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第103陣守るべき場所は業火に抱かれて

 城下町を抜けて少しした先に、そいつらはいた。その数は数え切れないもので、あれが一度に動き出したら二人ではどうにもならない。


『ふふ、降参するなら今ですよ。私にその城を渡してくだされば、見逃してあげます』


 脅しというよりかは、もはや勝利を確信していると言わんばかりに、マルガーテの声がする。悔しいけど彼女の言葉通りにするしかないと俺は思った。


「ノブナガさん、この数を相手では俺達でも」


「渡しません。この城は私達の大切な帰る場所ですから」


 だがノブナガさんは諦めてすらいなかった。この数を目の前にして、怯むことすらないなんてまるで……。


(やっぱり似ているよ、サクラとノブナガさんは)


 かつて幾多の絶望を乗り越えてこれたのは、サクラがいつでも諦めない心を持っていたから、俺達はそれに付いていけた。

 今のノブナガさんがまさに、そのサクラと同じだった。


「私はこの城の主。城下町も城も私が守ります!」


 前に出てノブナガさんは太刀を抜いて構える。


「やっぱりそうですよね。俺達が守らなくて誰が守るんですか」


 俺もその隣に立ち、同じように構える。この数、尋常じゃないけど、乗り切れるか二人で。


『どうやら降参はする気ないみたいですね。なら、交渉決裂。先程言った通りこの魔物達で、あなた達のその帰る場所を奪わさせてもらうまでです』


 動き出す数え切れぬ闇達。


「ヒスイ様、魔法は使ってもいいですが、無理だけはなさらずに。そして必ず治療してください」


「ノブナガさんこそ、絶対に生きてください。ここはちゃんと乗り切りましょう」


 二人でそう会話を交わしたのを皮切りに、俺とノブナガさんは闇の中へとその刃を向けていった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「ぜぇ……ぜぇ……」


 あれからどの位の時間が経ったか分からないが、俺とノブナガさんはまだ闇を振り払っていた。


(キリが……ない)


 いくら倒しても、魔物達が増えているように感じるのは気のせいなのだろうか。


(いや、気のせいなんかじゃない。奴の狙いは元から……)


 マルガーテなら、その位はやってのけてもおかしくない奴だ。そうだとしたらこの戦い、


「ノブナガ……さん! 一度下がりましょう」


「え? でも……」


「恐らくマルガーテの狙いは、魔物を永久に出し続けて俺達の体力を消費させてから叩くのが狙いです。このまま戦い続けたら、二人とももちません」


「そうだとしても、ここで退いたら攻められてしまいますよ」


「それはそうですけど、今のまま戦っても埒があきません」


「だったらどうすれば……」


 ノブナガさんの言う通り、ここで退いてしまったら平民達に危害が及んでしまう。だけどこのまま戦い続ければ、共倒れになってしまう。どうすれば……。


「ノブナガさん、やはり一度退きましょう」


「ですからそれだと……」


「別に二人とも退く必要はありません。俺が敵を引きつけておきますので、その間に城に戻って援軍を呼んでください」


「そんな、ヒスイ様を置いてなど……」


「今はそれしかありません。それに必ず守り通してみせますから、心配しないでください」


「私が心配なのはヒスイ様の体で……」


「いいから急いでください!」


「……分かりました。急いで戻るので、それまで絶対耐えてくださいね」


「分かっています。今度は絶対に無茶はしませんから」


 この前みたいな事は絶対に起こさない、俺はそう決めている。だから必ず無事にこの状況を乗り越えてみせる。


『私の策を読んだのは素晴らしいですが、一人でこの数を相手にできますか?』


 どこからかマルガーテの声がする。やはり俺の読みは当たっていたらしい。


「できるさ。何度も負けてばかりの俺達ではないからな」


「ふーん、それでは私が今この場にいるとしたらどうしますか?」


 突然マルガーテの声が近くなる。まさか背後を……。


「この前の借りは、きっちり返させてもらいますからね、魔法使い」


「しまっ……」


 この前と同じように、俺の身体は闇の業火に包まれて……。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「何てな」


「え?」


 マルガーテな唱えた魔法は、発動する事なく消え去った。


「これだけの量を操っているんだ、近くにいる事くらい予想できていた。だから軽い罠を張らせてもらった」


「罠?」


「まあ何が起こったかお前には分からないだろうな。俺自身も間に合うか確信はなかったし」


「それはどういう……」


 何故マルガーテの魔法は、発動する間も無く消え去ったのか。別に偶然起きた事ではなく、これは俺が意図的にやった事だった。


「さっきは悪かったな、リアラ。あんな事を言って」


「いいですよ、分かってくれたなら」


「い、いつの間に伏兵を」


 マルガーテの更に背後に姿を現したのはリアラ。先程の戦いの最中で、実はある魔法を使ってリアラをこっそり呼んでおいた。転送魔法を使える彼女なら、時間をかけずに来てくれると確信していたので不意打ちを不意打ちさせるために、彼女を見えない所に隠れさせておいた。

 それが功を奏したのか、マルガーテの不意打ちに対して不意打ちをする事に成功。


「お久しぶりですねマルガーテ。まだ生きていたとは」


「あなたは確か治癒術師のリアラですね。何故あなたがここに」


「その理由はただ一つですよ。あなたのその野望を止めるためです」


「野望? 私はただこの世界を支配したいだけですよ。それに一ついい事を教えてあげますと、あなた達では私を止める事はできません」


「何を言っているんですか? この状況で」


「何故なら私の真の狙いに、あなた達は気づいていないのですから」


「真の狙い?」


「私は言いましたよね。安土城をいただくって」


「確かに言ったけど……まさか!」


 そう気づいたと同じタイミングで、背後から爆発音が聞こえる。慌てて振り返ると、城の一部が爆発して炎上する安土城が。


「気がつきませんでしたか? 何度も城下町に火をつけたり、直接城にも火をつけていた私の本当の理由が」


「それってまさか……」


「この計画への伏線。城を叩いて、あなた達を絶望させ、その上で倒す。まさか簡単に成功するとは思いませんでしたけどね」


「この野郎!」


 太刀を抜いてマルガーテに斬りかかる。だがそれは空を切り、マルガーテの姿が消える。


『私は城の中にいます。他の者が無事かは分かりませんが、全てはそこで決着をつけましょう。まあ、その前に私の兵を倒せたら、の話ですけど』


 最後にそう言い残して消えるマルガーテ。目の前では炎上し続ける安土城。ノブナガさんが果たして辿りついてしまっているのかは分からない。でもネネやヒデヨシ、桜は無事なのか?


「ヒスイ、今はボーッとしている場合じゃありません。早くこれを片付けないと、他の方が」


「ああ、分かっている。ここまで見事にやられたんだ、この魔物をさっさと片付けて、安土城へ急ごう」


「はい!」


 そしてマルガーテを必ずこの手で倒してやる。



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