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外伝 戦国婚活事情 後編

「で、それは結局失敗に終わったんですか?」


「はい。ガセ情報だったんですよ」


 あれから一ヶ月ほど経った後、この話をある人に話した。彼の名は桜木翡翠。少し前に突然私達の目の前に現れた不思議な力を持った男の子。


「でもそれって不思議な話ですね。先代はちゃんと男がいたのに、何で今は俺だけなんでしょうか」


「それは私にも分からないです」


 彼はとても不思議な人だった。ある日突然戦地の真ん中で眠っていて、危険だから織田軍で引き取ったのだけれど、彼は魔法というものを使う、この世界でただ一人の人物だった。


「でも見つからないのって、かなり大変な事態ですよね」


「ヒデヨシさんが告白したのだって、そういう意味も含まれているんですよ」


「それは俺だって分かってはいますけど……」


 この一ヶ月だけでも随分と色々な事があった。何度も戦だってあったし、彼が城を出て行ってしまったこともある。ヒデヨシさんの結婚の申し込みというのも、つい先日起きたばかりの事で、彼はそれをある理由で断ってしまった。


(ヒデヨシさんもきっと、それなりの考えがあったから結婚を申し込んだんですよねきっと)


 この一ヶ月で彼女は彼女なりに行動をしていた。それなのに私とは言うと、言うほど何かができていたって事はない。


「でも本当にここが過去の戦国時代なら、ヒデヨシにもちゃんと結婚相手がいるんですよ」


「あ、そうなんですか? その相手は誰ですか?」


「本人を尊重したいので、詳しくは言えませんけど結構近くにいたりしますよ」


「そうですかぁ」


 近くにいると聞いたら、何となくではあるけど察しがついた。やはり私の考えていることは間違っていないらしい。


「私も結婚したいですよヒスイ様」


 そんな事をボヤいてみる。彼にボヤいたところで解決策は見つからないから意味ないけど、それでもいつまでも解消しない悩みは私を悩ませた。


「そうは言われても、俺にはどうにもできませんよ」


「ヒデヨシさんの求婚も断って、ヒスイ様はどれだけハーレム生活を送りたいんですか」


「は、ハーレム? ノブナガさん、どうしてそんな言葉を」


「ふふっ、内緒です」


 私をからかったお返しですよヒスイ様。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 彼が私達の元にやって来てからもう間もなく二ヶ月。私はまだ目を覚まさない彼の心配と、仲間を失った悲しみの二重に苦しまされていた。


(ミツヒデ……)


 この度私達の目の前に突然姿を現した、ヒスイが言っていた魔王の娘。彼女がどんな目的で、ここへ来たのか分からないけど、彼女の力は戦の領域を遥かに越えていた。

 その中でヒスイ様は傷つき、一番長く一緒に今ミツヒデが……なくなった。この怒りは誰にぶつければいいのだろうか。


(とにかく今は、ヒスイ様が目を覚ましてくれることを祈るしか……)


 大きな傷ではなかったといえど、あの体だとしばらくは動けない。あの場所にもっと早く駆けつけていれば、きっとこんな事にはならなかったはず。

 ちょっとした勘違いがどうしようもならない事態にまで陥ってしまった。その事実が私にとって悔しくて悔しくて……。


(あの時私は、ヒスイ様なら強いからきっと大丈夫だと思ってしまっていた。だから私は)


 ヒスイ様を止めることもできなかった。いつからか私は弱くなっていたのかもしれない。


「……」


 そんな事を考えていると、ヒスイ様が目を開けてボーッとしていた。


「ヒスイ様、よかった。目を覚ましてくれたんですね」


「ノブナガさん……」


(よかった、本当によかった)


 もうあれから三日が経っていて、ずっと目覚めない彼がわうわく目を開けてくれた。それだけでも嬉しくて、私は今すぐにでも泣きたかった。


「その、ミツヒデは?」


 だけどその余裕すら許されなかった。私は彼にまず伝えなければならない。ミツヒデが……。


「ミツヒデは……その……」


 言葉を詰まらせてしまう私。言わなければならないと分かっているのに、言葉が出てこない。


「ノブナガさん、我慢しなくていいですよ。これは俺の責任ですから」


 そんな様子の私を悟ったのか、ヒスイ様は優しく言葉をかけてくる。その一言が更に私を苦しくする。


「もしここまで我慢してきたなら、泣いてくださいノブナガさん。ここでなら誰も……」


 その次からの言葉はハッキリと覚えていない。気がつけば私は、彼に身を預けていた。涙はもうでないかもしれないけど、今は彼にずっとこうしていてもらいたい。私を優しくずっとこのままで……。


 そしてこの日、私は初めて恋という言葉の意味を知ることになったのだった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「やっぱり寝てなかったんだノブナガさん」


 小さな寝息をたてながら眠る彼女を眺めながら俺は呟いた。

 どれくらいあの状態でいたのかはハッキリと覚えていない。でもその間、彼女は一度も涙を見せなかった。ただただあの状態でずっと二人の時間を過ごしていた。


『私も結婚したいですよヒスイ様』


『だからせめて今だけは……ヒスイ様の側でずっとこのままでいさせてください』


 ふと彼女の言葉が頭をよぎる。


(ずっとこのまま……か)


 そう言われても俺には時間も限られている。帰るべき場所だってある。だからずっと側にいるのは不可能。不可能なんだけど……。


(どうしてだろう、このままここにいたい気持ちが強くなっている)


 それはかつて一度味わったことのある気持ち。それを与えたのはサクラだった。


(もしかして俺は……)


 気付いてないだけで、いつの間にか彼女を好きになっているのか?

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