とある少女の想い
今日も同じ天井が見える。
(あぁ、又一日生き延びたんだな。)動けない身体でそう思う。
手や身体から生えた管やコードは、吊り下げられた透明な袋や、光が点滅している機械に繋げられている。
その繋がったもので、自分の命もこの世に繋ぎ止められている。
物心ついたときには、此処に寝かされていた。
男の人が、私の枕元で泣いている女の人を慰めているのを、良く見えない目で薄っすらと見ていた。
今思うと、それが両親だったのかなと思う。
その人達も、数年たった今ではもう顔を見る日はない。
毎日決まった時間に、白い着物を着た人たちが、私の指に何かを刺して血を採っていく。
そして、私の口の中に白い物が付いた棒を入れ、口の中をぐりぐりされる。
両方とも少し痛いので、私は嫌いだ。
そして、何事もなく時が流れる。
毎日が何も変わらない、退屈なただ生きているだけの、窮屈な世界。
◇◇◇◇◇
今日は息が凄く苦しいなぁ。
喉の奥に、何かが詰まったような感覚がある。
周りでは、白い服を着た男の人と、桃色の服を着た女の人が、私の身体に針を刺したり、目に光を当てたりしている。
痛いのは嫌い。
暫くすると、呼吸が楽になってきた。
白い服を着た男の人が、私の手を取って時計を見ている。
「************」女の人に何か言ってるけど、よく聞き取れないや。
「〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇」女の人が何か言って、私の手に刺さった針を抜く。
そして、別の針を同じところに刺す。
本当に、痛いのは嫌。
でも、私の意志はまったく伝わらない。
そうだよね、まったく動けない、物心ついてから喋った事も無い。
少しだけ顔を横に出来るから、窓の外に見える景色だけが私の楽しみ。
でも、今、目の前には見た事ない男の人が立っている。
「君は後数日後にこの世を去る。」
(何だろう、去るって死ぬことかな?)
「その後、君の魂は、自由に動けなかった未練で、何年も縛られ続けているんだ。」
(何言ってるのかな?魂?何それ?)
「・・・・」
「未来の君から依頼されて、君が自由に動ける時に連れていく依頼を受けた、」
(え?自由に動けるの?)
「ああ。でも、その姿でそこに行けるかは僕には判らない。」
「さあ、答えてくれ。」
「このまま生を終えるか、転生を望むか。」
(考えるまでもない、こんな不自由なのに比べたら、自由に動ける方がいいに決まってるよ。)
「請負った。」
「君は転生する。」
私の身体に暖かな光が入ってくる。
それが膨らんで、私の身体を分解していくような感覚がある。
あぁ、暖かいなぁ。
そして、意識が深い闇にのまれた。
気が付くと、目の前にコオロギが見えた。
私は、軽くジャンプするとそのコオロギを両手でつかむ。
(大好物!)
シャクシャクと咀嚼する。
横を見ると、ショウノウバッタが草の上にいる。
(あれ、青臭いんだよね。)
(でも、次に何時食べ物にありつけるか分からないから、とりあえず腹の足しに。)
右手で草ごと抑え込むと、そのまま口に入れる。
(やっぱり青臭い。)
この空き地は、私のテリトリーだ。
草が生い茂っているので、昆虫は結構多い。
好き嫌いしなければ、まぁ食べるのには困らない場所だ。
(たまには魚とか食べたいな。)と思うが、魚がいる場所はここからは遠い。
お腹がくちくなったので、土管の上で日向ぼっこをしながら毛づくろいをする。
(今日はお日様がポカポカして気持ちいいなぁ。)
くあ~っ、と伸びをすると目の前に何かが存在する。
咄嗟に攻撃態勢をとるが、その顔を見て気を許す。
「此処にいたのか。」目の前の男が言う。
「ふふ、望みは叶ったのかい?」
(懐かしいね、私は元気だよ。)言葉が話せないので頭で思うと。
「そうか、良かった。」その男がそう言いながら、私の頭を撫でる。
(気持ち良いなぁ。)頭を撫でられながら思う。
(自由に動ける身体がある。)
(毎日お腹いっぱい食べられる。)
(私は幸せ。)
「うん、分かった。」目の前の男が私の眼の間を掻きながら言う。
(もう会う事はないだろう。)
(今の生を堪能するが良い。)
私は「うにゃん」と鳴くとその男の傍を離れる。
振り返ると、もう誰の姿も見えない。
(でも、私は自由に動ける。)
(何でも好きなように出来る。)
(これが私の幸せ。)