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第101陣茨の道

 全ての追っ手を払いのけて、無事安土に戻ってこれたのはその日の夜遅く。俺達三人はヘトヘトになりながらも安土城へとたどり着いた。だがそこで俺達を待っていたのは、


「な、何だよこれ」


「二人とも急いで!」


 何故か燃え上がっている安土城だった。まだ城の一部なので、今消化すればまだ大被害を出さなくてすむかもしれない。


「リアラは怪我がいたら手当をお願い。とりあえず俺とノブナガさんは消火に向かうから」


「はい」


 城の手前で俺達は二手に分かれる。俺はとにかく急いで水の魔法を使用し、火を消していく。ノブナガさんはどこからか見つけてきた大量の水を火に向かってかけ、消火を急ぐ。

 他の人達の手助けもあって、火が広がる前に消火は完了。しかし、俺は別の意味で被害が大きかった人物を知っている。急いで部屋へ向かうが、そこに桜の姿はなかった。


(まさかよりにもよって、部屋の外に)


 更に探し回ると、途中でヒデヨシ達と合流。そこにはノブナガさんとリアラもいた。


「なあヒデヨシ、桜どこに行った?」


「それが私も探しているんだけど、見当たらないんだよ」


「一緒じゃなかったのか?」


「ううん。まさかこんな事起きるなんて思っていなかったから……」


「くそっ!」


 こんな嫌な事が立て続けに起きるなんて、桜にとっては最悪だ。折角ノブナガさんと再会できたのに、これだと素直に喜べない。


「とにかく桜は俺が探してくるから」


 行方不明となれば無視なんてできないので、俺は急いで桜を探しに向かった。


 五分後。


 ようやく桜の姿を発見。彼女は火が消え終わったところで一人立ち尽くしていた。


「桜、大丈夫か? 探したんだぞ」


 声をかけてみるが返事がない。その代わりに、何故か桜からは何か怪しげなオーラを感じた。


「翡翠……私がこれやったのかな……」


 そしてようやく、桜から返事が返ってきた。


「そんな訳ないだろ。お前がそんな事するはずがない」


「でも私、火災が起きる前からの記憶がないの。だからもしかして、これをやったのは……」


「落ち着け桜!」


 思わず声を張り上げてしまう。彼女がこんな事を自分から言いだすなんて初めてだったし、このままだと何が起きるか分からないと思った俺は、いつの間にか叫んでいた。

 その声にハッとした桜は、我に返ったかのように俺を見る。


「あれ? 翡翠、私は何を……」


「ふぅ、良かった。大丈夫か桜」


「え? えっと、大丈夫。って、あれ? どこここ」


「どこってお前、安土城だけど。まあ、火事があって所々燃えているけどな」


「か、火事? そういえば火災があったって……」


「覚えてないのか?」


「うん」


 あんな事言っていて、覚えていないなんて驚きだった。まさか無意識で彼女は……。


「とにかく皆の所に戻るか」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 忍びの里の件から始まって、ノブナガさんの無事の帰還、リアラとの突然の再会、そして安土城の火災。この世界に再びやって来てから災難続きの毎日は、ようやく落ち着いた。とは言ってもまだ謎が残っている事が多い。


「でもまあ、これでノブナガ様もヒッシーも無事だったって事だしいいんじゃないの?」


「まあそうだけどな」


 ヒデヨシはそう言うが、まだこれは始まりに過ぎないのは分かっている。この先に果たしてどんな事が待っているのか、一度この世界に来た時よりも不安だった。何せ今回は敵が多い。リアラの力があるとはいえど、この先どうなるのやら。


「ヒスイ、二人で話したいことがあるんですけどいいですか?」


 そんな会話をしているとリアラが割って入ってきた。


「時間あるから大丈夫だけど、二人だけで話す事なのか?」


「なるべく他の人には聞いて欲しくないので」


 そこまでリアラが言うので、彼女を部屋に呼んで話しを聞くことにした。


「ヒスイ、体の方は大丈夫ですか?」


「今の所は元気だけど、それがどうかしたか?」


「ヒスイはノアさんから言われているはずですよね、魔法はなるべく使わないほうがいいって。その魔法を使う事がどれほど危険だということも」


「聞いたよ。でもそれも承知で俺は魔法を使っているよ」


 リアラが何を言いたいのか分からないので、中途半端な答え方をしてしまう。確かにこの話は、ノブナガさん以外の前では話す事ができないけど、わざわざ二人きりになってまで真剣に話す事なのかと思ってしまう。


「実は私があなたの元にやって来たのは、もう一つの理由がそれなんです」


「この魔法のことが理由?」


「はい。単刀直入に言うと、私はあなたのその呪いを解きに来ました」


「治療法があるのか?」


「ただし簡単な治療法とは言えませんけど」


 師匠の言い方だと、治療法はないと思っていたけど、それが存在するのは思いも寄らない話だった。でもそれと同時に、少しだけ悔しさも湧いてくる。


「あるならどうして、師匠に行ってくれなかったんだよ」


「ノアさんが治療を嫌っていたからですよ。自分がこのまま死ねるから本望だって」


「師匠……どうしてそこまで……」


「その理由は、あなたにあるんじゃないんですかヒスイ」


「俺に?」


 師匠が治療を拒んだ理由が?


「この治療をするという事は、その魔法を永久に使えなくするという意味なんです。でもノアさんはあなたを弟子にとってしまったんです」


「じゃあ俺に教えるために、ずっと……」


「魔法を捨てるなんてこと、出来なかったんですよ」


「そんな……」


 本当は俺を弟子に取る前から、その身体はボロボロだったのだろうか? そうだとしたら、俺だけが治療して命をかけて教えてくれた魔法を捨てることなんて……。


「ヒスイ、あなたにはノアさんと同じ未来を歩んでほしくないんです。だから私が治療をしますので、この魔法を使うことはやめましょう」


「俺にはそんな事はできないよリアラ。師匠がそこまでして教えてくれたこの魔法を捨てるなんて……」


「駄目ですよヒスイ! 私はあなたには無事でいて欲しいと思っています。だって……」


 意地でも止めたいのか、涙ぐむリアラ。その彼女を見て心が痛むが、それでも俺は……。


「ごめん、リアラ」


 茨の道を進む。

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