探偵は弟子の前で高笑う(中編)
「おじきー。話があるんですがー」
「わ!待ってくれ!琴音!」
琴音はキチンとした格好で康平の家に来ていた。
「ああ、今更エロ動画隠しても無駄ですよ。それより、叔父貴、結婚する気あります?」
「け!?けっこん!?誰と?」
「誰でもいいんですが。叔父貴も良い年です。そろそろ結婚を考える年でしょう」
「でもな、こんなおとこじゃ…」
「一億ぐらい積めば、とりあえず顔面と性格に目を瞑る人はいるのでは?キャバ嬢とかどうです?」
「あ、いや。そう言うのは、ちょっと……結婚には愛がないと」
「……叔父貴、愛をもらえる宛てがあるんですか?」
キョトンとした顔で琴音が言うと
「……ない」
へこむ康平。
「いいですか、叔父貴。生き方は自由ですが、ご自分の評価は正確にされた方が」
「……そうだよなぁ……。姪っ子に養われてる俺が、愛を求めるとか……」
康平は地面に倒れ込んだ。
「まあ、無理ですね。次に行きますか」
琴音はある少女と会っていた。
「え、えっと。准ちゃんの知り合い?」
「はい。実は准一の事で話がありまして」
琴音は准一が妊娠させた少女達と会っていた。
准一と結婚できる策がある。
ただし、養子として血のつながらない少年を受け入れる必要がある。
そう伝えたのだが、その少女達はみな困惑した顔をしていた。
曰わく「別にわたし、准ちゃんのセフレでいいし」
「あいつ本当に疫災ですねー。どーすっかなー」
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琴音は風村と会っていた。
「あの少年は見所があります。育てたいのですが」
「それはそれは。他者に興味を持つなんて素晴らしいことだ」
「風村、あの事件がなんでああなったか気付いています?」
「……琴音、お前に弱音をはきたくはないが、実際あれは俺の仕事が失敗したと言うことだ。こんな事は今まで一度も無かったのだが」
「それをしでかした6歳ですよ。将来有望だと思いません?」
「なんだと!?あいつが!?あ、いや!まさか……た、確かに。依頼時には同席していた」
「天才に年齢は関係ありません。まだ6歳ならば、倫理観もまだ不完全。決断力もある」
にこりと琴音は笑い。
「風村、あの少年はマズい。施設なんて行ったら、確実に虐められる。あの知性と無邪気さが、同世代と仲良くできる訳がない。その結果なにが起こるか。私は施設皆殺し殺人事件とか見たくないです」
「引き取るか?それにしてもな」
「叔父貴に相談しましたが、無理そうでした」
「……いや、俺もそう思うぞ」
「次に准一の彼女達。彼を引き取れば結婚出来るぞと吹き込んだのですが『別にセフレでいいし』と断られました。本当にあいつ疫災です」
「すごいなー、准一君」
「風村、あなたのつてでなんとかなりませんか?」
「琴音、単なる養子縁組みならば役にたてるだろう。だが、それほど危険な少年を囲えるという条件となると、かなり難しいと返事をせざるを得ない」
「風村は結婚なさらないので?」
じっと風村を見る琴音。
「ないよ。俺は家庭など持てる性分じゃない。守るものが出来れば、こんな仕事出来ないからな」
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早森洋平はメールを見て叫び声を出しそうになった。
娘、琴音からのメール。
そんなもの今まで一度もない。
中身を見ると
「相談?琴音がか?」
二人の仲は劣悪だ。
特に娘の琴音は、父親の洋平に対して憎悪に近い感情を抱いているのだが
「なんの話だ?まあ会うか」
その夜、予定をあけ、レストランで琴音と待ち合わせをすると
「お久しぶりですね、親父。相変わらず元気そうでガッカリです。たまには死にそうな顔見せてくれませんか?」
「相変わらずで安心した。なんのようだ」
二人とも余計な話はしないタイプだ。
「結婚を考えていまして」
「誰とだ?」
まさか康平が手を出したのか?と怯えた後、いや、叔父、姪は結婚は不可能だと安心する。
「吉野原准一というヤリチンですね。事情がありまして。引き取りたい子供がいるんです」
「……子供?」
「ええ。六歳、天涯孤独。なかなか優秀なのですが、施設に入れられそうになってまして」
「同情するのだな、お前も」
「ええ。同類がシリアルキラーになるのを黙って見ているのも心苦しくて」
「…シリアルキラー…。まあ、理由は分かった。子供を引き取るのが目的か。ならば、お前の弟としてはどうだ?」
「弟?あなたの息子として引き取るのですか?あなたの教育とかクソ食らえなんですが」
「俺も育てる気はない。育てるのはお前だ。17の子供が結婚とか世間体が悪すぎる。子供を引き取るのが目的なら、別にそれでいいだろう」
「ええ。それで構いません。手続きや書類はこちらで代理人だしますから、判子ください」
「しかし、お前、結婚とか軽く考えすぎだぞ」
「あら、まさかあなたにそんなこと言われるとは」
冷笑する琴音。
洋平は既に3婚目だ。
「まあ、義弟として受け入れは最良だと思います。感謝しますわ」
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琴音は准一に呼び出され会っていた。
「義弟として受け入れることにしました」
「えーーー。結婚しよーよー」
「親父にそう言ったら、許可しないそうですよ」
「なーんーでー。かなしいーなー」
「まあ、それはともかく。答え合わせは出来ました?」
ニコッと笑う琴音。
「ああ。風村の仕事ではないという僕の予想も大きく外して無かったんだね」
「だと思いますよ。あれは、あの少年の筋書きです」
琴音はコーヒーを飲みながら
「虐待の噂がありました。知能が異常に高く、不気味で無邪気。親の話など聞かないし、理解の出来ない行動ばかりする。凡百な人間には耐えられないでしょうね」
「殺人計画を練ったのか?」
「風村は仲野の依頼は断った。その直後、抗議しに来た名取と会ったんです。そして名取は噂で知っていた風村に依頼した」
「そこまでは抑えたんだ。だが、分からない。名取はなにを頼んだんだ」
「被害者0で、仲野が逮捕されるようなコーディネートを」
「つまり?」
「恐らくですが、単なる揉め事を殺人未遂にしたてあげようとしたんです。そういう仕事も風村は受けていますから」
「それが、なんであの惨劇になった」
「風村の話から、そのコーディネートの話を聞いた少年は、自らの邪魔者を一網打尽にする策を思い付いた」
「邪魔者?」
「両親と親族」
「ばかな、まだ六歳だぞ」
「六歳だからですよ。知能は高いのに、モラルは6歳。親殺しのためらいはなかったのでしょう。少年は風村の話を理解してしまった。そして、そうやって殺人をねじ曲げることは可能だと知ってしまった」
琴音は溜め息をつくと
「少年がなにをしたのかまでは分かりません。恐らく風村はたどり着いてるでしょうが」
「末恐ろしいな。風村の工作を作り替えたのか」
「私への依頼はたまたまだったみたいですね。依頼料が高い風村の負担の話で、そう言えばあの山に宝の話があったよね?と盛り上がったのでは無いでしょうか」
「まあ、少年に会います。本人の意志を聞かないとね」
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「うん!たからさがしやるー!」
「弟子として育てましょう。私の家に来ますか?」
「うん!でもお爺ちゃんは?」
「おじいさまは病気です。病院で治療を受けるのが最善ですよ」
「じゃあ、おねーちゃんのところにいくね!」
話はすぐ終わった。
琴音は弁護士などを駆使して、養子手続きを即座に揃えた。
そして
「さあ!今日からここが君の家ですよ!」
「うん!僕今度はうまくやるね!」
「はい!今日からあなたは早森瑞輝!今までの過去など踏みつぶしなさい!私の弟子として!宝探し以外の些事などゴミですからね!」
琴音は愉快そうに高笑いしていた。




