それがあたしの人生
物語への介入部分を削除しました。
まだ早い。
アスファルトの道から、生け垣にこそりと忍び込んだ。
(ここ、涼しくていいなぁ。)
そう思って、ふと見ると、そばの駐車場にこの家の主が、車で入って来た。
あたしは、そのままそいつを見る。
しかし、その車から降りた人間は、あたしを見て「にゃあ。」と言って家の中に入っていった。
(変な奴。)あたしはそう思いながら、此処に留まる。
「庭に、お客さんが来てるよ。」家の中から声がする。
すると、カーテンが少し開き、その間から女があたしを見ている。
でも、直ぐにカーテンの奥に消えた。
(ここにいてもいいって事かな?)
(ん~、やっぱ移動しよう。)
日頃の経験から、同じ場所に居続けるのは駄目だと学習していた。
そう思い、居心地のいい場所から移動することにした。
隣の家の前で立ち止まり庭を見る。
(ん~。人工芝はやだな。)そう思って次の家の前に行く。
(庭が狭いや。)庭のほとんどが駐車場になっている家を見て思う。
(やっぱ。さっきの家の生け垣に戻ろうか?)と思い後ろを見ると、カーテン越しにあたしを見ていた女が、道に出てあたしを見ていた。
(まずい。)
あたしは、近くの草むらに走り入った。
「あ~。逃げちゃった。」その女が言葉を発したが、あたしは逃げ切った事に満足した。
誰も追って来ない事に安心して、あたしは毛づくろいを始めた。
自分の身体をぺろぺろと舐めて、身を清めるのは大好きだ。
あたしの匂いが、あたしを包む幸福感を感じる。
その夜、不思議な夢を見た。
人間のあたしが、誰かに怒られている。
でも、怒られている内容が、あたしには関係ない事だった。
言い訳をすると、更に別の関係ない内容でののしられた。
(何だろう、この理不尽。)
あたしは、それでも、この仕打ちを我慢した。
しかし、次の日も同じ内容でののしられる。
でも、仕事が無くなる恐怖で、あたしは貝になる。
(あたし、何も悪くないよね。)
(なんで、あたしが怒られるの?)
(なんで?)
そして、ある日、あたしは爆ぜる。
あたしを罵っていた物が、赤い物を周りにまき散らして床に転がっていた。
あたしは、手に持ったカッターナイフをそれに何度も打ち付ける。
(なんだ、これで良かったんだ。)
そこに、男が存在した。
「あんた。誰?」
「遅かったか。」
「?」
「本来なら、君が道を外す前に来るはずだった。」
「君の魂に呼ばれたが、色々遅かったようだ。」
「すまない。」
(何だろう。知らない人に謝罪されてしまった。)
「君は転生する。」
「はぁ?何言ってるの?」
「君の魂がそれを望んだ。」
「判らないよ。」
「君の魂に、転生を望まれたが、今の君に確認できない状況になっている、だから君の魂の望みを優先させてもらう。」
自分の身体が暖かな光に包まれるのを感じた。
自分の暗い思いが浄化されるのを感じる。
「なんだ、こんなに簡単な事だったんだ。」
「誰も憎まない。」
「誰も敵と思わない。」
「誰もあたしと関係ない。」
あたしの身体が、光に包まれる。
「ああ、気持ちいい。」
ふと気づいたとき、目の前の箱にくぎ付けになった。
目の前の箱には、御馳走がある。
「アジの骨に、イワシの骨と内臓。」
「やた、あたしの大好物。」
獲物を狙う、目の前の他の猫を威嚇してその獲物を口にする。
物陰に獲物を引き込むと、それを食べ始める。
「美味しい。」
そう思いながら、獲物を食べる、
「そうか、それが君の姿か。」
目の前の影が言う。
ビクッとするが、敵意が無いので、そのまま獲物を食べる。
そして、その姿が薄れていった。
「これでよかったの?」
何だろう?、多分あたしの心が、あたしに問う。
「いいよね。」
「本当に?」
更に問われる。
「しょうがないじゃない。」
「それが、駄目なんだ。」
「あたしの頭の中で、あたしが議論する。」
「でも、今は今日を生き帯びるのが精いっぱい。」
その言葉に、あたしは反論できない。
目の前の朝食を食べ終えると、お昼ご飯の調達に向かう。
そう、それが今のあたしのすべて。
あたしは、悪くないよね.
あたしのすべてを否定されたんだから。
あたしは、精いっぱい生きた。
何が悪かったんだろう?