始まり
「翔飛行士、防護服の具合はどうですか?」俺の恋人でもある***が、通信でそう聞いてくる。
「最低!」俺は思ったままの感想を答える。
「蒸れるし、動きずらいし、これならウエットスーツとフルフェイスのメットの方がましだよ。」
「はは、そう言うなよ、其れでも我が国の最新技術の結晶なんだぞ。」二人の上司である男が通信に割って入った。
「此の飛行が成功すれば、予算が降りるはずだから、その時には改良を考えるよ。」
「是非そう願いたいものですね。」
「ははは、そろそろ打ち上げシーケンスに入るぞ。」
「はぁ、了解。」
「翔飛行士、帰ったら美味しいご飯を食べに行きましょうね。」
「いや、君の手料理が良いな。」
「もぅ。」
「こほん。 一応国家のプロジェクトなんだがな。」
「全部記録されてますよー。」隣にいるオペレーターが言う。
「宇宙規模のバカップル認定ですねー。」
「いや、その。」
「あははは、ばれちゃったね。」
「今更かい!」
『打ち上げシーケンス、フェーズ2に入りました。』合成音が告げる。
『プロト2号、打ち上げ場所に移動開始します。』
「移動開始。」
『移動開始します。』
『180秒後に、移動完了します。』
『移動完了、発射フェーズに移行します。』
「翔飛行士、言い残すことはありますか?」
「おい、なんだ、そのフラグ? 俺の事愛してないのか?」
「ふふふ、冗談ですよ~、ちゃんと愛してます。」
「何だよ、ちゃんとって。」
「だから、記録されてますよー。」
「君たち、もう少し真剣にやろうか?」
「すみません。」
「はぁ、俺、このまま打ち上がって良いんですかね?」
「まぁ、余裕があることは良いことだがな。」
『最終打ち上げシーケンスに入りました。』
「んじゃ、行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
『カウントダウン、10,9,8・・・・・3,2,1,0点火します。』
轟音が響きプロト2号が上昇を始める。
「上昇確認。」
「推力良好。」
『速度上昇。』
「! ちょっと待て、姿勢が変だ?」
「コントロールは?」
「計器がすべて異常だ。」
「脱出を。」
「駄目だ。作動しない!」
「え? 翔、逃げて。」
「う、あ、駄目だ・・・***愛してる。」
「翔~~~~~。」
プロト2号は、そのまま海面に向かい、海面に到達する前に爆発、四散した。
「助けてくれ。」
「あぁぁ、死にたくない。」
「こんな死に方は嫌だ。」
「うるさい!」
「あぁぁ、これで俺は終わるのか。」
「あたしの人生って。」
「いやだ、いやだ。」
「うるさい!」
「翔。」
「なんだ、誰だ?」
「翔。」
「誰だよ。」俺はそう言うと目を開ける。
「え? どこだ此処?」
そこは時間の流れが可視化されていた。
自分が知っている過去や、見たこともない未来が同時に見えている。
「翔、目覚めましたか?」
「あ? 誰?」
「私は存在。この世の流れを見守るもの。」
「はぁ?」
「翔、貴方は、時の狭間に捕まり私の下位の存在になりました。」
「はぁ? 存在の下位の存在って何ですか?」
「貴方には聞こえているのでしょう?」
「え?何が?」
「生が終わる者たちの、思いが。」
「あぁ、さっきから聞こえてるこれ?」
「そうです。」
「で?」
「貴方は、その者たちに会い、その生を変える事を問い、その答えを叶える必要があります。」
「なに? その理不尽!」
「貴方が、此処に来た歪の修正方法です。」
「答えは、はいかイエスです。」
「選択肢ないじゃん。」
「どんだけやればいいんだよ?」
「ありえない事ですが、今の貴方が死ぬか、20000個の魂を救えば昇華します。」
「はぁ、了解、やるしかないんだよな。」
「では、聞こえている時空に行きなさい。」
「はぁ。」
「いやだ、死にたくない。」
「死にたくない。」
「僕を呼んだのは君なのか?」
完結させないと。