探偵は公園で高笑う(後編)
「……そうか、君も辛かったろうな」
「……う、ううううう……うわあああああん!!!」
号泣する少女。
あの後、兵一は少女の話など聞かず、暴力と恫喝で従えようとした。
その結果、少女は「どうせ殺人の罪で捕まるならば、お前を殺してやる!」とメッタ刺し。
「いやいや、俺も悪かったんだろうなぁ」
殺人など簡単には出来ない。
だが、溢れ出る感情は、時にこのような行為にいたる。
病弱の母親を人質に取られ、殺人の罪で刑務所に行け。と言われれば、これぐらいのことはしでかすか。とも思う。
そして
「どうする?自首するかい?正当防衛みたいには出来るよ」
「わ、わたしは。お母さんから離れるわけには…」
ガタガタ震える少女。
「まあ、無罪とはいかない。裁判もある。拘束時間は確かに長いが、当初の殺人身代わりに比べればはるかに刑期は短いと思うよ?」
「お、お母さんはお金がなくて。親戚の権堂さんに引き取られたんですけど、酷い扱いで。でも、その権堂さんもいなくなったら」
「なるほどね。まあでも諦めるしかないよ。これは誤魔化すような犯行じゃない。それにこれで生活保護が受けられるじゃないか。生活保護なら医療費は無料だ。安心して行くといい」
「で、でも。その手続きとか、母は寝たきりなんです。このままだと」
「……まあ、そういう事例はないわけではない。お役所仕事だからね。ましてや殺人犯の親だ。対応がおざなりになる可能性はある」
「……う、ううわわわわわわんんんん!!!」
また泣き叫ぶ少女。
だが冷徹に言う風村。
「まあ、関わりを持った以上、多少のことはやるけれどもね。こちらも商売なんだ。今回の件で依頼が無くなってしまったわけだし」
風村はそう微笑み出ようとする。
「おかね!せめて、お金があれば……あ、ああ!!!」
少女は目を見開き
「あ、あの!わたし!お母さんから聞いたことがあります!うちには宝物があるって!でもお母さんの病気で全然探せなくて!」
「ほう。どこにあるんだい?」
「は、はい。昔住んでいた団地の近くの公園に埋めたって……」
「住所は分かる?」
「は、はい!あと聞いた話とかも…」
「良いだろう。そこの宝があれば、君のお母さんを救おう」
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「風村、そんなメルヘンなお話を真に受けるとか、頭鈍ってるんじゃないですか?」
「いや、琴音。実際問題可能性は高い。なにしろ彼女はもう自首したんだ。宝が嘘なら母親は救われない」
「私としては宝が『肩たたき券』とかのオチを疑いますよ。そもそも貧乏で住居追われて、劣悪な環境の親戚の家に引き取られたんでしょう?宝があれば真っ先に掘ってますよ」
本来2人は生活保護を申請していたのだ。だが、親戚に金持ちがいるのが運の尽き。生活保護申請は許可されず、役所からの依頼を断るのも世間体が悪いと、権堂の家に引き取られていたのだ。
その結果扱いは劣悪だったのだが
「琴音の予想はここ?」
「頂いた情報だと、この公園一択ですね。この公園ならば区画整理される心配もないし、深く掘るような工事も入らないでしょう」
ここは親水公園。
かなり広い公園なのだが
「で?どこ?」
「さあ?地図も無ければヒントも無いのでしょう?当てずっぽですよ。今回は風村のお願いとの事ですから特別に来たわけで、応援も頼んでませんし」
そう言うとスコップを出し
「女性が掘ったのだから、根っこ付近はない。柔らかい土です。とは言え、時が経てばかなり締まりますけどね」
「適当か。こういうの久しぶりだな」
2人で公園を掘っていく。
「ユンボで良いじゃないのか?」
「宝がなんなのか分からないんですよ?油圧ショベルじゃ壊しかねない」
「しかし、漠然と、こんな広い公園を、掘り返すのか……」
「あら、私との付き合いも長いのに、信用してないのですか?」
「今回はノーヒントだろ?」
「だとしても、わたしは、宝探しのプロです」
笑顔になり、そして、スコップを突き立てた
「あははははははは!!!!発見です!私にかかればこんなものですよ!!!」
「もうか!物はなんだ!」
風村はそこに行くが
「……なんだこれ?」
「子供の玩具の宝石箱」
「違う子のじゃないか?」
「風村、その少女の名は『えみ』ではないですか?」
「ああ。そうだ……名前書いているのか」
「はい」
そして、宝石箱を開ける
「宝物、宝物ねぇ」
「これで宝石でも入ってればロマンチック」
中には
「紙っぺらと。まあそんなもんかね」
「まあ、お母様の似顔絵。可愛い」
すると、琴音の顔が真顔になる。
「風村」
「ああ、気付いた。これはすごいな」
「あの母親はなんでこれを掘り出さなかったんですか?」
「……分からん。聞いてみるか?どちらにせよ。届ける約束だ」
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2人は少女の母親に会っていた。
「これを」
「こ、これは、な、なぜ」
風村と琴音は、少女の母親に「娘から頼まれた」と、宝箱を渡したのだが、寝たきりのまま震える手でそれを受け取った。
「これは、証券ですね」
「は、はい……昔、夫が買ったもので」
「倒れた時、売れば良かったじゃないですか」
琴音が言うが
「もう、紙の株券は無効と言われてしまって……」
「???誰にですか?」
「え?ニュースでそう見て」
「……あの、電子化に切り替わりましたけれども、新しく証券会社に口座作れば済むはなしですよ。これ」
「そ、そうなんですか!?」
琴音は「バカは死ななきゃ治らないのか」みたいな顔をして
「可愛い絵ですね」
「ああ…この。はい恵美が描いてくれたんです。最初は大切な株券の裏に書いていてびっくりしたのですが」
「まあいい思い出じゃないですか。株券の手続きは風村がやりますが、この紙は記念に戻ってくるようにお願いしますよ」
「あ、ありがとうございます」
「よい娘さんですね。出てきたら誉めてあげてください」
琴音はにこりと微笑んだ。
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「長くないでしょうね」
「ああ、余命もう半年もない」
2人が見るに母親は限界だった。
診断書を見ると末期癌。
もう手遅れだ。
「あの少女にはなんと伝えます?」
「宝は見つかった。その金でお母さんは良い病院に行ったと伝えるさ」
「生活保護で行く病院と対応変わらないですけどね」
「まあ、ほら。本当はその手続きをお願いされたわけだからさ」
2人はあくびをして
「で、この事件の結果は?」
「役所があの親子に生活保護を素直に与えていれば防げた事件、もしくは、ちゃんとニュース見て証券会社に相談すれば救われた話」
「まあ、役所の怠慢と、無知とは怖いですわ」
コロコロ笑い
「まあ、どうせ権堂兄弟は殺し合い、お母様は病死。結末は変わりませんけどね。唯一救われたのは」
「ちゃんと取り分が貰えた俺だけ、と」
「大正解」
琴音は愉快そうに笑った。
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「なんだろーな。元の答えはなんだろーなー」
准一は歌いながら、メモを見ている。
「権堂兵一が弟の兵次を殺した。そして、兵次の殺しの身代わりとして恵美ちゃんが選ばれ、脅迫されたが、抵抗してメッタ刺しにしました」
准一が読み上げる。
「そんなバカなー」
間が抜けすぎてる。なんで素手で絞殺しているのに、身代わりが華奢な少女?で、身代わりを強要されたからってメッタ刺し?
「まあ、犯人が恵美ちゃんなのは確定なんだろうね。兄が弟を殺したのも確定。ではなにが書き換えられたのかな?」
これは風村の仕事。
だから元のストーリーが書き換えられているはずだ。
「なんだろーねー。なにかなー」
准一は懸命に考えていた。だが答えは出なかった。
「いつかは、超えたいなぁ。風村を。あと琴音とセッ○スしたい。今したい。超したい。メールしようっと」
琴音にメールを送りながら、准一は愉快そうに笑った。




