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第106陣受け継ぎし者

 ノブナガさん達を危険な目に合わせてまで、自分の治療をする。その選択はとても厳しいもので、俺は戸惑ってしまった。


「世界と世界を繋げるという事はそれなりのリスクがあるんです。私達の世界だって完全に脅威が去ったとは言えませんから」


「マルガーテも生きていましたからね」


「でもこのままヒスイを残すわけにもいかないんです。このままだとあなたが死んでしまう可能性もありますから」


「死ぬ可能性って、そんな」


「大袈裟ではないんです。それほど重大な案件なんです」


 この時の師匠の言葉を改めて思い返すと、この魔法を使う事が命を削るという事を知っていたから、あえて大袈裟に言ったのかもしれない。


「つまり俺にはその選択肢しかないって事ですか」


「はい。辛いかもしれませんが、そうするしかありません」


「ノブナガさん達に危害が及ぶ可能性は?」


「無きにしも非ずです。しかしいつかは必ず、それは起きてしまいます」


 胸が苦しかった。選択肢が一つしかないというその現実に。そしてノブナガさん達がいつかは必ず辛い目にあってしまう事に。

 それでも俺はそうする以外の道はなかった。そしてその道を選んだが為に、


(ヒデヨシもイエヤスもノブナガさんも、桜も皆が傷ついてしまった。しかもそれはきっと、まだ終わらない)


 天守閣から落下していく中で、俺はこのまま死んでも構わないと思ってしまった。どうせいつかは亡くなる身。それが少し早まるだけなんだからもう……。


『サッキー』


 どこからか久しぶりに聞いた声が聞こえる。


(サクラ?)


『サッキー、諦めたら駄目』


 その声はサクラだった。でもどうして……もう聞けないと思っていたのに。


『サッキーが諦めたら誰が戦うの? サッキーのその魔法は誰の為にあるの?』


 天の声に説教される俺。でも何故かその間だけ落ちるスピードが遅くなっている気がする。


(誰の……為?)


『サッキーの魔法は、皆の為にあるものなんでしょ? サッキーがいま好きな人がピンチなのにそのままでいいの?』


(ノブナガさんが? でももう俺はこのまま落ちていくしか……)


『そんなピンチ、いつも乗り越えてきたでしょ? だったら、今だって乗り越えられる! 絶対に』


(そう……だよな)


 この位の逆境、何度でも乗り越えてきた。それは過去だけではない。今だって。


「ノブ……ナガさん!」


 あきらめて閉じた目を俺は再び開く。すると何故か時間が少しだけスローモーションになっていた。咄嗟に俺は身体を起こして鉄球を足場にして離れた壁へと飛び、そして鉄球からかなり離れた床に着地。

 何とか危機は回避できたみたいだ。


『さあサッキー、ここからが見せ所だよ』


「見せ所って何だよ」


『その新しい力を使って、天守閣まで飛ぶの。さあ!』


「さあってお前」


 無理だとは思いながらも、破れた天井を眺める。大きな穴が空いた先に天守閣の天井が見える。何だか今なら行けそうな気がしなくもない。


「待っててくださいノブナガさん、今俺行きますから」


 俺は一気に助走をつけて、そして風の魔法と例の力を駆使して、空へと飛び上がった。


『頑張ってね、サッキー。私は信じているから』




「うっ……」


「やはりあなた程度では話になりませんね」


 全く歯が立たない。ヒスイ様がいなくなってしまったというショックが、私に精神的なダメージを与えて戦いどころではなくなってしまっていた。


「今すぐあなたも魔法使いの元に送ってあげます。だからゆっくりと眠りなさい。ダークネススフィア」


 球状の闇の塊が、マルガーテの頭上にできる。あれを今の私が喰らったら確実に……。


「さあ、終わりにしましょう。ノブナガ」


(ヒスイ、助けてください)


 まさに絶望。私は心の中で思わず彼の名前を呼んでしまった。来るはずのない助けを求めて。


「やめろマルガーテぇ!」


 でもその声に応えてくれた人がいた。


「なっ! 何故生きて」


「ノブナガさん!」


 その人物は今まさにその名を呼んだ人。私にとってかけがえのない存在で、絶対に離れたくない人。


「ヒスイ……生きてたんです……ね」


 その安心感からか、私の意識はそこで気を失ってしまったのであった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「ノブナガさん、待たせてすいません。今はゆっくり休んでいてください」


 俺が到着して間もなく、気絶してしまったノブナガさんを安全なところへ移動させてマルガーテと向き合う。


「あなた死んだはずでは」


「勝手に殺されても困るんだよな。確かに死にそうではあったけど」


「つくづく運がいい奴ですね」


 俺は太刀を静かに抜き構える。今なら魔法を使う事に躊躇いはいらない。この魔法は自分の為ではなく、皆の為に使うものなのだから。


 俺は太刀をに光属性の魔法を宿した。これは師匠が最後に教えてくれた魔法。これさえあれば、どんな闇にも対抗できるはず。


「その魔法は……あなたの師の」


「光は闇を照らす。俺はこの魔法を使って、皆の為にお前を倒すマルガーテ!」


「いいでしょう。あなたはそこにいる彼女と共に永遠の闇に葬り去ってあげましょう」


「勝負だマルガーテ!」


 ノブナガさんの為、皆の為、そして世界の為。俺とマルガーテの本当の決戦がついに幕を開く。

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