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請負人 「翔」  作者: 超月 聖
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そこにいる魂

(雪に阻まれて、此処にキャンプを張って何日過ぎただろう。)

(流石、世界の最高峰と言われる場所の事はある。)

 


数日前の朝は快晴だった。

(いける。)と判断して、尾根を進んだ。

 頂上がかすかに見えた時、俄かに天候が悪化し、吹雪き始めた。

 今まで見えていた、頂上処か、数メートル先も見えなくなった。

(テントを張れてよかった。)

 周りを吹く風の音を聞きながら、自分の幸運を思う。

(幸運?)

(違うな。)

(運があるなら、頂上まで行けたはずだ。)

 この吹雪は駄目だ。

 吹雪が止むまでは、此処に留まるしかない。

 幸い、食料は2週間分はある。

 いくら何でも2週間以内には、この吹雪もおさまるだろう。

(今日は、ここでビバークだな。)そう思い、体力を温存するために寝た。


 次の日も、天候は回復しなかった。

(ここで焦ったら駄目だ。)そう考え、また目を瞑る。


 その次の日も、吹雪は続いていた。

(俺は神に見放されたのか?)

(ここまで登頂を阻むのは、そう言う事なのか?)


 さらに次の日。

 一瞬だけ吹雪が止んだ。

 俺がテントから身を乗り出すと、上空にヘリコプターが見えた。

 そのヘリコプターに向かい、俺は手を振る。

 まだ、大丈夫だ。

 この天候回復を幸運と感じ取り、俺は頂上を目指すことにした。

 しかし、また、天候が急変した。

 荒れ狂う風に、逆らう事は出来なかった。

 テントを畳まなかった幸運を感じながら、俺はテントに戻った。

 再び訪れる挫折。

 まるで、俺がこの山の頂上に行く事を阻むような吹雪。

(俺、山の神様に恨まれる事したっけ?)そんな考えが脳裏に浮かぶ。


 さらに数日が過ぎた。

 本当に、俺の事を拒むかのよう、吹雪が止む気配がない。

(おかしい、こんなことがあるのか?)

 山の天候が不安定なのは、承知している。

 俺だって、伊達に今世紀の冒険者などと呼ばれている訳ではない。

 すべての名峰は看破した。

 今回の登山も、散歩のつもりで行っている。

 しかし、自然には勝てない。


 


更に数日が過ぎた。

 困ったことに、充分だと思っていた食料が尽きかけている。

(まさか、此処まで足止めされるとは。)

 頂上に行けない事はしょうがないと思う。

 しかし、このままでは俺も、虹の谷のメンバーに加わってしまいそうだ。

 吹雪は止む気配がない。

 食べるのを減らしていた食料が、ついに底をついてしまった。

 水は周りの雪を解かせば何とかなるが、こんな所では食料の補給は無理だ。

 しかし、下山するにもこの天候では不可能だ。


(成す術なしか。)

 明日の天候回復を期待して、目を閉じる。



しかし、何故か眠れなかった。

何回か寝返りをうった時に、その気配を感じた。

寝袋に入ったまま飛び起きた。

目の前には、サングラスをかけた黒い皮のジャンバーを着た男がいた。


「な、誰だお前?」ありきたりな言葉を口にする。


「・・・。」

その男は少し間を開けて言葉を発した。

「君は、ここで死ぬ。」

「はぁ?」言葉の意味が理解出来ず、変な声をあげる。

「この後、突風が吹いて、君はテント事、谷に落ちて絶命する。」


「な、な、何でそんな事が判る。」

「僕は、君の魂に依頼されてここに来た。」

「はぁ?魂?」

「君は、後数分後にこのテントと共に、谷底に吹きとばされる。」

「君の魂は、此処での絶命を受け入れられず、この場所にとどまった。」


「僕は、その魂に呼ばれた。」

「何を言ってる?」

「さぁ、選んでくれ。」

「何を?」

「このまま、此処で死ぬ運命を受け入れるか。それとも転生を望むか。」

「て、転生?」

「僕と同じ時代で、違う生涯をおくれる。」

「俺のままでか?」

「いや、その確率は低い。」

「違う生物になるのならまだ良い方だ。」

「はぁ。」俺はため息をはく。

(何やってるんだ、俺。)

(俺は、人生を冒険に費やしてきたじゃないか。)

(今ここで死んでも、それは本望だろう。)

(何で未練を残した?)

 俺は、ふっと笑みを浮かべた。

「すまない。」

「ん?」

「あー、俺の魂が迷惑をかけた。」

「どういう事か?」

「転生なんか望まないって事さ。」

「俺は、この人生が俺のすべてだと思っている。」

「此処で死ぬなら、それが俺の終着点。」

「何で未練なんか残したかな?」俺は笑う。

「そうか。」

「解った、僕はこのまま見守ろう。」そう言うとその存在が希薄になる。


 テントの外で風が強まった音がした。

 一瞬の浮遊感の後、テントが風で持ち上げられた。

 「うわ。」と声を出すが、テントごと風に操られ、谷底にテントごと飛ばされる。


 長い浮遊感の後、身体が地面に叩きつけられた。

 そこで、意識が途切れた。

 




 今の俺には後悔はない。

 この山に挑み。 

 この山に拒絶され、この山に負けた。


 俺は、此処で俺の後輩たちを見守ろう。


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