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第132陣ヒデヨシとヒスイ 後編

 一度ヒッシーに振られた時、やっぱりショックだった。今まで恋なんてしたことがなかったし、誰かを好きになるなんて初めてだったから、その思いが叶わないと分かった時、しばらく立ち直れなかった。


「支えるって、どういう事だよ」


「私がノブナガ様の代わりに、ヒッシーの傍にいるって事だよ」


 だからノブナガ様にあそこまで背中を押されなければ、今こうして再び思いを告げる事はなかったと思う。もう二度とあんな苦しみを味わいたくなかったから。


「私はヒッシーと結婚がしたいの。すぐには難しいかもしれないけど。あなたの妻になりたい」


 今日まで沢山悩んでようやく見つけた私らしい告白。いきなり結婚なんて突拍子もない話なのかもしれないけど、私達のこの時代にはこれが主流だったりする。偏った話ではあるかもしれないけど、もう二度目になるのだから違和感はない。


「それ……本気で言っているのか?」


「当たり前に決まっているでしょ! あの日からずっと、ずっと私の気持ちは変わっていない。私はヒッシーの事がずっと好きなの。生涯を共にしたいくらい」


「ヒデヨシ……」


 その想いにヒッシーがどう答えるかは分からない。でもヒッシーのその思いがノブナガ様にあるのは分かっている。だからすぐには難しいことだって分かっている。どれだけ時間がかかってもいい。私がヒッシーの傍に居られるならそれで……。


「悪いヒデヨシ。俺はその想いには答えられない。どんなに時間が経ったとしても」


「どうして、そんな。私はどんなに時間が経ったっていいから」


「その時間が俺にはないんだよ」


「……え?」


 時間がない? どういう意味?


「長くないんだよ、俺。もう」


「長くないってそれって……」


「まだ話していなかったとは思うけど、俺もノブナガさん程ではないけど、長くないんだこの命」


 私の頭の中は真っ白になった。


 ■□■□■□

 この世界に戻って来た時から、ずっと話せなかったことがある。いつかは話す必要があるとは思っていたが、ずっと隠し続けていた。


「この体が限界……?」


「はい。治療はしましたけど、もう長くはありません」


 俺がその話を知ったのはほぼ失いかけていた魔力を回復させるために一度あの世界に戻って来た時だった。師匠からその言葉を告げられた時は、その真意を理解できていなかった。けど、マルガーテとの最後の戦いの中で失っていた記憶を取り戻したことによって、その意味がようやく分かった。


「それはやっぱり魔力がない世界で、何度も魔法を使ったからですか?」


「それもあります。しかしそれ以上にあなたの体はもう既にボロボロなんですよ」


「ボロボロって……。もってあとどの位なんですか?」


「長くて二年、と言ったところでしょうか」


 二年.

 それはノブナガさんと同じ余命宣告だった。でもそれは一度死んでいる身である以上、当然だったのかもしれない。何よりこの体は一度闇に染まっている。長くもつ訳がない。


「二年……じゃあもう」


「ああ。あれから一年以上は経過している。もう残されている時間が俺も少ないんだ」


「そんな……どうして」


 だからノブナガさんに織田家の跡継ぎの話をされたとき、正直俺は困惑していた。病気の事もそうだったけど、何よりそのノブナガさんの気持ちに応えられない事に絶望していた。だから一ヶ月、ノブナガさんの病気を治す方法を必死に探した。俺がここに居られない以上、別の方法で織田家の未来を繋いであげたかったから。


「だから悪いヒデヨシ、俺にはもう……」


「……それでもいいよ」


「え?」


「時間が残り少なくても私はいいよ」


「いや、でも」


「ノブナガ様だとしても同じ事言うと思う。そうですよねノブナガ様」


「え?」


 ヒデヨシが俺の背後に向けて言う。俺は振り返ると、いつからかそこにいたのかノブナガさんの姿があった。


「ノブナガさん、いつからそこに」


「ヒスイが自分の命について話し始めた頃からですよ」


「じゃあ聞いていたんですか?」


「はい」


「すいません、黙っているつもりはなかったんですけど、どうしても言い出せなくて」


 俺は侘びと共に頭を下げる。だけどそれに対してノブナガさんは、何の返答もしなかった。


「ノブナガさん?」


「どうしてヒスイは……そんな事を隠していながら私を助けようとしたんですか? そんなに織田家を継ぐのは嫌だったんですか?」


「嫌とかそういうわけじゃないですよ。ただ、俺にはこれ以上この世界にいる意味も、織田家を継ぐ意味もないんですよ。もうノブナガさんには迷惑を掛けたくないんです」


「迷惑なわけないじゃないですか。私もヒデヨシサンも、あなたがここにいる事を望んでいるんですよ? たとえその時間が短くても、私はあなたがこの場所にいてくれて、ヒデヨシさんとこの場所を守ってくれるだけでも嬉しいです」


 ノブナガさんはそう俺に訴えかけた。この人はただでさえ自分の命が短いというのに、どうしてこんなにも優しい言葉を俺にかけてくれるのだろう。いつだって自分よりも周りの事を考えていて、たとえ辛くてもその様子を見せない。

 だけどその優しさは、今の俺にとっては辛い。


「ノブナガさんが居なくなってしまうのに、それを差し置いて幸せになるなんてそんな事俺にはできないですよ。ヒデヨシの気持ちはすごく嬉しいですけど、やっぱり俺にはそれはできません」


「どうしてよヒッシー。ヒッシーの居場所はここにあるのにどうして」


「ここが俺の居場所だから、だよヒデヨシ。悪いけど俺はこの場所には……残り続ける事は出来ない」



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