徳川埋蔵金を探せ
「埋蔵金って本当にあるんですかね?」
プロデューサーは藤崎の反応を見る。
先日、他局の徳川埋蔵金を探す番組が放送された。
高視聴率だったようだ。
林先生よる幕臣小栗上野介の着目が斬新だった。
藤崎は苦笑いを浮かべた。
以前このプロデューサーの番組に2度コメンテーターとして出演している。
『ワープ(瞬間移動)』、『ゴーストバスターズ』。
名探偵であるが、小説家になりたい藤崎は、小説がドラマ化、映画化された時のことを思い、
テレビ局との繋がりは必要だと判断した。
「小栗は私も好きです」
藤崎は笑顔を作って答えた。
以前から林先生と好きな人物が一致すると思っていた。
河井継之助、上杉鷹山、それに小栗上野介・・・
「でも、群馬山中にありますかね?」
番組を見た藤崎は疑問を持った。
プロデューサーは藤崎の反応を見て、嬉々とした。
できる、と思った。面白そうな番組が。
「じゃあ、どこに?」
「天才、小栗ですよ」
林先生は小栗を天才と称した。
小栗は、米国に日米通商航海条約の通貨レートの不平等をアメリカに認めさたり、
横須賀に製鉄所、造船所を築いたりした。
もし、その造船所がなかったら、日本の運命は変わったかもしれない。
それは日露戦争。
日本海海戦で圧勝した連合艦隊司令長官の東郷平八郎は、
この造船所を建設したことを小栗の子孫に感謝した。
ふむ、ふむ、とプロヂューサーは頷く。
「ちょっと泥臭いですね」
藤崎はプロデューサーの反応に驚いた。
感性はさすがだ、と。
藤崎もそう思った。
今で言えば、小栗は天才キャリア官僚だ。
プロデューサーは、藤崎の反応を見極める。
「何か、思い当たる所があるんですね?」
藤崎はニコリと微笑む。
「名探偵にお任せあれ」
藤崎は胸に手をあて、深く頭を下げた。
3年後、テレビだけでなく、新聞が大ニュースを報じた。
『徳川埋蔵金、見つかる』と。
それは林先生が着目した小栗上野介の隠し財産だった。
その金額、千数百億円。
幕末、小栗は幕府再建のため、フランスから莫大な借り入れをした。
それで横須賀造船を建造したり、軍備を洋式化した。
その残金が見つかったのだ。
その場所は山中ではなかった。
小栗らしい場所だった。
米国に渡ったり、世界事情に精通している小栗ならではだ。
ただ、簡単には見つからなかった。
だから、3年かかった。
藤崎はまたしても太田の力を使い、日本政府を動かした。
その結果、口が堅い先方が明らかにした。
先方とは、スイス銀行だった。
幕末にスイス?と思うかもしれない。
しかし、スイス人も既に日本に訪れている。
長岡藩家老、河井継之助はスイス人商人のつてで、
ガトリング砲を購入したことは有名である。
時代の最先端をいく小栗は、日本人として初めてスイス銀行に口座を作った。
これ以上ない、お金の隠し場所になった。
こうして小栗上野介の埋蔵金は見つかった。
いや、小栗のではなかった。
小栗が心酔していた将軍の名義だった。
徳川家茂。
若くして亡くなった清廉の、徳川14代将軍。
篤姫の夫だった。
『徳川埋蔵金を探せ』番組の放送が終わった。
プロデューサーに番組の出演を要請されたが、固辞した。
もともとは林先生の案だ。
藤崎はグラスを掲げた。
「徳川埋蔵金に乾杯」
完全にフィクションです。
でも、自分が小栗なら・・・