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第112陣二つの隠し事

 そして夜になる頃に安土城へと帰還。ノブナガさん達にリアラの事やヒデヨシの事を説明すると、皆かなり驚いていた。

 それを知った上で治療は師匠がしてくれるという事で、全て任せて俺は一人自分の部屋で何もせずにボーッとしていた。


「救えなかった人達の無念、か」


 なんだかんだでリアラは、初期の頃から一緒に旅をしていたので思い出が多い。それらが全て頭をよぎっていく。出会った頃から彼女は誰かの命を救う事に力を入れていた。

 世界中の人を救う為に旅をしていたくらいなのだから、その意思はよほど高かったのだろう。


(そうだよな、皆強い意思を持って戦っていたんだよな)


 他の仲間だってそうだった。それなのに俺はどうだ。何か強い意思を持っていたか?


(いや、俺には何もなかった……)


 ただ世界を救いたい。魔法を使って悪を滅ぼしたい。そんな事ばかりを考えていた。それが間違っているとも、正しいとも言えないけど、もし、もっと俺に強い意思があれば変われたのだろうか?


(そんな事誰にも分からないよな)


 どちらにせよ、俺はまた一つ大切なものを失ってしまった。もう涙も出てこない。ただ放心状態で、何かをするような気も起きなかった。


「翡翠、大丈夫?」


 そんな俺に、いつの間に部屋に入ってきたのか桜が声をかけてきた。


「大丈夫そうに見えるか?」


「全然。私も正直何が起きたのか分からなくて頭が混乱しているの」


「最近ずっとこんな事ばかり起きていたからな」


 本来混じり合うはずのない異世界で、俺と桜は今日まで数え切れないくらいの危険に晒されてきた。地球でももっと色々あったけど、今の方がもっと……。


「ねえ翡翠、私ずっと聞こうと思っていた事があるんだけど」


「どうした?」


「このまま戦い続けたら、翡翠が死ぬかもしれないって本当?」


「え?」


 どうしてその話を……。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 本当は知っていたくせに、ずっと言えなかった。


 最初は信じられなかったけど、何度か影でその話を耳にしての疑惑は、確信へと変わっていった。


「このまま戦い続けたら、翡翠が死ぬかもしれないって本当?」


 だから今日私は本人の前でその言葉を発する事ができた。これからもっと辛い戦いに出向くであろう彼を、何としても止めたいという気持ちで。


「そ、そんな訳ないだろ」


「私何度かその話を翡翠が誰かとしているのを耳にしているの。悪く言えば盗み聞きだけど、その話が嘘だって私は信じてたから。でもその反応を見ると、やっぱり本当なんだ」


 本当はこんな話をする事に抵抗を感じていた。だけどここ数日、色々な事が起きすぎていて、これからの彼の事が心配になってしまった。

 私はまだ戦う事も出きない立場の癖に。


「ねえ翡翠、帰ろう。もう全部忘れて。そうすれば誰も傷つかないから」


「なっ、そんな事できる訳ないだろ」


「でもそうすれば、翡翠だって死ぬ事はない! 世界を捨てるのも辛いけど、それよりも私は目の前のあなたが死ぬ方が辛い」


「桜……」


 もういい大人の癖に泣きじゃくる私。こんな辛い現実ばかりを見るのは嫌になった。私をかばって傷ついた人もいる。それがこの先も続くくらいなら、今すぐ逃げて平和に暮らしたい。


「ねえお願い翡翠、もう戦うのを止めて! そして私達のいる世界に戻って、平和に暮らそうよ二人で!」


 その心が言葉になって湧き出る。それが私の生まれて初めての翡翠への、告白だった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「平和に暮らそうよ二人で!」


 泣きながら彼女が言った言葉が、告白だって気づくのに数秒かかった。だけど二人でって言葉でそれがらようやく理解できた。


「い、いきなり何を言うんだよ。二人でって、それだとまるで……」


「まるでじゃなくて、本当の気持ちなの。だから翡翠には分かってほしい」


 頬を赤らめながら言う桜。泣いたり恥ずかしくなったり、色々忙しいなお前は。


(師匠もそうだけど、どうしたんだよいきなり)


 こうも立て続けに告白されるなんて、人生で初めての経験なので、色々と動揺が隠せない。けれど俺の気持ちは一人にしか決まっていないので、返答に困る。

 というか、今はそれよりも話すべき事がある。


「さ、桜。とりあえずその話はまた後にしてくれないか。それよりも大事な話があるし」


「あ、ご、ごめん。私つい……」


「いいんだよ。でもそれより、俺はやっぱり戦う事を止める事はできないかな」


「どうして? そんなに早く死にたいの?」


「違う。そうじゃないんだ。ただ俺は、ノブナガさん達を見捨てる事なんてできないんだよ」


「それが自らの危険を犯すことになっても?」


「ああ」


 それは最初から決めていた。何があってもこの世界を捨てる事なんてできないと。それにここまで触れていなかったけど、ノブナガさんはこのままだと……。


「ヒスイ、大変!」


 そんな事を考えているとら突然ネネが、かなり慌てた様子で部屋に入ってきた。


「どうしたネネ、そんなに慌てて」


「ノブナガ様が、倒れた!」


「え?」


 この世界で再会した時ノブナガさんは二度倒れている。その原因をただの疲労だと誤魔化していたノブナガさんは、頑なにその事を隠していた。でも俺はとっくに気付いてしまっていたんだ。


 原因は分からないけど、ノブナガさんの身体はもう長くはもたないって。


 その事をノブナガさんは、あの時二人だけの秘密って隠していたけど、もうそれも……。


「ヒスイ、早く!」


「ああ、今行く」

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