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軍師皇妃はお披露目を求める

短めです。

清豹シンフェオや丞相、蔡郭サイカは皇妃のお披露目を一週間後に定めた。

それを翔呀ユゥグが夜の軍戯の折に玲瓏リーロンに伝えれば、そうかと呟いただけだった。


「なんだ、興味が無いのか」

「無いな」

「なに?」

「今の私は軍師玲瓏(リーロン)だぞ? 梨由リユンのことにさほどの興味があるものか。むしろ早く玲瓏わたしの方のお披露目をしてくれ」


退屈でならん、と玲瓏リーロンは仮面の下で口を尖らせた。


あの街に出た日以来、しばしば翔呀ユゥグを見にいくふりをしては訓練を見学していた梨由リユンは、蘭杳国の誇る軍の強さに高揚していた。


——あの軍を指揮して戦いたい。


苦境を覆す策を考え出すのが軍師の仕事とはいえ、最強の軍団を操るのに魅力を感じぬ軍師はいない。


「然し、お前は軍師だろうが。皇妃とはまた違うぞ。

この国の軍に打撃に与えたのはお前と言って差し支えないのだから、その分恨みもかっておろう」

「その軍師を欲したのは陛下、貴方であろうに」

「俺は面白いものが好きだからな」


そう笑うと、玲瓏リーロンは呆れたようにため息をついた。


「……はぁ」

「なんだ、そのため息は」

(いえ)、何でも。然し、陛下よ。軍師が最も殺しうるのは敵の命ではないぞ」

「は?」


玲瓏リーロンは駒を一つ進めた。


「味方の命だ」

「味方の?」

「軍師が将軍に準ずる立場である理由を知っているか? それだけ責任が重いからだ。そして、誰もの信頼を得ねばならぬからだ」


顔を隠した私が信を得るのは難しかった、と玲瓏リーロンは思い出して言う。


「どうやって、信を得たのだ?」

「さて。どうであったかな」


玲瓏リーロンにしては下手すぎる誤魔化しだった。翔呀ユゥグは眉を寄せた。


「教える気は無いと?」

「そう言うことだ」

「……言え」

「其れは命令か?」

「命令だ」


大人げのない、と玲瓏リーロンは笑った。そこで翔呀ユゥグは、玲瓏リーロンがそれを言いたくてあえて誤魔化したことを理解した。


——大人げがないのは一体どちらだ。


そう思いながらも口には出さなかった。

玲瓏リーロンの武勇伝を、その本人からから聞けるかもしれない絶好の機会だ。


「ふむ。そうだな、明確に信頼されたと実感したのは、山間遊撃作戦が成功した後だな」

「ほう、して其れはどんな作戦だったのだ? 何を使ったのだ?」

「熊だ」

「は?」


熊。武器でなく、熊?


「蘭杳国とは反対側の国、碧陝国が攻めてきた時のことだ。彼処あそことの国境(くにざかい)は山でな。山の麓に関所を置いてはいるが、そこには地方軍という強い軍を置いているものだから、攻めるものは大抵山路を通って来る」


そこで、と玲瓏リーロンは指を立てた。


「碧陝国が攻めてくるという情報を、間者のものから得るとすぐに、獣道を人が通るための道に、人の道を獣道に変えたのだ」

「変えた?」

「ああ。冬だったからな、木を抜き、植物や土などを工夫して、雪を整えたのだ」

「それは……商人などが通る時には困るのではないか?」

「商人はわざわざ其処を通らん。関所を通る」

「なるほど」


それで熊のねじろに誘導したのか、と言えば、その通り、と玲瓏リーロンは笑った。


「熊にあって一瞬行軍が止まった隙に、山の上部で火術をやらせて」

「火術?」

「ああ、火薬に火を付け爆発させた、ということだ。そうすれば、雪崩が起こるだろう? それによって敵軍の半数近くが行動不能になり、残った者らも散り散りになった」

「その時の戦力差はいかほどだったのだ?」

「敵軍が3000ほど、此方が300だったかな」

「十分の一か……」


その後結局、道が雪で塞がれてしまったために、向こうは侵入経路を作るのにまた一苦労したわけだ、と玲瓏リーロンは締めた。


「其れで」

「ん?」

「今度は信頼を得るために何対何の戦いで勝利を納めるつもりだ?」


玲瓏リーロンが仮面の下で笑ったのが分かった。

翔呀ユゥグの言葉はつまり、玲瓏リーロンのお披露目をしようという意思だった。


「二対五十だ」

「二? その“二”というのは……?」

「ふふふ、それは決まっておる」


玲瓏リーロンはゆっくりと自分と、そして対面の相手——翔呀ユゥグに手を向けた。


「私と、陛下だ」

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