平隊員、ドラゴン退治
始めまして、カールグスタフM2です。
3000字も無い超短編で、戦闘描写が9割9分です
こりゃだめだと思った方はブラウザバックをどうぞ。
異世界の扉。それだけ聞けば、なんてファンタジーだろう。
それが、魔界へと準じる扉だとすれば、一気に悪夢へと姿を変える
もういやだ。帰りたい。何度この言葉を心の中で呟いただろうか。けれど、俺は逃げなかった。否、逃げる事などできなかった前門の虎、後門の狼、といった状況下であった。
突破口には、神話の怪物達がうじゃうじゃいて、どうにもならない。
退路には愛する父と母と兄弟達と、守るべき市民達が居た。
「来るぞ!総員盾構え!」
その言葉とほぼ同時に広がる紅い炎。一瞬で数人が灰になり、もう数人がやけどで苦しんでいる。
目の前に居るのはドラゴン。その神話上の生物は真っ赤な鱗で体が覆われ、火を噴き、防塵チョッキを簡単に食い破り、戦車をあっさりと捻り潰した。セラミック製の暴動鎮圧用のシールドから見える奴の目は、愉悦で染まっていた。
正に、子供がカマキリや蟻を分解したり、ナメクジを踏み潰したりするような感覚なのだろう。一度爪を振れば数人がミンチへと姿を変え、火を噴けば十数人が身元不明遺体へと変わっていく。
どうしてこうなったのだろうか。もう考えることなどできなかったが、それでも必死に警棒を叩き付けた。本当は近寄りたくすらなかったが、家族の避難はまだ終わっていない。
僅か、数秒でも時間稼ぎが出来れば良いのだ、と。そう考えていた。
その怪力をもってして、ドラゴンの爪が振るわれる。咄嗟にセラミックシールドを構えるもののあっさりと弾き飛ばされ、窓をぶち破ってビルの2階へと入っていく。ドラゴンの爪が鈍くてよかった、とそう考える暇もない。
大きくひしゃげて千切れたセラミックシールドを投げ捨てて、腰にかけていたサブマシンガンを構えた。ドイツからの戦術支援物資、H&Kだ。
貫通力が高く、発射時の初速は拳銃団の二倍以上、秒速で700mを超えると聞いた。
ビルの中は滅茶苦茶だったが、三階、四階へと駆け上る。奴が飛んでも、すぐには届かない場所へと。
四階のオフィスに到着すると、窓を叩き割る。そのまま膝を突いて銃を安定させると、サイトをにっくき紅いドラゴンの翼へとむける。
飛べなくなれば万々歳、ついでに死んでくれれば言う事無しだ。
「『右手のビル四階から手榴弾および支援射撃!一旦下がれ!』」
「『了解した!』」
所属部隊へ無線で通達した後、手榴弾を投げつける。カンッと当って若干はねると、爆発。ドラゴンをひるませると同時に、翼へと射撃を開始する。40発の弾丸がドラゴンへと向かっていく。
やや狭い道路だが、跳弾など気にしなかった。ドラゴンの翼の皮膜が、大きく削げる。怪物の唸り声が辺り一帯に大きく響いた。
「GYAOOOOOOOOOOO!!!!???」
「『死に晒せ糞とかげ!』」
少し後退していた部隊が戻ってきて、一斉射撃を開始した。弾丸と共に幾つか手榴弾も飛んでいく。パン、パンと乾いた音が数回鳴ると同時にドラゴンが疲弊していく。俺もマガジンをセットして再射撃。翼が一個、根元からもげて落ちた。
「『グッジョブ!』」
「『まだ生きてるからな!』」
マガジンの切れたサブマシンガンをドラゴンへ放り投げると、そのままもう一個手榴弾を投げた。乾いた炸裂音が響き、ドラゴンを唸らせる。だが、当たり所はそこまで悪くもなかったらしく、此方…つまり、右手ビル四階へと目を向けた。
「やっべぇ!」
思いっきり反対側へ走ると今度は駆け下っていく。何段か踏み外すか、死ぬよりはましである。
そのまま一階へと駆け下りると、ドロドロに溶けたガラスが落ちているのが見えた。何て温度だろうか。検証したくもないので、どうでも良いのだが。外へと出て、スライディングで部隊の元へと戻る。
ドラゴンは一枚翼がもげており、また鱗も数枚剥げて、焼け焦げが付いており、それなりにダメージを受けているのが分る。
「お帰り。ローストチキンの気持ちを味わえたか?」
「焼き具合はミディアムレアって所かな」
そんな会話を終わらせると俺はじりじりと下がろうとする。が、そんな姿を見た隊長が満面の笑みでショットガンを手渡してきた。
フランキ・SPAS-12と呼ばれるフランス製のショットガンだ。戦闘用の散弾銃としては高性能なそれが、隊長用にカスタムされていた。特殊用途向け。その名に恥じない性能。今は要らないのだが。
「いけるとでも思ってんのか?」
「ですよねぇ…」
俺はそれを受け取りつつも、思いきり溜め息を付いた。また、大いなる敵へと向かう時が始まった。俺はエースの隣にたって、スパスを撃ち始めた。
「こなくそぉ!いい加減に死ね!」
大声で叫びながら、超至近距離でドラゴンの背中へとスパスを連射する。これでスパスの弾丸は全て打ち切ることになった。そして、とうとうドラゴンがへたり込んだ。
血がかなりの勢いで溢れていっており、その血で滑って思いっきり体を地面に打ち付けるが、まだ油断はできなかった。
恐る恐る、ドラゴンの顔へと近付いて聞き耳を立てる。呼吸音は聞こえない、開きっぱなしの目にも生気はない。殺した?殺せたのか?不安が俺の中に残ったが、一旦休息する。
俺は他の二人と一緒に安堵した。残りの部隊は俺を含めて3名しか生き残っていない上、あとは隊長の拳銃程度しか弾が残っていなかった。
殆ど確信はえていたが、仮死状態かもしれないと思い立ち、恐る恐る、ドラゴンの頭を思いっきり警棒を叩き付けた。反応は無い。
「どうも…殺せた、らしいな?」
「まじか…?」
「皆…死んじまったな…」
3人は生きてはいたが、素直に喜べなかった。極度の緊張状態が終わったせいか、ドラゴンを倒せたというのに、3人に余裕はなかった。ただ、ビルの冷たい壁にぴたっと背中をつけて大きく息を吸って吐く。
俺と、隊長と、エースである勇真しか残っていなかった。なんで、俺は生きているのだろうか。
「『―――答せよ、応答せよ!3番隊、ドラゴンはどうなった!応答せよ!』」
奇跡的に踏み潰されなかった無線から大声が聞こえてくる。勇真も隊長もまったく動こうとせず、けだるげな様子なので俺が拾い上げて、返事をした。
「『こちら三番隊…ドラゴンの討伐に、成功いたしました』」
「『本当か?!やったぞ!第一歩だ!で、生還者は?』」
「『………私を含め、隊長と、勇真の、三名のみ、です。至急、回収をお願いしたい』」
それだけ言うと無線を切り、俺は眠りに付く事にした。冷えたビルの壁が妙に居心地良かったのを覚えている。
いきなり開いた、異世界への扉。あふれ出るモンスター。正に悪夢のようであった。
きっと明日も、明後日も、明々後日も駆り出されるんだろうな…そう思いながら、俺は深い眠りに付く事にした。
平隊員…杉林 宗司 自らをそこまででもないと評するが、実際はかなりの身体能力を有している。この後も任務を遂行していくが、書く予定はない。
辻 勇真…幾つもの任務を遂行し、目覚しい功績を挙げたエース。
隊長…谷口 颯太 主人公の所属する部隊の隊長。
中々良いキャラをしており、なおかつ人付き合いがいい。
駄作ですが、いかがでしたでしょうか。
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