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探偵は公園で高笑う(前編)

殺人コーディネーターを名乗る風村の仕事はかなり複雑だ。


風村が関われば、事件は迷宮入りする。

そんな噂が警察にある程度には有名だった。


准一は警察に何度も「風村を監視して、接触した人間を取り調べればいい」

と進言していた。


しかし、准一の話の前から警察は一度、それを試みていたのだ。

その結果は大失敗に終わった。


証拠は出てこない。

さしたる根拠もない拘束が故に弁護士からの抗議は苛烈だった。


その頃には、見た目有力な容疑者がマスメディアで注目を浴び、各社の報道はヒートアップ。


警察は冤罪で別人を拘束している。真犯人らしき人物は堂々と生活しているのに。


このような話は、マスメディアだけではなく、ネットの口コミでも盛り上がった。



そうこうしているうちに、マスメディアが犯人と決め付けた人物が、マスコミの執拗な取材にキレて暴行を行った。


単なる威嚇のつもりだったらしいが、当たりどころが悪かった。


そのカメラマンは、倒れた際、持っていたカメラの重さで複雑骨折し、重傷を負った。


その事件も暴行のすえの死亡。


この人物はカッとなれば人に重傷を与える。



ここまで材料がそろうと、証拠のない、元の容疑者を拘束など出来ない。

警察は諦め、別件としてメディアが祭り上げた容疑者を逮捕。すると


「カッとなるとなにをしたか覚えていない。あの事件もそうだったのかも知れない」


と供述。


この事件により警察は完全に判断を間違えた無能という烙印をおされた。



それ以降警察は、風村の関わる事件でも慎重に証拠を積み重ねる事にした。


その結果が

「風村と接触した人間と事件は関わりがない」

という結果ばかりになった。




准一は署長室のソファーでふんぞり返っている。


「はい。事件の考察一覧」

「はいよ。もっと姿勢を正せ。女にモテんぞ」

「これ以上もてなくていいよ。今だって補欠がいっぱいいるんだから」


署長は呆れたように准一を見ると

「准一がお気に入りのあの娘はどうした」

「ああ、琴音?」准一は立ち上がると


「僕が女体化しても気にしないんじゃないかな?」


「なんだそれは……」

署長は准一の書類に目を通すが


「やはり、これは疑わしいか……」

一枚の書類に目が止まる。


「風村案件だろ?なんとなくわかるようになったよ。癖みたいなのがあるからね」


「そこまで分かるなら真犯人も分からないか?」


「あははは、無理無理。分かるのは違和感だけ。一冊の文庫本の文字を全部バラバラにして、その後別の話を作る。さあ、元の話は、なんでしょうか?みたいなのだからね、これ」


准一はペンを取り出し

「アナグラムは知ってるでしょ?署長」

「文字を入れ替える言葉遊びだろ」

「そうそう。例えば、『タイヤ』を組み替えると『屋台』になる。これなら簡単。でもこれが一ページ全てなら?さらには本一冊全ての組み換えなら?」


「何冊もそんな本を作れば、組み換えの癖が出る。どうしたって楽な手法を取る。その違和感は気付ける。だが、元の本と言われてもね。数が膨大すぎてね」


「ドンピシャで当てたい気持ちはあるんだけどね、琴音も風村超えたら気にしてくれるかな?」

=====================



「はっきり言います、クライアント、この段階にいたっての工作は不可能です」


風村はお手上げと言うように万歳をする。


「し、しかし!」

「何度かご忠告申し上げた通りです。このタイミングでの殺人で疑われないのは無理。日本の警察は優秀です。必ず証拠を探し出す」


風村はコーヒーを飲みながら、依頼人を見据え

「いいですか、こと、ここに至れば自首が最良です。減刑の為の工作ならばいくらでもやりましょう」


「み、身代わりは!?身代わりはダメか!?」

「……身代わり?まあ、獄中まで黙っていられる人がいるならば、そちらは考慮出来ますよ。心当たりがおありで?」


「ああ!儂に感謝をして!命を投げ出す事など当たり前に出来るやつがいる!そいつに自首させてくれ!」



そのあと、紹介された人物を見て風村は溜め息をついた。

痩せこけた少女だ。

こんな少女が筋肉ムキムキの男性を絞め殺すなど見ただけで不可能と断じれる。


風村は依頼人から紹介された少女と2人きりで話をしていた。


「まず、君はクライアントである権堂兵一氏の身代わりになる覚悟があるのか?」

「そ、そんなの、ありません!わたしは、おかあさんが、ころされるって、きいて、それで、なんでもしろって、言われて」


風村は「やっぱりそういうケースか」と頭をかく。

「脅されてここに来たわけだ」

「は、はい。死ぬよりマシだ、とは言われましたが……」


「初犯とは言え殺人扱い。相当な覚悟がないと無理だ。何年も帰って来れないぞ」

「そ、そんな……」


「正当防衛の線もいけるかも知れないが、そもそも君の身体で、あの筋肉ムキムキを絞め殺すなど不可能と判断されて終わる。まあ人選ミスだな」


「じゃ、じゃあわたしは」

「クライアントに話をしてくる」


そして戻ると

「何故だ!身代わりになるだろう!」

「無理ですよ、クライアント。あの細い身体でどうやって絞め殺せるんですか?素手による絞殺なのは見れば分かるんですよ。あの細い手でやりましたと言っても、一笑されて終わりです」


「ぐぬぬぬ…。では、死因の工作は出来ぬのか!?」

「まあ、可能ですよ。それも。ただあの少女にやらせるのは確定なのですか?だとすれば工作する手段も限られるのですが」


「かまわぬ!」

「分かりました。では少女への説得を続けてください。まだ納得はされていませんよ。母親を理由にされているようですから、最先端の医療を受けさせるとか、出所したら金を与えるとか、具体的な話をされるべきです」


「わかった!任せろ!」



被害者の元に行く風村

「ふむ、まあ正当防衛の線だと、下半身への攻撃だな。後は燃やすにしてもだ、この絞殺跡は……」

風村が遺体を検分していると


『ぎゃああああああああ!!!!!!!』

「な!?まさか!?」



急いで風村が戻ると、

そこには、倒れ込んだ兵一を、ナイフでメッタ刺しにしている少女がいた。

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