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探偵は弟子の前で高笑う(後編)

名取瑞輝は、早森琴音に引き取られた。


その家は大騒ぎだった。

「みずきー。ごはんだよー」

琴音が呼ぶと

「わああ!!!しゅごい!ハンバーグだ!エビフライだ!」

「ファミレスの宅配定食です。デリバリーですし、チェーン店ですが、意外と美味しいですよ」

「いただきまーす!」


「みずき、いいですか。学校はバカに対して、バカが教える無駄な機関です。ですが、社会の殆どはバカです。そのバカとのつきあい方を学ぶのが、あなたの通う理由」


「うん!小学校、せんせいもバカしかしないから、変だと思ったんだ!」


「バカは相手にしないことです。関わるだけ時間の無駄です。そんな事よりも、なすべき事を考える。あなたは才能がある。きっと宝探しのプロになれます」


「うん!頑張る!」




「あの少年はどうだい?琴音」

コーヒーショップで風村と会う琴音。

依頼の打ち合わせだった。


「転校先の小学校では問題を起こしていません。協調性がないとか、誰にも話しかけないとか言われていましたが、まあ些事です。関わって殺すよりマシでしょう」


「何人殺したんだ……?」

「さあ?直接はないのでは?子供の体力ですからね。そもそもあの知能があれば、人を死に導くのに、直接手を下す意味がありませんし」


「それで、琴音はあの子をどうしたいと?」

「准一に預ければ、稀代の女たらしに。風村に預ければ、一時の私のような殺人クリエイターに。私が預かれば、トレジャーハンターに」


「なるほどね。しかし、懐かしいな。殺人クリエイターか」

「風村の理性に感謝しますわ。私は今の仕事の方が好きなので」


「そうだな。あれは流石に俺も恐ろしかった。今の方が似合っているよ。琴音」


風村はコーヒーを飲み

「で?今回の仕事に少年を連れて行くのか?」

「ええ。実地が一番です」




依頼はよくある、先祖の隠した遺産探し。

古屋敷のどこかに、江戸時代の小判がある。という話だった。


「みずき、よく聞いてください。宝探しの基本は事前調査です。事前調査で八割の宝の場所は分かります」

「うん。そこで探さなくても分かるの?」

「現地は最後の確認です。最後のピース。その前に他の全てを埋めることが大切」

琴音は屋敷の見取り図を広げ


「いいですか、外部の私に頼む前に、基本的には、他の人間が探し尽くしているんです。それでも見つからない。それが前提です。人が探す盲点にそれはあると考える」


「そもそも、そこに無いというのは?」

「無論あり得ます。というか、殆どはそれです。けれども、あるかないか分からない。という考え方では探し方が半端になります。良いですか、見つからない探し物の気概の殆どはそれです。まずは必ずあると設定し可能性を追究し続けるしかありません」


琴音は古屋敷の見取り図を見ながら

「間違いなく、ここには求めている宝があります。そのつもりで見てください」

「うにゅ。バカは見つけられなかった」

「バカでも執念深いですよ。かなりのお金ですからね。だから、普通に探してある場所にはない」


真剣に見取り図を見る瑞希

「ことねは、もう分かったの?」

「ええ。今回のケースは何度か受けたことがあるので。瑞希、でもいきなりは難しいですよ。よく考えてください」


瑞希は「たぶん、ここ」

「ほう。どうしてですか?」

「ほかに無いから」

「良い考え方ですね。それでは答え合わせにいきましょう」



琴音と瑞希は依頼人の家に来ていた。

「クライアント、お待たせしました。早森琴音です。それと助手の弟、瑞希です」

「いや、驚きました。美しいお嬢さんと、可愛らしい少年が来るとは」

「ご安心ください、クライアント。私は確実に宝を見つけ出しますわ。既に目処は付いています」

「本当ですか!?依頼は小判なのですが、本当にあるのですか?」

「あります。ただ、クライアント。先に言っておきます。江戸時代の小判は、時期により価格差が激しい。一枚数万円とかもザラです」


「ああ………、小判の価格差は知っています。それでも、それなりなお金にはなるかなと」

「真贋の鑑定は必要ですが、見つけ出してすぐそれがなんの時代かは分かる鑑定は出来ます。そこからの話ですが」

琴音は話しながら移動。


「みずき、この部屋です」

「うん」

瑞希はスタスタと台所に入り、床をはがそうとしていた。


「あ、あの」不安そうに依頼人が琴音に聞くと


「私の依頼の前に徹底的に探されたはずです。それも複数人が、十年単位で」

「はい。そうです」

「私に来るのはそういったものばかり。だから、その探し方を見ればおのずと浮かんでくるものがあります。それが盲点」


「盲点ですか?」

「ええ。人には盲点がある。まさかそんなところには無いだろうと思っている場所は、そもそも探す選択肢に入らない。どんなに懸命に、すべてを探したつもりでもね」


台所の下には味噌などの保存庫があった。

「保存庫は探されましたよね」

「はい、もちろん。ここは昔からある場所です。真っ先に探しました」


「そうです。その真っ先が盲点になる。この保存庫、深すぎませんか?なんでこんなに厚みが必要なんですか?そして、この梯子、頑丈すぎる」


そして

「ことねー!あったー!」

瑞希の声。


「隠す小判の大きさを考えれば、子供が隠れる大きさがあれば十分。梯子の段差の隙間。そこにお宝がある。良かったですね、変にここを壊さなくて。小判とはいえ、傷付いたら価値が落ちます」


「な、中身は!どれぐらいの量!」

依頼人が興奮して言うを


「ことねー、もてなーい」

「みずき、触れないでください。私達は見つけるのが仕事です。触れるのはクライアントの特権です」


場所を譲り、クライアントが壺を開けると。

「……古銭ばかりか…小判は…」依頼人はがっかりしたように立ちすくむ

「……これだけです。10枚しかありませんでした。どれぐらいしますかね?」

依頼人が取り出した小判を見ると琴音は絶句した。


「どうしました?」

「く、クライアント、それは、小判と呼びません」

「え?違うのですか?」

「大判です。それは大判。正確な鑑定は専門家に任せるべきですが、墨書みるに慶長大判です。となると」


「凄い価値が?」

「一枚、一千万を下回るとは思えません」

「な!?なんですって!?」

驚きのあまりに落としそうになるクライアント。


「古銭含めれば、一億どころの話ではありません。おめでとうございます、クライアント。恐らく希望した価値は上回るかと」

「ありがとう!ありがとう!いや、こんな事が!」


「でも、この仕掛け、うちの瑞希が即分かったように、お子さんなら気付けたかも知れませんね。過去そういうお子さんはいたのでは?」


すると、依頼人の顔が青ざめた。

「……た、たしかに。甥っ子が、ここの梯子は変だ…と」

「子供の勘は恐ろしいものですわ。それでは失礼致します」

愉快そうに琴音は笑い立ち去った。



「正解だったー」

「はい。流石わたしの弟です。あのクライアントの顔見ましたか?」

「うん。バカ面してた」

「はい!私達はああいう顔をかてに宝を探すのです。これからも頑張りますからね」

「うん!」

2人は仲良く帰っていった。



その夜

「おねーちゃん。また一緒に寝たい」

「あら。みずき。せっかく瑞希用の布団とベットが用意出来たのに」

「僕、おねーちゃんと一緒に寝るのがいい」

「仕方ありませんね。まだ早い時間ですが、一緒に寝ましょうか」

「うん♪」


瑞希は嬉しそうに琴音の胸に抱きついた。

「おねーちゃん、大好き♪」

「ええ。私も優秀な弟は好きですよ。お休みなさい」

「うん♪」

2人は本当の姉弟のように仲良く、一緒のベッドで眠っていた。

=====================



風村と准一はコーヒーショップで会っていた。

「あの少年はマズいのでは?」准一が問う。


「ああ、ヤバいね。6歳で既に何人も殺してる。自分の手は汚さずにね。人の命なんて紙屑とも思っていない。虐待をされていたらしいが、それにしてもな。今回の件は元々暖めていた大量虐殺計画を、俺の案件に被せて来た話だ」


「そんな少年を引き取って、琴音は大丈夫なんですか?僕や風村さんならばまだ監視できたと思いますが、あの家は琴音と少年しかいない」


「まず、あの少年は琴音に深く懐いている。敬愛に似た感情だな。初めて自分より賢い大人に会えたと感動しているらしい。殺すことはしない。むしろ、琴音を奪う方へ危害が向くだろうな」


「それはそれで……」

「それと、琴音だ。あの心境の変化は驚いた。弟子を取る?宝探し以外は些事だと身嗜みもろくにしない琴音がだぞ?俺は良い傾向だと思う。予想だが、彼女は仲間を求め始めてきているんだ」


「仲間、ですか」

「自分と対等に話せる仲間。現状は俺や准一君ぐらいだが、2人ともトレジャーハンターではない。琴音は自分の驚きや喜びを、対等な人と分かち合いたいという欲が湧いて来たんだ。素晴らしいことだ」


「では、風村さんてきには、今回の件は問題ないと」

「大有りだな。心配なことばかりだ。だが、琴音の身の心配はしなくていい。しかし、良かったなあの少年が幼くて。あと五年もすれば彼は絶望するぞ」


「?何故ですか?」

「義理とはいえ、弟になれば結婚は出来ない。対等な異性と結婚したいという願望は間違いなく生まれるだろうな。その時が心配なぐらいだ」

「ああ、なるほどー」

准一は頷き


「まあ、でもなんとかなりますよ。僕の彼女達も、結婚出来なくてもいいから側にいたいって子多いですし。自分への言い訳は、みんなやれてしまうんですよ」


准一は朗らかに笑い、風村は苦笑いしていた。

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