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請負人 「翔」  作者: 超月 聖
2/8

見守る存在

傍にいた小姓に、屋敷に油をまき、火を付けるよう指示を出す。

「此処より先、誰も通すべからず。」

そう言い残すと、部屋に入り衾を占める。


「まさかあ奴が謀反をするとは。」

「面白きかな。わが生涯。」


 衾の隙間から薄っすらと煙が入ってきた。

「火付けは叶ったようだの。」

 そう言うと、床の間に飾ってあった茶器を手に取った。

「死出の供、申し付ける。」

 

 辞世の句を嗜もうとするが、この火の手では残らないだろうと考え、床の間の脇差を手に取る。


「死出の装束ではないが、腹を召すとしようか。」

 部屋の中央に正座し、脇差を正面に置いた茶器の上に置く。

 右手を襟口から出し、上半身の着物を脱ぐ。


 作法に従い、口に懐紙を含み脇差を抜き、鞘を背後に置く。

 その手に何かを感じた。

 咄嗟に、抜いた脇差を構え、振り返る。

 そこには、見た事のない服装をした、若い男が立っていた。

 面妖なことに、その男の眼の部分は、何か黒い物で隠されていた。

  

「何者か?」脇差を構えたままその男に問う。


「貴方の魂に呼ばれた者。」

「うむ?」

「信じては貰えないだろうが、貴方は自分の死後の世を見られない事が未練で、後の世に魂だけで存在してしまうんだ。」

「僕はその魂に呼ばれ、その魂に依頼されてここに来た。」


「なんと。」

「いや、その通りだ。」

「我が覇道、天下統一がそこに見えておる。」

「しかし、腹心に謀反され、その野望も潰えようとしておる。」

「叶う事なら、その行く末、この目で見たいものじゃ。」


「そうか。」

「しかし君は、本当ならここで死ぬ運命さだめだったんだ。」

「その願いを叶えるなら、君は転生して他の時代に行かなければならない。」

「君の魂は、それを承知で運命さだめを変える事を選んだ。」

「でも、まだ君には選択することができる。今ここで一生を終えるか、転生を望むのかを。どちらでも、君の望む方を言って欲しい。」

「わははは、なんと愉快。なんと痛快。そのような選択、迷う事も無い。転生を望むぞ。」

「たとえ人以外の者に生まれ変わっても、この世の行く末を見られるのなら。」


「・・・」

「判った。」

「君は転生する。」

「だが、その望みでは何時の時代に転生するか、何に転生するかは分からない。」

「僕の時代で、君を待とう。」


「おぉ、我が身体に暖かい光が流れ込んでくる。」

「我が身体が崩れていくのう。」

「おぉ、暖かいのぉ。」

 そして、そのまま意識が遠のいた。



 何者かの声で、意識が戻った。

「大殿がお好きだった木を、この城の守木としようかのぉ。」

 ふと見ると、家臣の中で3番目に控えた者が立っている。

周りを見ると、その者の後ろに立派な城が建っていた。

「ほぉ、我が建立した城には劣るが、立派な城だのう。」

 そう口にするが、その者に聞こえた様子が無い。


(ふむ、まあ良い。)

「此処は、我の城よりずいぶんと東方にあるようだの。」

「周りの空気が、違いよるわ。」

「しかし、我に謀反した者はどうなったのじゃ?」

「それに2番目に据えていたものは?」

「我が眠っているうちに、すべてが終わったようじゃの。」

 城下に広がる、町並みを眺めていたが、暫くすると、又意識が遠のいた。



 次に気が付くと、我の前を多数のおなごどもが歩いておった。

「な、なんじゃこのおなごどもは。」

 見ると、皆、城から出て行っているようだ。

「何故、あ奴の城にこのような多数のおなごが。」

しかし、この城のあるじを見て驚く。

「誰じゃ?おぬし?」

 この城のあるじには、我が家臣の面影は皆無であった。

「嫡男が出来ずに、養子をとったか?」

「まぁ、戦国の世ならそれもあり得るのう。」

「しかし、城の周りには見た事も無い服を着て、種子島に良く似た物を持った男達が多数いるが、又戦いくさが始まるのかのぉ?」

「うむ。我の力もだいぶ衰えたようじゃ。」

 眠気に抗えぬ。

 そこでまた、意識が遠のいた。



 激しい揺れでたたき起こされた。

 地面が恐ろしいほど震えている。

「うむ、大鯰が暴れておるか。」

「しかも、庶民共は朝げの支度中であるな。」

「いかん、いかんぞ。」

「このままでは大火が。」そう思った時、町のあちこちで火が上がる。

「う~む、皆荷車に荷物を載せて移動しておる。」

「それでは、その荷車が火元に、あぁ、言っている傍から。」

強風にあおられ、火は瞬く間に燃え広がっていく。

 東の方で、物凄く大きな火の渦が広がる感覚を感じる。

「おぉ、皆慌てておるわ。」

「しかし、此処までは火は来ぬようだ。」

「庶民共も、無事であればよいのぉ。」

 しかし、又意識が遠のく。

「うむ、もっと見守っていたいのだがのぉ。」



次に気が付くと、又塀の外が焼野原になっていた、

「何が起こったのじゃ。」


 我がいる場所は周りに火の気はないが、少し先の塀の向こうにはかなり大きな火が見える。

ふと空を見ると、巨大な鳥が、腹から何かを落としている。

この火災の元を降らしていると考えた。

「何者かの攻撃なのかのう?」

「天からの奇襲では成す術がないのう。」

「しかし、またいくさなのか。我の望んだ先の世は、このようなものだったのかのう?」

 町なかに広がる火を見て思う。

「敵の力を把握しておらなんだようじゃの。」

「敵を知り、己を知り、と言った古事を理解しておらぬようじゃ。」

「今この地を支配しておる者は無能な者と言う事かのぉ。」

 そこでまた意識が遠のいた。



何かが、自身の周りを走る足音で、意識が戻る。

見ると、堀の周りを露出の多い着物を着た者が、何人も走り回っておる。

 その中にはおなごの姿も見えるが、同じような格好をしておる。

「ふむ、鍛錬じゃな。」

そして気が付く。

「城の周りに巨大な箱が、あんなにも大量に。」

「あれは何じゃ?」

 その周りを走り回る箱から、先ほどの者達とは違う服を着た者達が出てくると、巨大な箱に列を作って入っていきおる。

「あれが今の城なのか?」

「それにしても、町並みがずいぶん変わったのう。」

「周りはあの巨大な城だらけじゃ。」


「ふむ。これが我の見たかった、先の世界なのかのう。」

(そのようだね。)

 頭の中に声が響く。

「誰じゃ?」

 そう言って、周りを見回すと、見知った男がすぐ傍にいた。

「おぬし、あの時と変わらない格好だの。」

「やっと貴方を見付けられた。」

「何を言っておるのじゃ?」と言って気が付く。

「お、おぉ。この姿は。」

 我は自身が松の大木になっていることを知る。

 その根元には、白い犬と、あの場所で最後に合った者の姿が。


「ふむ、三番目の家臣が、自身の城の庭に植えた、松に転生したという事か。」

「ふむ、それも良きかな。」

「樹木であれば、今後も幾年月、世の移り変わりを楽しめそうじゃ。」


「そう、貴方は、その寿命尽きるまで、今後も続くであろうこの世を見続ける定めに組み込まれた、」

「ただ、見ている存在に。」

「それは楽しそうじゃのぉ。」


 しかし、少年は思う。

(今後は僕も接触はしない。)

(自分の存在に、誰も干渉してもらえない地獄。)

(貴方の精神こころが壊れないことを祈るよ。)



「ふふふ、皆、我を楽しませてくれ。」

 その松は、今も城があった場所の片隅に、その姿を残している。

しかし、今では誰もその存在を気にしていない。

只、そこに古くからあるという認識しか。

誰もその松に興味を示さない。


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