は微笑み
「予想があたると良いですね、みずき」
「うん!」
宝はあった。
予想通りに、神木の木のウロに巧妙に隠されていたのだ。
宝とは黄金。これならば、例え神木が雷にうたれても変質はしない。
遠藤は2人に深く感謝し、琴音は気持ちよさそうに笑っていた。
そして
「こんなふうにですね、自分から押し掛けてしまうと、向こうは感謝しかしないのです。だから私は好きではありません」
「うん、僕もふまーん」
「素晴らしいですわ。これからもバカ面見るために頑張りましょうね、みずき」
「うん!お姉ちゃん!大好き!」
2人は幸せそうに手をつないで帰って行った。




