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軍師皇妃は軍と戦う 参

すみません、もう少し対軍戦続きます(^_^;)

玲瓏リーロン藜舜ライサオの決着は、その熾烈な戦いに反してあっさりとしたものだった。


藜舜ライサオの槍を受け止めながら、短剣を持っていた方の左手を玲瓏リーロンが降ると、それ(﹅﹅)は現れた。


シュンシュンと風切り音を立てて、藜舜ライサオの体に絡みつく。


「なっ、これは……!」

「ふふ、悪いな。隠していたのは短刀だけではない……と言えど、これで最後だ」


玲瓏リーロンの袖から放たれたのは、流星錘リュウセイスイだった。

紐の先に重りをつけて投げるそれは、まさしく隠し武器である。


「くっ!」

「縄抜けしようと思うても無駄だぞ? とある戦闘民族に伝わる秘法にて作られた紐だ。

無理に引っ張れば汁が出て、余計に締め付け絡まる」


だからこそ製作するにも一苦労で、管理も大変な代物だ。

なおかつ鉄製でなく木製の重りのため、うまく操れるかに不安があった。

備えあらば憂いなし、と持っていたものの、玲瓏リーロンとて出来れば使いたくなかった武器である。


然しそんな雰囲気など微塵も見せはしない。どころか、


「読みが甘かったな、右将軍どの?」


と笑ってみせさえする。


——さぁ、これで障害は片付けた。


藜舜ライサオを行動不能に出来れば、あとはこちらのもの、である。


「そこでよぉく見ておかれると良い、私の戦う様を」


そう言う様子は、軍師には少しばかり悪役味に満ちてすぎている。

対峙する兵士らには、何処どこか怯えの色が見えたが、


「かかって来ねば、こちらから行くぞ?」


玲瓏リーロンの言葉に一斉に向かって来た。


まずはやはり、剣を狙われた。

泥臭いという自覚はあるのだろう、顔を歪めながらも三人がかりで剣を押さえつけられる。

そうなれば、膂力では決して男に敵うはずのない玲瓏リーロンは剣を離さざるを得ない。


カラン。

玲瓏リーロンの持っていた木剣も短刀も遠くに投げられた。


武器も持たぬ玲瓏リーロンに向けて、勢い良く剣が振り下ろされる。


「覚悟ッ!」

「堪忍なされよ軍師どのっ!」



そう、これで戦いは終わるはずだった——本来ならば。


だが、振り下ろされた剣が、玲瓏リーロンの元に届くことはなかった。


剣を離した玲瓏リーロンの手の中には再び武器が戻っており、そしてそれが全ての剣を受け止めていたのだ。


それは、長い棒状の武器——(こん)である。


「こ、棍だと!? 先ほどの流星錘が最後ではなかったのか!」


ざわつく兵らに、玲瓏リーロンは呟くように言った。


「そのようなこと、誰が言ったのだ?」

「「「「お前だっ!!」」」」

「……ふむ」


玲瓏リーロンは一度、数々の剣を払った。


「……まぁ、軍師というのは言葉遊びが好きなものなのでな。容赦なされよ。

それに軍師わたしの信条は“正々堂々”でも“百戦百勝”でもなく、“人を屈する”こと……」


それから再び打ち込まれたそれらを今度は上で回すようにして受けとめてみせる。


「戦わなくても良いのならば、それに越したことはないのだが?」


玲瓏リーロンは遠回しに降伏を求めたが、誰がっ、と誰かが怒鳴れば、皆が頷きあって一層の力を込めてくる。


玲瓏リーロンはニヤリ、と笑った。

全て読み通りだった。


「そうそう、言い忘れておった。残念ながら、これは棍でなく——」


そして、左右の手の位置を少しだけ中心に寄せる。

その瞬間、ガクンと兵士たちの体がよろめいた。


「三節棍でな」


真ん中だけやたら短く作られた三節棍。

その連結部分を巧妙に手で隠し、補強していたのだ。

突然に支えを失い、重心を乱した兵士らはまるで隙だらけだった。


カシャン。再び繋がれた棍は、今度は防ぐ剣もない兵士らを打つ。


「ガァ!!」

「グフッ!!」

「悪く思わんでくれよ?」


その言葉の時、兵士は既に残り半分にまで減っていた。


「——くそっ!!」


藜舜ライサオも、何度も抜けようとしたが、関節を外して抜ける隙すらない。

何も出来ないのは、歯がゆいを通り越して屈辱だった。


玲瓏リーロンはその間にも、的確に正確に、急所を打って兵士を気絶させていく。

なまじ先ほどの一斉攻撃の失敗を見たために、皆でかかってくることへの躊躇いがうかがえる。


棍という隠し手を失った今、大勢で向かってくる方が成功の確率は高いかもしれぬのに、だ。


——混乱すれば、人は同じ轍を踏むか、或いは失敗を極端に避けるようになる……先のあれ(﹅﹅)は、軍師わたしの、得体の知れないという印象をより強めたのだろうな。

ふふ、予定通りだ。


玲瓏リーロンが脚を蹴りあげれば、脹脛ふくらはぎに括り付けていた短刀が露わになる。

また武器が、と兵らが身構えたが、玲瓏リーロンはその短刀をバッと投げた。


皆の目が一瞬それに集まったその瞬間。


玲瓏リーロンは奪われていた剣と、倒した兵の木槍を拾い上げていた。

そして、


「隙だらけだ」


一つ()ぎ、二つ薙ぐ。

玲瓏リーロンはついに、23名全ての兵士を倒した。

つまり、残すところは、


「あとは、お前だけだぞ?」

「くっ……!!」


ただ一人。

長い手足を持つその青年は、木刀を振り回し向かって来たが、玲瓏リーロンは剣も木槍も地に落とした。


ただ素手でその攻撃を受け流し——腕をとり、ひねり上げて地面に押し倒したのだ。


「グッ!?」

「ふぅ」


完璧に関節を固定され、その青年は、玲瓏リーロンより遥かに力はあるだろう青年は微塵とて動けなかった。

勝負は決した。

玲瓏リーロンは仮面の下、ただ笑う。


「これで私の勝利と思うが——如何いかがかな、右将軍どの」


藜舜ライサオは黙って玲瓏リーロンを睨んだ。

無言の、肯定だった。


ちらりと翔呀ユゥグの方を見れば、翔呀ユゥグはとうに勝利を得ていた。

玲瓏リーロンが殆どの兵を気絶させて倒したのに対し、翔呀ユゥグと戦った兵は息を荒くし動けなくなっているものばかりだった。


流石だ、と玲瓏リーロンは笑った。

訓練の様子を見ながら思っていたことだが、翔呀ユゥグは敵を気絶させずに倒すことが上手い。

だからこそ、一対二十五でなく、二対五十にしたのだ。



玲瓏リーロンがこれよりすることには、証人が不可欠なのだから。



玲瓏リーロンは、すぅ、と息を大きく吸い——


「聞けぃッ!」


咆哮にも似た、声の砲を放った。

《豆知識・補足》

今回は調子に乗って好きな武器とか出しまくったので多いです。

興味のない方はスルーくださいませ(^_^;)



○流星錘

紐や縄の先に重りを付けた武器。

本来は捕縛よりも鈍器として使われますので、金属製の重りを付けます。

ちなみに、某サ⚫︎デーの漫画『マ⚫︎』の元暗殺者さんが使っている縄鏢(縄の先に短剣もどきを付けたもの)は、この流星錘の派生です。


○棍

棒状の武器、というより、ほぼ棒。


○三節棍

三つの繋がれた棒で、作中では、さらにはめられるタイプのものとしました。

実際は一本の棒として使うには強度に不安がある感じです。

他にも五節棍とか多節棍というのもあります。

イメージとしては、ヌンチャクの別名が二節棍ですので、あれの棒がもう一つ増えたものだと思っていただければ。




ちなみに今回の玲瓏リーロンの台詞に、


軍師わたしの信条は“正々堂々”でも“百戦百勝”でもなく、“人を屈する”こと……」


とありますが、これは、『孫子』の中の、


「百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。」


という言葉を踏まえています。

戦いというのは物資や人材の面で損失がとても多かったので、それを損なうことなく相手を倒せるのがやはり最良だ、ということです。


長々失礼しましたm(_ _)m



……それにしても、ヒロインが強くなりすぎて守られなさそうというより、最早守る側に回りそうですね(^_^;)

ある意味これも主人公最強ですかね?

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