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探偵はショッピングモールで高笑う

早森琴音は宝探しの情報収集に、常に全力を尽くしている。


勉強はおざなりだし、運動もろくにしない。

だが、成績は常に上位。運動神経も悪くないので、女子野球部の手伝いでも、それなりに活躍してしまう。


普段からボサボサの髪と、適当な服の着込み方のせいで、嘲笑の対象にはなっていたのだが、最近は違う目も向けられていた。



「早森、あいつウザくない?」

琴音のクラスメイト。

新庄佐織はイライラしていた。

理由は


「最近、あいつ男に媚び始めてるし」

国語教師の逸見、放送部部長の深山(ふかやま)の2人は、琴音に対する態度が変わっていた。


新庄はこの2人に好意を抱いていたのだ。


「なんで、あの変人がモテるのよ……ああ、ムカつく」

琴音は、その容姿だけではなく、言動も変人だった。


逸見に対しての長文の抗議文を出すのもそうだし、ある事柄に対しては異常に執着し雄弁となる。


普段は無口で、喋れと言われても喋らないので、その不気味さは異様だった。


「まったく、あんなののなにがいいんだか……」

ぶつくさ言っていると、目の前を琴音が通りがかる。

なにか足でも引っ掛けてやろうか。とイタズラ心が湧いたが


(……いや、いくらなんでもなぁ)

そういう嫌がらせをするのは抵抗がある。

自分の醜さを発露する嫌悪もあり。止めた。


すると

「素晴らしいですね。私も無用なトラブルを避けられて嬉しいです」

通りすぎた琴音が独り言を言う。


「!!!???」

もしかしてバレた?でもなにもしていないのに?

と振り向くと


「視線で分かりますよ。その葛藤も。誤解を解くと、私にとっては逸見先生とは国語の採点でやり合う仲なだけですし、深山先輩に至っては勧誘が迷惑過ぎます。新庄さん、付き合ってもらえませんか?」


「……随分饒舌に喋るのね。口を開くと分かるわ、あんたムカつく」


「そうでしょうね。だから私は無口なんです」

顔を覆い隠す前髪のせいで、表情が分かりにくいが、微笑み

「あなたの大切な人達の狂う姿を見たくないならば、私に関わらないでください」




帰り道、新庄は震えていた。

「なんなの、あいつ」

不気味すぎる。

あの容姿も相まって、邪術士のようだ。


「しばらく関わらないようにしよう……」

幸い琴音は授業中以外は殆どクラスにいない。

図書室を避ければ会わずに済む。


そう新庄は決意した。



その週の土曜日、新庄はショッピングモールで服を選んでいた。


「やっぱり安いなぁ」

口コミで話題になっていて気になって来たのが、口コミ通り安いお店。


「これも良いしなぁ。でもなぁ……」

今度友人も連れて来よう。そう思いながら服を見ていると



『あははははははは!!!!私にかかれば!こんなもの一目で分かりますわ!!!!』


身体がゾクッとする。

この声は

「……早森?」

ショッピングモールに来ているのだろうか?

それにしても、あの高笑いはなんなんだ。


それが気になり、声の方に行くと。


「ば!ばかな!ここが出来たのは10年前!親父が死んだのは13年前だぞ!!!」

「お父様の意向を汲んだ、誰かが埋めたんでしょうね。解説が必要ですか?クライアント?」


「ば、ばかな……有り得ない、まさか、裏切ったのか……」


そこには、派手な深紅のドレスをまとった少女と、震えている中年男性がいた。



「……?別人か」

新庄は野球を見ていないため、琴音の素顔が分からない。


目の前の人物と、クラスメイトの琴音が結びつかなかった。


琴音の方も、駆け寄った新庄を認識しても、なんの反応も返さない。


新庄はそのまま帰ろうとしたが



「お!おのれぇぇぇ!!!あいつめ!!!殺す!殺してやる!!!よくも騙してくれたなぁぁぁ!!!!!!」

突然、震えていた男性が、怒気を露わにし、猛然と走り出した。


「こ、ころす?」あまりにも不穏な言葉に戸惑っていると


「さて、バカ面見れたし、満足です。帰りますか」

琴音はそのまま引き上げようとする。


「ちょ、ちょっと!?あなた、あの人大丈夫なの?殺す、とか言ってたわよ?」

「?ええ。私には関わりのない事です。ご自由にされれば良いのでは」


「良くないでしょ!?なに、あの人冗談とかじゃなくて……?」


「冗談に見えないから、私にこうやって駆け寄っているのでしょう?本気だと思いますよ」


「止めなきゃ!もしくは警察に……」

「わたしは警察が好きでは無いのです。事情聴取で時間を縛られてしまうので。やるならあなたがしてください。あ、わたしはいなかったということで」


「そ、そんな訳にはいかないでしょ!?」


「人が死にそうだからどうだと言うのです?貴女にはまったく関係のない場所で起こる、関係のない他人同士の争いですよ?」


「だ、だからって」

「クビを突っ込みたいならご自由にどうぞ。ただ、ああいうの見てきた私から言わせると」

「な、なに?」



「人殺しに立ち会うと、人生狂いますよ」



結局、新庄はなにもしなかった。

追いかけることも、通報することも出来なかった。


帰ってきて家で震えていた。


「怖い。なんなの。怖い」

訳が分からない。分からないが。

あのまま帰ってきたのは正しかった。

なんとなくそう思った。



それから新庄はそのショッピングモールには怖くて近寄れなかった。

また、あの不気味な少女に会ってしまうのではないか?

そう思うと怖い。


似た声の琴音にも極力関わらないようにした。


しかし、そうしているうちに少しずつ、彼女の心は平穏を取り戻してきた。

あの時の訳の分からない恐怖は消え去りつつあった。



そんなある日

「り、リストラ!?」

「そうなんだ」

「お父さんの会社が大変になっちゃってね……」

「退職金は満額貰えたし、一応再就職先も決まった。ただ遠いんだよ」

「お父さんは単身赴任するって言ってるんだけど……どうする?」

「……そんな」戸惑いの顔。

だが


「いいよ。お父さんといっしょに行く。どうせ来年受験だしね。学校変わっても受験勉強やるのは変わらないよ」


「……ありがとう。嬉しいよ」

「そうね。家族でお父さん応援しましょうね」

ホッとしたように新庄の親は微笑んだ。



そして転校の手続きをしていると、琴音がテコテコと来た。


少し恐怖心をおぼえる。だが、突然


「すみませんでした」

頭を下げる琴音

「え?」

「判断を間違えました。世間って狭いんですね。勉強になりました」

「……え?え?」

なんだか分からない。

しかし、聞き返す前に、琴音はいなくなった。


「……?なんの件だろう?」

=====================



「流石に、目の前のクラスメイトのお父さんが、クライアントが社長やってる会社の社員で、社長の殺人の結果、会社がやばくなってリストラされちゃうとか、想像が追い付かないです」

「世間は狭いなー」

風村と琴音はいつものコーヒーショップで談笑していた。


「家族仲は良好で、ご本人も納得して転校されるそうなのでまだ良かったです」

「あそこで下手に止めに入って巻き込まれるリスクはあったから止めて正解だったんじゃないか?」


「警察への通報はさせて良かったと思いますねー。あれは私の判断がイマイチでした」

コーヒーをすすりながら

「想像力をもっと磨かないといけませんね。人の繋がりの力は凄い。日本は狭いなぁ。いや、世界も狭いのか」

琴音は愉快そうに笑った。

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