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第111陣戦場に散る一輪の花

 ヒデヨシの手がかりを見つけたのは、数時間森の中を走った後だった。


「これはヒデヨシが使っている馬、だよな」


 道中普段ヒデヨシが使っている馬が倒れているのを発見。残念な事に息絶えてしまっていたが、その馬が負っていた傷を見てある事に気がつく。


「これは」


 馬の脚に付けられていた傷は、決して人の力では付けられないもの。炎で足を焼かれていた跡がそこに残っていた。走っている馬に対して、ここまでピンポイントに足だけを燃やすなんて、普通の人ではできない。更に若干ながらも魔力を感じる。

 つまり、


「ヒッシー……」


 答えを出そうとしたところで、今にも消えそうな声で俺を呼ぶヒデヨシの声がした。急いで辺りを見回すと、血を流しながらな木にもたれかかっているヒデヨシの姿が。


「ヒデヨシ!」


 俺は急いで彼女の元に寄り治療を施す。死には至ってはいないものの、これはかなりの重症だ。


「ごめんねヒッシー……。私、また迷惑……かけちゃった」


「馬鹿、迷惑なわけないだろ! それよりこの傷、マルガーテにやられたのか?」


「うん……。殺されそうになったけど……が助けてくれたの」


「誰が、誰がヒデヨシを……」


 弱々しくヒデヨシが遠くを指差す。そこにいたのは……。


「……え? リア……ラ?」


 何とさっきまで安土にいたはずのリアラの姿だった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

(誰か……助けて)


 絶体絶命の中で私は誰かの助けを呼んだ。誰でもいいから私を助けてほしかった。


「大きな魔力、そしてヒデヨシさんの行方不明。何かが起きると思っていましたけど、転移魔法を使って正解でした」


「え?」


 覚悟をして目を瞑ったその瞬間、目の前に誰かの影が現れた。それは私のでもなく、マルガーテのでもなく、別の誰か。そしてその声に私は聞き覚えがあった。


「お前は!」


「ようやくあなたの目の前に立つことができました、マルガーテ! あなた達がいなければサクラちゃんも死ななかった。誰も傷つかなかった。それをあなた達が……絶対に許さ」


「消えてください」


「え?」


 私の目の前で大きな音がする。何が起きたのか慌てて目を開けると、マルガーテによって吹き飛ばされるリアラちゃんが。


「あ、ぁぁ」


「邪魔が入りましたが、あなたも死んでもらいます」


 今度こそ私にトドメを刺そうとするマルガーテ。しかしその動きが止まった。


「甘いですよ……マルガーテ」


 動きを止めたのはリアラちゃん。しかしその身体は既にボロボロで、今に倒れてもおかしくはなかった。


「なっ、身体が……。何を……」


「今の瞬間にあなたにありとあらゆる魔法をかけて……動きを封じました。これで……ヒデヨシさんに……」


 そう言いながら倒れていくリアラちゃん。マルガーテはリアラちゃんのおかげで、動けずにいる。倒すなら今しかない。


「確かにそのバトン……受け取ったよリアラちゃん……」


 痛みを堪えながら常備している愛用のハンマーを持ち、そしてそれをマルガーテに向けて振りかざした。


「これであなたが倒れれば全てが……終わる!」


「こ、この私が負けるなんてそんな事……」


 僅かな力を振り絞って、私の全力をマルガーテにぶつける。これで、これで。


「あると思いましたか?」


 今まさに彼女を捉えたと思ったその瞬間、私の動きも止まった。


(嘘……どうして……)


「あなたは見てないんでしたっけ。私が位置転換魔法というものを使えるのを」


 背後からマルガーテの声がする。先程までいたはずの彼女が、何故そこにいるのかというと、


「さあこれで終わりですお二人とも」


 私はマルガーテの魔法により、リアラちゃんと共に遠くへと吹き飛ばされた。


「それにしても……まさか彼女がこの魔法を使うとは思いませんでした。あの魔法使いから受けた傷も、彼女の魔法も、私に確かな痛みを与えている。いつかは私も……」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「リアラ、おい! しっかりしろ!」


 今俺の目の前にある光景がどうしても受け入れられなかった。ヒデヨシよりも酷いキズを受けて倒れているリアラ。息をしているのかすら判別できない。


「う……るさい……です……よ。ヒスイ」


 しばらくして何とかリアラからの返答が聞こえる。だがその声はもう……。


「お前、どうして一人なんかでマルガーテに」


「晴らしたかった……んですよ。……皆の……無念を」


「無念?」


「サクラちゃんも……国の皆……も。魔族がいなければ……死ななかった……。救える命も……あったのに……わたしは…………」


「馬鹿、そんなの一人でなんとかできるものじゃないだろ! それにサクラは俺を庇って命を落としたんだ。その責任は俺にある。だからそんな事言うなよ」


「ごめん……なさい。ヒスイ……。でも……最後に……マルガーテには……ある魔法をかける事が出来た……から。あとは……ヒスイ達に…………託します……」


 弱々しく手を出すリアラ。俺は止まらない涙を拭いながらも、その手をしっかりと握る。


「ああ、受け取ったよリアラ。だから……俺が必ずマルガーテを倒すから……あとはゆっくり休んでくれ」


「ありがとう……」


 最後にリアラは優しく微笑んだ。その微笑みは、草原に咲く一輪の花の如く、とても綺麗だった。

 だがその花は儚く散り、俺の手からゆっくりと離れていくのであった。


「うぅっ……。リアラ……」


「ヒッシー……」


「ヒデヨシ、帰るぞ」


「でも……」


「どのみち一頭の馬じゃ、二人も連れていけない。だから俺達だけで帰るぞ」


「うん……」


 まだヒデヨシは重症の為、彼女を安全に固定して馬を走らせる。リアラを置いていくのは本当はすごく辛い。けど、もうこうするしかない。悲しくたって、辛くたって、もう前を向く以外ない。


「ヒッシー」


 帰り道、俺に抱きかかえられながら馬に乗っているヒデヨシが声をかけてくる。


「どうした?」


「さっきから服が濡れているんだけど」


「少しだけ我慢しろ。もう少し……もう少ししたら……止まるから」


「うん……」

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