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探偵は山中で高笑う(前編)

早森琴音は森にいた。

「まったくもう……なんなんですか。今回のクライアントは」


いつも通りの依頼。

依頼人が求めている宝は森に埋まっている。と伝えると


「その森には我々は入れない。持ってきて貰えないか?」

と言いだしたのだ。


依頼人の前で見つけ出さなければ意味が無いので、琴音はゴネたのだが

「ここまで嫌がる意味ってなんなのだろう」

と不思議になり引き受けたのだ。


「事前調査ではなにも引っかかりませんでしたね。危険な動物でもないし、オカルトな話でもない」

先祖代々に伝わる言い伝えかなにかかもしれない。


琴音は直接聞いたが、答えは返ってこなかった。


「そもそも、宝の中身は古銭だと伝えている。初めて会う探偵がネコババすることだって考える。となると可能性は2つ」


「ひとつは、私の推理が間違っている。そこには宝がない。もうひとつ。この森に入る恐怖は、宝のネコババより驚異である」


そして立ち止まった。

「うん。やばそうな雰囲気」

苦笑いする琴音。

何度も死体を見慣れた琴音は苦笑いで済ませたが、通常の人間ならば叫んでいたろう。


そこには獣の死体が百匹単位で積み重なっていた。

=====================



「あの、娘さん、大丈夫かな?」

「分からん。だが、余所者ならば、あの呪いをはねのけるかも知れん」

琴音の依頼人達は、琴音の向かった山の方を向いて心配そうに話していた。


「呪いはそんな性質ではない。入り込んだ余所者が何人死んだか、そして何人が発狂したか」

「無事帰ってくるのを祈るしかないが…」


一人の依頼人は目をつむると

「儂らには祈るしか出来んからな」

=====================



「なるほどー。これは凄い」

獣の死体を検分した琴音はその殺され方に気付いた。


獣達には、鋭利な刃物で切られた跡が残っていた。


「わざわざここに移動させた。という感じですかね。奥に進ませないためのオブジェクトにしても、これはやりすぎですね」

単なる脅しのためのオブジェクトではない。


「呪術的な理由でしょうね。そしてあのクライアント達がやったものではない。別の人間。はてさて」

琴音は少し首を傾げ

「まあ、奥に行きますか」



森の奥、琴音は目的地についた。

そこに座り込みしばらく気配を探る。


「ふむ。よくわかりません」

そう言うと手に持っていたスコップで木の下を掘る。

そうするとすぐ手応えがある。


直後

「ハハハハハハハ!!!!!攻撃が遅いですよ!!!」

琴音は横っ飛び。


琴音がいた場所には鎖鎌が刺さっていた。

「お姿を見せて頂けませんか?なにも知らない人間と殺し合いとか勘弁してほしいのですが」


すると、森の奥から仮面を付けた人が出てくる。


「なんかの悪夢みたいな話ですね。現代日本で、仮面付けた謎の部族に襲われるとか、冗談にもなりません」


「проваливай(ここから出ていけ)!」

「しかもロシア語?本当に世界観ぶっ壊しますね」

琴音は呆れたまま

「こちらの言葉は伝わっているのでしょう?日本語で話してくださいません?ああ、英語でも良いですよ、私はロシア語の発音には自信がないのです」


「ハヤく、カエレ」

片言の日本語。


「この宝を持ち帰れば言われなくとも」

スコップでその木箱を叩く


「ソレハ、Проклятие(呪い)。サワルナ」


「プラックレイシー(Проклятие)?ああ、呪いか。ロシア語は難しいですね。わたしはそれを解きにきた。……ええっと、ロシア語だとヴォルシェーブニク(волшебник)?あ、いやヴェージマ(ведьма)が近いかな?」


「волшебник(魔術師)?ведьма(魔女)?

Правда(本当か)?」


「プラヴダ(Правда)、プラヴダ(Правда)。これからその証拠をお見せしますわ」

琴音は微笑み、鞄からペンを取り出し

「ルスツ、ケイカ、ワテベス、バレレフ、ガンペ、ノコヨ、ケトヨイ、ロノ」


高らかに詠唱すると、そのペンを木箱に突き立てる。


「呪いは解けました」

「……サワッテ、ミロ」

「はい」

そのまま木箱を持ち上げる琴音


「……ホントウ、ダッタノカ、ведьма(魔女)、カエルガ、イイ」

「アハハハハハ!わたしにかかれば呪いをとくなんて朝飯前ですわ。それでは失礼します」


しばらく歩いた後

「ああ、色々滅茶苦茶な山ですねー。本当に」



琴音は下山して、クライアント達と会うなり

「依頼はこなしました。クライアント、色々聞いてよろしいですか?」

木箱を目の前に置く。


「うむ……知る権利はある。山の民に会ったのだろう」

「山の民というか、普通にロシア人の女性でしたが」


「ロシアなのか?山の民の言葉だと思っていたのだが」

「古ロシア語でもないので、戦後ぐらいからですかね?あの人達がずっとあの山に住んでいるんですか?」


「ああ、この宝にも関係がある。わしらの先祖があの山を買取り、この宝を埋めた。その前後から、あの山の民が住みはじめたのだ」


「呪いだと言われましたが」

「まさしく呪いだ。その前後から山に立ち入る者には災いが起こった。何人も死んだ。何人も殺された」


「私は事前に新聞や記事を調べ尽くしましたが、そんな事件は全く探せませんでした。ましてや人が住んでる?もっと話題になってしかるべきです」


「お嬢さん、我々はそんな愚かなことはしない。マスメディアは愚か、近辺の人間にすら言わぬよ」


「……すごい鉄の結束ですね。で、その山の民がもたらす呪いが恐ろしくて入れなかった。けれども、今回はどうしても欲しかった」


「そうだ。依頼を達成してもらい感謝している」

「むう。不完全燃焼です。でも依頼は依頼です。どうぞ」

琴音は木箱を引き渡し、お辞儀をした。

=====================



あれから一週間、琴音の元にメールが届いた。

「おや?あのクライアントじゃないですか」

なんだろう?と思って開くと


「えーっと……ベージマ、ベージマと、山の民が言ってくる、ああ、ヴェージマ(ведьма)ね。魔女呼んで来いって言ってるのか」


「あの木箱の呪いを解いたのを評価してるんですかね?あれ、単にあそこで開けなければ良いだけの話なんですが」

その木の周辺には有毒な胞子を出すキノコが密集していた。そんなところで、木箱をあけて色々やっていれば、それは倒れる。


「あれだけ地面が柔らかく、掘りやすかったのも、過去になんども誰かがチャレンジしては、木箱から取り出そうとして倒れたんでしょうね」

琴音がやったのは、でたらめな呪文。

単に言葉をひっくり返しただけだ。


「あの人達がなんの用ですかね?私は探偵であって魔女ではないんですが」

琴音は背伸びをして言った。


「まあ、魔女と呼ばれるのもなかなか良いですね。これからそう名乗ろうかな?」

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