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第126陣生涯でただ一人の

 俺が再び意識を取り戻したのは、マルガーテとの戦いから一週間近く経った後の事だったノブナガさん達は泣きながら喜んでいたが、俺は少しだけ複雑な気持ちだった。


(腕、やっぱりあの時に無くなったんだな」


 マルガーテの攻撃により、失われてしまった俺の右腕。そこには包帯が巻かれていたが、いつもあったはずの感触がないと体の動きに違和感がある。


「戦いの代償……か」


 ノブナガさんの説明によると、あの後城を包囲していた闇も消え去っていったらしい。ヨシモト達を明かしていた病も、少しずつではあるが消え去っていっている。


 つまりこの時代からマルガーテという絶対的な闇は消え去ったことになる。もう誰も傷つくことは……。


「ノブナガ様、武田軍が攻めて来ました!」


 彼女達がいなくならない限り絶えないな。うん、ここが一応戦国時代だった事を少しだけ忘れていたよ俺。


「昨日の友は今日の敵、まさにその通りの言葉ですね、いいでしょう、迎え撃ちましょう」


「ノブナガさん、どうしてそんなにノリノリなんですか?!」


「今はヒスイを守るためだからですかね」


「俺そんなに頼りないんですか?」


「あくまで今は、ですよ」


 そんな不純な動機で戦を起こされてしまったらたまったものじゃないが、俺が今戦えない以上どうにもできない。


(というか、いつからノブナガさんは俺を呼び捨てで呼ぶようになったんだ?)


 マルガーテとの戦いの途中からな気がするけど、そのタイミングについては記憶がない。まあ、お互いに好きではあるのだから悪い気はしないんだけど、この場合俺も彼女の事を呼び捨てで呼んだ方がいいのかもしれないが、


「俺もなるべく早く復帰できるように、努力はしますよノブナガ」


「ふぇ、い、今なんて言いましたか?」


「あ、いや、な、何でもありません」


 何か本物の織田信長に対して申し訳ない気持ちが一杯になる。


(駄目だなこれ)


「ヒッシー、今ノブナガ様を呼び捨てで呼んだの?」


「ば、馬鹿、そうじゃないよ」


「どうして恥ずかしがるの? 私は最初から呼び捨てにしていたくせに」


 何でヒデヨシは呼び捨てで呼べるのに、ノブナガさんはこんなにも恥ずかしくなるのだろう。


 あ、性格の違いか。


「今私をさりげなく馬鹿にした?」


「気のせいじゃね?」


 色々あったけど、この世界の、この時代の日常は少しずつではあるが戻り始めている。

 ■□■□■□

「腕の調子はどうですか? ヒスイ」


「やっぱりまだ慣れないですね。その状態でも魔法が使えた師匠が羨ましいですよ」


 その日の晩、ノアさんが俺の部屋を訪ねて来た。彼女は目を覚ました俺に対して大きなリアクションは取らなかったものの、無事でよかったとそう言ってくれた。

 マルガーテとの最後の戦いの前、刺し違えてでも彼女を倒そうとしていた。師匠はそれだけはやめてほしいと言っていた。結果としてこの場所に戻ってこれたのだが、もし俺が無事に戻れてこなかったら彼女はどういう反応していたのだろうか。


「私はあなたのような弟子を持てて誇らしいです。これでこの世界も、私達が住んでいる世界も平和になると思います」


「それはよかったです。平和を取り戻せたなら、腕の一本も安いですよ」


 包帯が巻かれた腕を見ながら俺は言うと、ノアさんはその腕を優しく触れながら俺に微笑んだ。


「本当に誇らしいですよヒスイ」


「そんな褒めないでくださいよ」


「本当に……本当に誇らしいですよ。本当に……」


 だがその優しい微笑みが彼女から消え、ノアさんの体が俺に倒れ込んでくる。俺はその体を受け止めて……。


「師匠、俺こそ本当にありがとうございました、あなたに魔法を教えてもらえた事がとても誇らしいです」


 そう彼女に言った。もうその声が耳に届いているのかは分からない。彼女は……俺の師匠は最後まで最高の魔法使いとしてその人生を全うしてくれた。だからただ感謝の言葉を述べる。


「ありがとう、師匠」


 その言葉と同時に俺の目からは涙が溢れ出していた。


 師匠の異変はずっと前から気づいていた。


 でも告白された時は気のせいだと思っていたし、マルガーテとの最後の戦いで彼女の活躍を聞いてまだ大丈夫だと思っていた。


 だけど彼女が最後に俺に託した教え。


 たった一度しか使えない魔法ゆえに、それを誰かに託すとなると魔力を大量に消費する。ただでさえ、この世界にもう一度戻って来た時に亡くなったと思っていた彼女が、奇跡的に生きていたのだからその体はもうかなり弱っていた。

 それは彼女の中から感じる魔力を見て感じていた。そしてその小さな力は、今日のこの時にもはや消えかかっていた。だから彼女はこの場所に来たのだろう。師の最後を最愛の弟子に看取ってもらうために。


 決して自分の弱さを一度も見せようとはしないで。


「師匠……師匠……」


 俺はこの戦いで、光を手に入れたと同時に、大切なものを失った。それはきっともう戻ってくることのない、生涯でただ一人の師匠。


 伝説の魔法使いノア。


 彼女の勇姿は、二度と忘れない。だから今はせめて安らかに……安らかに……。


「うぅ、うわぁぁぁ」


 眠ってください。

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