空を飛ぶ機械の鳥
空を、敵国の大きな飛行機が飛んでいる。
大人は皆、この戦いに勝てると信じているが、私はそう思わない。
遠くの国から、その国の飛行機が、自国の空を飛ぶ。
もうこの国の防衛力が無いって事。
何故それで、まだ勝てると思うのだろう。
この国の大人は馬鹿なのだろうか?
「大本営発表。我が艦隊は敵国の戦艦5、巡洋艦10、駆逐艦20を轟沈。尚も、敵艦隊に損害を与え進行中である。」
ラジヲから、陸軍の嘘にまみれた放送が垂れ流しされる。
何も知らない民衆は、それを信じ、身の周りの鉄を軍に差し出す。
「お母さん、その釜を差し出したら、明日から何でご飯を炊けばいいの?」
「良いのよ。戦争に勝てば、又元通りになるから。」
(駄目だ、みんな騙されてる。)
でも、私には何もできない。
子供の身体が恨めしい。
「退避。退避~。」普段偉そうにしている大人が叫んでいる。
周りを見ると、普段、同じように偉そうに説法している大人が、我を忘れて逃げ出している。
皆、山のトンネルを防空壕代わりにした場所に逃げ込んでいる。
「そこは駄目だよ。トンネルを塞ぐものが無いから、両側から攻撃されたら、皆焼け死んじゃうよ。」
近くにいた大人の人に言うが、まったく取り合ってくれない。
私は、そのトンネルと反対側にある川の瀬に逃げて身を伏せる。
そして始まる、敵軍の攻撃。
紡績工場しかない此処の場所が、軍需工場に間違えられた結果の誤攻撃。
空を覆うように飛ぶ、大きな飛行機。
そして、その飛行機からばら撒かれる焼夷弾。
それは、地面や家屋にぶつかると、全てを火の海に変える。
彼方此方で火の手が上がる。
誰もが避難しているので、家屋の火は燃え上がるばかりだ。
恐れていたことが起こる。
トンネルの入り口と出口で、同時に火の手が上がる。
その火は、折からの強風に煽られ、トンネル内に吹き込んだ。
トンネルの中にいた者は、その火によって窒息状態になり、その熱風で炭になっていく。
肉が焼ける、嫌な臭いが立ち込める。
私は、その匂いを嗅ぎ嘔吐する。
その時、一発の焼夷弾が頭上から降ってきた。
私は、自分の死を感じて身構える。
その時、時が止まった。
いや、錯覚じゃない。
焼夷弾は地上1mの所で、止まっていた。
(何が起きているの?)
そう思いながら、周りを見渡すと、すぐ傍に見知らぬ男の人が立っていた。
「ひっ。」思わず悲鳴をあげ、後ずさる。
その男の人は、真っ黒なメガネをかけ、黒い見た事のない上着を着ていた。
「だ、誰?」と問うと、その人は黒い眼鏡を外しながら私に言った。
「君は、此処で死ぬ。」
「え?」
「この爆弾が、さく裂して君は死ぬ。」
空中に固まった焼夷弾を触りながら、その人が言う。
きっと、目の前にいる男の人が、時間を止めているのだろうと私は考えた。
「しかし、君の魂はその死を拒否した。」男の人が言う。
「君の魂は、長い時間この地に縛り付けられ、苦しんでいる。」
「僕は、その魂に呼ばれ、今ここにいる。」
(魂?呼ばれた?何の事だろう。)
「さぁ、選んでくれ。」
「?」
「今、此処で死を受け入れるか、それとも僕の時代に転生を望むか。」
「転生?」
「勿論、今の姿のまま転生できる確率は少ない。」
「君がしたい事、なりたいものを強く思えば、それが叶うかもしれないが、その確率は非常に低い。」
「当然、今此処で死んでいた方が良かったと言う事になるかもしれない。」
「転生させてください。」私は即答する。
(きっと、このまま死んだら目の前の男の人が言うように、私は後悔するだろう。)
(なら、少しでも生きたい。どんな姿でも、生きていたい。)
「・・・」
「分かった、君は転生する。」
身体が淡い光に包まれる。
(あは、暖かい。)そう思いながら意識が上に登っていくのを感じ、途絶えた。
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私は凄いスピードで風を切る。
遠くに見えるご飯も、一瞬で口に加えられる。
そのスピードのまま家に帰ると、子供たちがご飯、ご飯と口を開けて私にせがんでくる。
(今度はこの子の番。)そう思いながらその子の口の中にご飯を入れてあげると、その子は美味しそうにご飯を飲み込む。
そして、私は次の子のご飯を捕まえに風を切る。
直ぐにご飯は見つかった。
私は、一瞬でご飯を捕まえると、再び家に戻り、次の子の口にご飯を入れる。
(さあ、次だ。)
子供たちは育ち盛りだから忙しいが、優しい旦那様も、ご飯探しに協力してくれるので苦労は半分こだ。
風を切って飛んでいると、あの時の男の人がこちらを見ているのに気が付いた。
私は、その男の人の前を2回横切り、挨拶をする。
男の人は、私に気付いたようだ。
「そうか、その生を楽しんでほしい。」と言っているのが聞こえたが、何の事か分からなかった。
そう、今は一度目の子供たちを育てるので精いっぱい。
今の子供たちが巣立ったら、もう一度子供を産み育てなければ。
私たちの季節は短いのだから。
次の子供たちが育ったら、海を渡る準備だ。
(ふふ、私の人生、忙しいなぁ。)
そう思いながら、次の食事を捕まえる。
こちらもよろしくお願いします。
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