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外伝 ある日の墓参り

 彼女は病室にいた。


 身体に傷を負って、心に傷を負って。


 そんな彼女に俺はうまく言葉をかけられなかった。その時の俺はまだ幼くて彼女の身に何が起きていたのか理解しきれていなかった。でも何となく感じていた事はある。


「大丈夫? 桜」


「……」


 それは自分が考えている以上に、それは深刻だったという事。そしてそれは、俺でも触れてはいけないものだという事。


「辛かったら、相談に乗るから」


 だか、当時の俺は、彼女にそんな言葉をかける事くらいしかできなかった。本当は心の奥底から助けを求めていたというのに、それに俺は気付けなかった。


「放っておいてよ!」


 だからそれから数年後に、俺は彼女を……。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「ねえ翡翠、あの頃の事覚えてる?」


 話は少し戻って、俺がノブナガさん達の世界から離れて数ヶ月経った頃になる。色々騒がれて少し落ち着き始めた頃、桜が突然そんな事を切り出してきた。


「あの頃の事?」


「ほら、私一度翡翠に本当に怒った事あったでしょ」


「ああ、そういえばそんな事あったな」


「その言い方だとまるで反省してないように見えるけど?」


「いや、反省しているよ。でもどうして急にそんな事を?」


「ほら、もうすぐ命日だからさ。お父さんとお母さんの。折角だから墓参りに行こうと思って」


「あ、そっか。もうそんな時期か」


 異世界に行きすぎて時間感覚がズレている俺は、すっかりその事を忘れていた。


「もう、勝手に消えてばかりいるからよ。今年はちゃんと付いて来てもらうからねお墓参り」


「分かっているよ。それであの頃の事を今思い出してどうするんだ?」


「何をすっとぼけているのよ。まだ私謝ってもらってないんだけど」


「あれ、謝ってなかったのか俺」


「酷い忘れていただなんて。乙女心を傷つけたのに」


 そう言われると少しずつではあるがあの頃の事が蘇ってくる。同時に俺は、罪悪感に見舞われる。


「そういえば俺、謝れてないよな。あの時本当はお前が一番辛かったのに」


「そうよ。ああいう時助けてくれるのが幼馴染なのに……」


「ごめん……」


 例の事件から三年後、中学生の頃だった。ある事が起きて、桜は発作に近い症状を起こした。周りは何事か理解できていないけど、俺だけがそれを知っていたので彼女を少しでも楽にさせようとした。


『桜、大丈夫か?』


 だけど俺は何も成長しておらず、三年前と全く変わらない言葉を彼女にかけてしまった。だからそれがよほどショックだったのかもしれない。それから桜はしばらく口を聞いてくれなかった。その事を追求しようとした俺に、


『ヒスイは何も分かってない。だから放っておいてよ!』


 それが桜が初めて本気で怒った瞬間だった。俺もそれがショックで話す事ができなかったし、桜もそこから更に話しかけようとはしなかった。


「でも気付かないうちに、それは時間が解決してくれたんだよな」


「そう。でも私は一度も忘れなかったよ。あの時の事は」


「本当に悪かったよ」


「だったらちゃんと来てよね、墓参り」


「勿論」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 翌日約束通り俺と桜は二人で墓参りに。実はというと桜の両親の墓参りに来るのは初めてだったりする。


「いつかは、って思ってたけどもう十年か」


「当時はすごい大変だったのは覚えてる。でもまだ小学生だったから、事の大きさが理解できていなかったのかも」


「それは俺もだよ」


 あれから十年。俺達は既に成人になっている。あの時はまだ小学生だったのに、時が経つのは早い。


「でも翡翠は、どっか知らないところに行く事の方が多いんじゃない?」


「別に俺も好きで行っているんじゃないけどな」


「何かそんな縁があるんじゃないの? まあ、待たされる側としたらはた迷惑だけど」


「悪い」


「帰ってきてくれているなら構わないけど、また居なくなって今度は帰ってこないなんてなったら、私どうなっちゃうのかな」


 ふとそんな事を呟く桜。それに対して俺は何の答えも言えなかった。ノブナガさん達には必ず帰ってくるって約束していたし、結婚の約束までしてしまっている。だから彼女のその言葉に、俺は答えを出せなかった。


「翡翠が二回目消えた時、もう帰ってこないって皆言ってたの。奇跡は一度起きても、二度は起きないって。でも私だけは信じて待っていた。だから二度も起きたんだと思う。でも三度目は分からないよ」


「仏の顔も三度まで、か?」


「そんな感じ。だからもう消えないでね、翡翠」


 結局墓参りしながら、俺達はそんな会話ばかりをしていた。でもまさか、その何ヶ月もした後に、桜自身が異世界に行ってしまうだなんて、この時は誰も思ってもいなかったけど。


「さてと、そろそろ帰るか」


「うん」


 線香もあげ終わり、墓の掃除など一通りしたのでその場から立ち去ろうとする。が、その直前にほんの一瞬だけ何かが俺の目には見えた。


「あ」


 思わず声が出る。だけど見えたのはほんの一瞬だけで、すぐに消えてしまった。


(そっか、ちゃんと見てくれているんだな)


 俺は安堵の笑みを浮かべながら、桜と共に歩きだした。


 ある晴れた日の話である。


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