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第135陣最後の願いと最後の想い

 本当はヒスイと戦える分の体力は、私の体にはすでに残されていなかった。こうして彼と剣を交じり合わせている事ですら奇跡なくらい。


「本気でこないと私は倒せませんよヒスイ」


「そっちこそ。それともやっぱり戦えないんじゃないんですか?」


「そんな事ありません! これは私にとって最後の戦いですから、諦めませんよ」


 最後の戦い、その言葉を使いたくはなかった。でも残された時間を考えてしまうと、もう体を動かせるのも恐らくこれが最後になる。こうしてヒスイと本気で戦う事が出来るのも、


「私……こうして最後にあなたと剣を交わせることを光栄に思います。あなたのように私ももっと強い人間として上を目指したかった」


「ノブナガさんは十分強いですよ。俺が適わないくらいに」


 つばぜり合いをしばらくした後にお互い離れる。彼と一番最初に戦った時、私は彼がいつかは私を超える事を確信していた。いや、あの時の時点で私は彼よりも弱かったのかもしれない。


 でもだからこそ、彼の強さを目標にして沢山戦ってきた。


 そうすればもっともっと、私も強くなれると思ったから。そうすれば、この場所をずっと守り続けられると思ったから。


「私はあなたがいたから強くなれたんです。だから」


 私は一度太刀を鞘に納め、いつでも引き抜ける状態を保ったまま彼に接近する。


「俺も……ノブナガさんがいたから、強くなれたんです。だから」


 その動きを見たヒスイは、何故か太刀を鞘にしまう。そして私が至近距離まで接近して、太刀を引き抜くその動きに合わせて、彼も太刀を抜いた。


「この勝負私が勝たせてもらいます」


「この勝負は俺が勝って、最後にあなたを超えさせてもらいます」


 ほぼ同時に抜かれた二つの刃は勢いをそのままに交わり、片方の太刀が持ち主の手から離れ宙を舞った。


「この勝負、どうやら俺の」


 宙を舞ったのは私の太刀。武器を手放してしまったら、ほぼ負けに近い。だけどまだ私は諦めていない。


「まだですよ、ヒスイ」


「え」


 私は彼を踏み台にして宙へと舞い。その太刀を空中でキャッチ。そこから私は空中で一回転して、その勢いのまま彼に太刀を振り下ろす。。


「ぐっ」


 ヒスイはそれを何とか受け止めたものの、私の勢いは止められずに、バランスを崩す。


「これで私の」


 追撃をしようとしたその時、私の体はまるで石のように固まって、動けなくなる。そしてその次に私を襲うのは、脱力感。それと同時に急に意識が遠のく。


「ノブナガ……さん?」


「ヒスイ、すいません私」


 力が入らなくなった私は、そのままヒスイの胸に倒れこんでしまう。朦朧とする意識の中で、私の耳には彼の声がしっかり届いた。


「ノブナガさん、しっかりしてください! ノブナガさん!」


 私の名前を呼ぶ彼の声に応えられる力も残っていない。どうやら私の体はもう……。


(ごめんなさい、ヒスイ……ヒデヨシさん……)


 ■□■□■□

「ヒッシー、ノブナガ様は?」


「一応今は一命を取り留めたって。でももう、長くはないって」


 ノブナガさんとの手合わせの後、急いで医者を呼んで様子を見てもらった。分かってはいたけど、ノブナガさんは本当なら戦う事はできないくらい体は弱っていたらしい。そして一つ医者から聞いた話で、衝撃を受けた話が合った。


「え? 今なんて言ったの?」


「だから余命三ヶ月は嘘だったんだよ。本当はずっと前からノブナガさんは……」


「そんな、どうして! じゃあノブナガ様はもう」


「このまま意識を取り戻すことはないかもしれないって」


 それはノブナガさんが俺達に嘘をついていた事。余命は本当はとっくに過ぎていて、もういつ倒れてもおかしくない状態だったらしい。詳しく聞くと、マルガーテとの戦いの前から本当は体は限界に近づいていたらしく、本人は戦場で散って俺達には病気の事は最後まで隠しているつもりだったみたいだ・


「じゃあ私達はそんな事もつゆ知らずに、今日までノブナガ様と一緒にいたの?」


「そういう事になるな」


「どうしてヒッシーはそんなに冷静なの?! ノブナガ様がもう長くないんだよ?」


「冷静なわけないだろ! 俺はそんな事も知らないで、ノブナガさんとさっき手合わせしていたんだぞ。やっぱり止めておくべきだったんだよ、あんな事」


 ノブナガさんがそれを望んだから仕方がないのかもしれないけど、結局決着も付けられないまま終わってしまった。ノブナガさんも時間がもうないと分かっていたからこそ、手合わせを望んだのだと思うが、事情を知ってしまったらやはりやめておくべきだったと後悔してしまう。


 もし手合わせをしなかったら、今日倒れる事もなかったのかもしれない。


 そう考えると胸が苦しい。


「とにかく今はノブナガさんが目を覚ますのを信じて待とう。こんな別れ方、ヒデヨシだった嫌だろ?」


「……」


「ヒデヨシ?」


「ごめん、ヒッシー。私、しばらく城を離れる」


「おい、お前何を言って」


「ヒッシーだけでもノブナガ様を看取ってあげて。私はもう、こんなノブナガ様を見ているのは辛くて嫌だから」


「ヒデヨシ!」


 ヒデヨシは俺の呼びかけも無視してどこかへ行ってしまう。


(最悪だ……)


 この日ヒデヨシは安土城から本当に姿を消してしまった。残された俺は、ただひたすらノブナガさんが目を覚ますことを待つことしかできなかった。


 そしてそのまま、三日の時間が過ぎた。


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