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第102陣命の重さ

 師匠がかつてこんな言葉をくれた事がある


『たとえその身を削る事になろうとしても、その力で守れるものがあるなら守ってください』


 今ならその言葉の意味がハッキリ分かる。師匠が授けてくれたこの魔法は、己の命を削るものだとしても俺には今守らなければならないものがある。それを自分の身を案じてまで捨てるなんてできない。

 師匠がそうであったように、俺もそうでありたいから。


「ヒスイ様、ちょっと」


 リアラとのやり取りがあった少しした後、ノブナガさんに俺は呼ばれた。

 誰かに聞かれたくないのか、ノブナガさんは呼んだその足で城の外へと出る。そして少し経った後、口を開いた。


「リアラさんから話は聞いていたんですけど、ヒスイ様のその呪い、治せる可能性があるんですよね? それなのにどうして断ったんですか?」


 どうやら先程の会話を聞いていたらしく、その事についての事だった。治せる可能性については、本人がここに来た時に話したらしい。


「どうしても何も、治療したら俺はこの魔法を失う事になるんですよ? それだけは……したくないんですよ」


「では私も、ヒスイ様の命を失うような事はしてほしくないですし、そんな事が起きてほしくないです」


 いつになく真面目に、そしてどこか怒りを隠しているかのような話し方をするノブナガさん。


「俺ノブナガさんに話しましたよね? この魔法は師匠から受け取った大切な力で、これがあればこの世界も救えると。その分のリスクは高いかもしれませんけど、俺はその道を選ぶって。ノブナガさんもそれを了承してくれたじゃないですか」


「その時は治療法がある事を知らなかったからですよ。でももし救いがあるなら、私はそっちを選びます」


「どうしてですか! もし今魔法を失えば、マルガーテにすら立ち向かえなくなるんですよ?」


「私達がいるじゃないですか! 二ヶ月でも一緒に戦ってきた私達が」


 ノブナガさんの言う事は最もだって分かっている。リアラも同じ想いなのだろう。でも何度も言うように俺は、自分の身を削ってでも、この世界を救いたい。

 その意志は揺るがなかった。


「ノブナガさん達が一緒にいてくれるのは心強いです。だけどそれだけでは、マルガーテは倒せないんですよ」


「私達を信用できないからですか?」


「そうじゃないんです。俺はただ……」


 自分の力不足で、誰かを失うなんてもう嫌だった。サクラやミツヒデ、そして師匠。皆俺が力がないせいで命を落としてしまった。一つ一つの命が重くて、これ以上誰かを失うようなら、俺はもう耐えられなくなってしまう。それだけは避けたかった。


「確かに今までヒスイ様の力が不足して、失われた命はいくつもあったかもしれないです。しかしそれだったら、私も同じです」


「え?」


「戦をする度に多くの兵を失う。その度に私は、自分の未熟さを知ります。だからヒスイ様と一緒で、私も辛いんですよ」


 ノブナガさんのその言葉に、今まで以上に重みを感じた。弱さを知る事で、強くなるってよく言うが、ノブナガさんはその言葉通りの人なのかもしれない。

 一つの軍を治めるという事は、多くの命をその背中に背負う。その中で彼女の戦い続けてきた。だけど己の弱さ故に幾多の命を失ってきた。ノブナガさんさそれら全てを踏まえて、今ここに立っている。そうだとしたらきっと彼女は……。


(俺なんかより強いんだ)


 こんな魔法で頼るしかない俺なんかよりも……。


「何度心折れかけた事もありました。しかしその中で仲間が私を支えてくれた。失う物が多くても、得る物も多かったんです。だからヒスイ様もきっと、魔法を失っても得る物があるんです。不安になった時は私達が付いていますから」


「ノブナガさん……」


 もし魔法を失ってしまったら、何て事は考えた事なかった。考えても絶望しか残らないと思ったから。

 でももし、ノブナガさん達のような仲間が、俺を支えてくれるなら、そんな絶望も希望に変わるかもしれない。師匠が残してくれたこの魔法を失う事になっても、きっと俺は……。


「ノブナガさん、やっぱり俺」


『そういうのがまだ甘いんですよ、ヒスイ』


 それも踏まえて改めて答えを出そうとしたその時、声が聞こえてくると共に俺とノブナガさんの間に大きな稲妻が落ちる。この声と、この魔法、まさか。


「マルガーテ、何しに来た!」


 咄嗟に身構えるが、声が聞こえるだけで姿はない。


『残念ながら今日は挨拶だけです。あなたにはこの前の借りがありますから、今すぐ倒しに向かいたいところですが、一つプレゼントを置いていく事にしました』


「プレゼント……だと?」


 すると城下町の奥の方で何やら人が騒いでいる音が聞こえる。俺とノブナガさんのさは急いでその場所へと向かった。


「どうかしましたか?」


 近くの女性の人に声をかけると、彼女は更に遠くを指差してこう言った。


「あ、あれは何ですか?」


 俺は指差した方に目を凝らす。するとかなり遠くではあるが、黒い何かの軍団がこちらに迫ってきているのが分かる。マルガーテのいうプレゼントってまさか……。


『私からのプレゼント、それは大量の私の子供達です。是非その数に苦しんで、そしてそのまま滅びてくださいね!』


 絶望的な数だった。あれだけの数を相手にするのは、容易ではない。たとえ俺とリアラが力を合わせてもどうにかなるか分からない。


「ヒスイ様、迷っている暇はなさそうですよ」


「分かっていますけど、あの数を織田軍だけでは」


「無理な話ではないです。やりましょうヒスイ様」


 そう言ってノブナガさんは駆け出した。このままだと非常に危険なので、俺もその後を追う。


 ヒスイがここに来てから、最大の戦いが今幕を開けようとしている。

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