私が各駅停車に乗る理由。
私の家の最寄り駅は、いくつかの路線が交差する、わりと大きめの駅である。
そのため各駅停車他、快速や急行、何でも停車してくれるのがありがたい。
大抵どこかへ行くときは、できるだけ早いものに乗りますが、帰り道、夜遅くなった時は決まって“各駅停車”に乗る。
それがいつしか習慣のようになっています。
「今の時間だと、急行のほうが早いんじゃない?」
「もう帰るだけだから、急いでないし……。ゆっくり帰りたいかな、」
ちょうど今から一年くらい前、お気に入りのコートを出した頃に別れた彼氏は、最寄り駅が同じ線だった。
彼の最寄りは、各駅停車しか止まらない、小さな駅。
今はもう、
「ゆっくり帰りたいから」
なんて言う相手も、
「夜遅いけど大丈夫?」
と聞いてくれる人もいない。
流れていく景色をぼけっと眺めながら、通勤ラッシュを過ぎた余裕のある車内の中に私は居る。
時には各駅停車しかとまらない、ひとつ前の駅で降り、歩いてみることもある。
都内なのに、星が綺麗に見えるから。
冬の澄んだ空気が、より一層星を輝かせる。
元彼は星なんて興味がない人だったから、
「帰り道に見上げる星が好きなの、」
なんて言ったら、笑ってた。
冬のバラード女王と呼ばれる歌姫の、ある曲をエンドレスで流しながら歩く15分が、私の大好き、かつ大切な時間。
精神安定剤、みたいなものなのかな。
なんて、最近はそう思う。
「あんた、そんな事してるの?
元彼に未練でもあるの?」
友達にはそう言われる。だから、
「未練なんてないよ、私。
一人になる時間って、大事でしょう?」
と言うのだけど、
「ちょっとそれ、形が違うんじゃない?まあ人それぞれなのかな」
なんて軽くあしらわれてしまう。
私なんて、そんなもの。
テレビで紹介されたお酒のおつまみがどうしても食べたくて、手に入れるまでコンビニをハシゴしてみたり。
コンビニのカードに入ったポイントを頼りに、お金の入っていないお財布を持って歩いてみたり。
ピンヒールの靴で点滅している信号を走ってわたったり。
半年に一回しか発行されない占いの本を律儀に買い続けたり。
悲しくなるくらい、自分はバカなんだと思う。
そんな自分を相手にしてくれる人が居るだろうか。
どこにいても、星は存在して。
何があっても、星は輝いていて。
そんな星のような人に、私は出会える日がくるのだろうか。
“未練なんてない。”
私は確かにそう言ったけれど。
どこか何か、未練のように思うことがあるのかもしれない。
その気持ちに、自分で気づかないフリを続けるなんて……。
何気なくついたため息は、白く、風に流され消えていった。




