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魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
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第11陣Sword & Date 前編

 その勇者は、サクラという名前だった。


「へえ私の名前と同じ名前なんだ」


「完全に一緒っていうわけじゃないけどな。俺の場合は名字が桜木ってだけだし」


「私はサクラだもんね。その苗字というのもないし」


 勇者と共に世界を救う旅に出ることになった俺は、勇者がまさかの女性だという事に驚かされた。テンプレ通りだと普通勇者というのは男の役割だと思っていたが、意外や意外。

 しかも彼女はその名の通り桜のように華麗で美しく、到底勇者には向かない容姿端麗さがあった。


「ヒスイはさ、遠い異世界からきた人だって聞いたけど本当?」


「ああ。いきなりこの世界に呼び出されて、魔法を覚えろだ、勇者と一緒に世界を救えだ色々酷かったよ」


「でもちゃんと覚えたんだよね? 魔法を」


「ああ。二週間師匠に教え込まれた」


「に、二週間であそこまでできたの!? いいなぁ、羨ましい」


「俺はサクラの方が羨ましいよ」


「どうして?」


「俺にとって勇者って小さい頃のちょっとした憧れだったし。世界を救えれば一躍ヒーローになれるんだろ? それって格好いいじゃん」


「格好いい……か。私そんなこと思ったことないけど。半ば強制的にやらされたようなものだし」


「強制的に?」


「うん。だから私もヒスイと同じようなものなんだ」


 サクラは戦いを嫌っていた。常に戦い以外での解決法を考えていて、どうにかならないかと悩み続けていた。


「ねえヒスイ、戦いってどうして続くんだろう」


「それは俺にも分からない。魔王がどんな理由でこの世界を蝕んでいるのかなんて知らないし、どうしたらそれら全てが終わるかなんて想像もつかない」


「そうだよね……」


 結局最後まで戦いに身を投じることになってしまったわけだけど、その疑問については最後まで答えは出なかった。


(俺たちの世界だってそうだ。争いなんて理由がなくても起きる。そしてそれを止める理由なんて誰にも分からない)


 でもその答えを皆が欲しがる


 答えなき答えを


 そしてそれを求め続けた結果、


「今日まで……ありがとう……」


「サクラ! お前が……一番頑張ってきたお前がこんな形で居なくなるなんて駄目だ! サクラ!」


 俺達は最悪の結末を迎えることになった。


 ■□■□■□

「っ! はぁ……はぁ……」


 久しぶりに寝覚めの悪い朝を迎えた。


(なんでまたあの夢を……)


 手汗がすごい。


「くそっ!」


 何度でも不意に見させられるあの悪夢。俺に忘れるなという意味で見させてくる夢なんだろうけど、それを跳ね除け続けるのにも限界がある。


「おはようございますヒスイ様……ってどうされたんですか? すごい汗をかいていますけど」


 苛立ちを隠せずにいるとノブナガさんが部屋に入ってくる。どうやら起こしに来てくれたらしいのだが、俺は彼女の言葉に反応できなかった。


「何で苦しめ続けるんだよ」


「ヒスイ様?」


「頼むからもうやめてくれ!」


「ヒスイ様!」


「っ!」


 何度かノブナガさんに名前を呼ばれたところで、ようやく俺は我に返る。


「の、ノブナガさん?! ど、どうしてここに」


「ヒスイ様を起こしに来たんですけど……どうしたんですか? 顔色すごく悪いですよ?」


「こ、これは」


 見られたくないところを見られてしまい、俺は慌てふためく。けどノブナガさんはそんな俺を優しく抱きしめてくれた。


「何があったかは私には分かりませんが……大丈夫ですよ、ヒスイ様」


「ノブナガ、さん?」


「落ち着くまでこうしていてあげますから、どうか心を鎮めてください」


「……はい」


 不思議と暖かった


 ただ抱きしめてくれてもらっているだけなのに、まるで悪夢が消し去っていくかのように俺の中の不安は消し去っていった。


(どうしてだろう……こうしてもらっているだけなのに……)


 すごく落ち着く



 その後、ノブナガさんのおかげで落ち着きを取り戻した俺はいつもの状態に戻り、何も変わらない時間を過ごしていた。


 そしていつも通り昼食を食べ終えた頃


「ヒスイ様、私ともう一度手合わせしませんか?」


 ノブナガさんがいきなり手合わせを申し込んで来たのだ。俺は断ろうかと思ったものの、どうしてもと言われ、彼女に付いていくことに。


「うん、ここら辺でいいですかね」


「あのノブナガさん、ここ何もないんですけど大丈夫ですか?」


 ノブナガさんに連れてこられたのは、城から少し離れた何もない真っさらな平地。


「むしろ何かあったら困るので、ここを選んだんです。ここなら十分に戦えると思います」


「確かにここなら戦いやすいですけど、どうしてまた手合わせだなんて。この前したばかりじゃないですか」


「手合わせは何回もやるものなんですよ? その度に戦いのスタイルを変えて、敵の戦い方のスタイルに臨機応変に対応する、これが戦場での生き方です」


「なるほど」


 確かにその言葉には一理ある。


「けどどうしていきなり」


「ヒスイ様が心配になったからですよ」


「心配?」


「今朝の一件もそうですが、ヒスイ様って時折悲しい顔をするんです。特に異世界の話をした時に」


「それは……」


 その度に自分の傷に触れなければならないからだなんて言えない。でもそれが顔に出てしまっていて、それで心配かけているなら謝らなければならない。


「余計な心配をかけたならすいま」


「だから手合わせをして嫌なことを忘れましょう!」


「え?」


「嫌なこと、思い出も全部この剣で私が受け止めてあげます。だからまた思いっきり私に挑んで来てください! ヒスイ様」

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