表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
請負人 「翔」  作者: 超月 聖
3/8

とある少女の想い

今日も同じ天井が見える。

(あぁ、又一日生き延びたんだな。)動けない身体でそう思う。

 手や身体から生えた管やコードは、吊り下げられた透明な袋や、光が点滅している機械に繋げられている。

 その繋がったもので、自分の命もこの世に繋ぎ止められている。

 

物心ついたときには、此処に寝かされていた。

 男の人が、私の枕元で泣いている女の人を慰めているのを、良く見えない目で薄っすらと見ていた。

 今思うと、それが両親だったのかなと思う。


 その人達も、数年たった今ではもう顔を見る日はない。


毎日決まった時間に、白い着物を着た人たちが、私の指に何かを刺して血を採っていく。

そして、私の口の中に白い物が付いた棒を入れ、口の中をぐりぐりされる。

両方とも少し痛いので、私は嫌いだ。


そして、何事もなく時が流れる。

毎日が何も変わらない、退屈なただ生きているだけの、窮屈な世界。


◇◇◇◇◇


今日は息が凄く苦しいなぁ。

喉の奥に、何かが詰まったような感覚がある。


周りでは、白い服を着た男の人と、桃色の服を着た女の人が、私の身体に針を刺したり、目に光を当てたりしている。

痛いのは嫌い。

暫くすると、呼吸が楽になってきた。


白い服を着た男の人が、私の手を取って時計を見ている。

「************」女の人に何か言ってるけど、よく聞き取れないや。

「〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇」女の人が何か言って、私の手に刺さった針を抜く。

 そして、別の針を同じところに刺す。

本当に、痛いのは嫌。

でも、私の意志はまったく伝わらない。

そうだよね、まったく動けない、物心ついてから喋った事も無い。




少しだけ顔を横に出来るから、窓の外に見える景色だけが私の楽しみ。

でも、今、目の前には見た事ない男の人が立っている。


「君は後数日後にこの世を去る。」

(何だろう、去るって死ぬことかな?)

「その後、君の魂は、自由に動けなかった未練で、何年も縛られ続けているんだ。」

(何言ってるのかな?魂?何それ?)

「・・・・」

「未来の君から依頼されて、君が自由に動ける時に連れていく依頼を受けた、」

(え?自由に動けるの?)

「ああ。でも、その姿でそこに行けるかは僕には判らない。」

「さあ、答えてくれ。」

「このまま生を終えるか、転生を望むか。」

(考えるまでもない、こんな不自由なのに比べたら、自由に動ける方がいいに決まってるよ。)

「請負った。」

「君は転生する。」

 私の身体に暖かな光が入ってくる。

 それが膨らんで、私の身体を分解していくような感覚がある。

 あぁ、暖かいなぁ。

 そして、意識が深い闇にのまれた。







 気が付くと、目の前にコオロギが見えた。

 私は、軽くジャンプするとそのコオロギを両手でつかむ。

(大好物!)

 シャクシャクと咀嚼する。

 横を見ると、ショウノウバッタが草の上にいる。


(あれ、青臭いんだよね。)

(でも、次に何時食べ物にありつけるか分からないから、とりあえず腹の足しに。)

 右手で草ごと抑え込むと、そのまま口に入れる。

(やっぱり青臭い。)


 この空き地は、私のテリトリーだ。

 草が生い茂っているので、昆虫は結構多い。

 好き嫌いしなければ、まぁ食べるのには困らない場所だ。

(たまには魚とか食べたいな。)と思うが、魚がいる場所はここからは遠い。

 

 お腹がくちくなったので、土管の上で日向ぼっこをしながら毛づくろいをする。

(今日はお日様がポカポカして気持ちいいなぁ。)

くあ~っ、と伸びをすると目の前に何かが存在する。


咄嗟に攻撃態勢をとるが、その顔を見て気を許す。


「此処にいたのか。」目の前の男が言う。

「ふふ、望みは叶ったのかい?」


(懐かしいね、私は元気だよ。)言葉が話せないので頭で思うと。

「そうか、良かった。」その男がそう言いながら、私の頭を撫でる。

(気持ち良いなぁ。)頭を撫でられながら思う。

(自由に動ける身体がある。)

(毎日お腹いっぱい食べられる。)

(私は幸せ。)


「うん、分かった。」目の前の男が私の眼の間を掻きながら言う。

(もう会う事はないだろう。)

(今の生を堪能するが良い。)


私は「うにゃん」と鳴くとその男の傍を離れる。


振り返ると、もう誰の姿も見えない。

(でも、私は自由に動ける。)

(何でも好きなように出来る。)

(これが私の幸せ。)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ