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第93陣形にはないけど確かなもの

 婆が言う通り、そこからはかなり過酷な道だった。行く先々で命の危険に晒されながらも、魔法やら例の力を使って何とかかいくぐり、ようやく出口らしき場所へとたどり着く。


「はぁ……はぁ……」


 思った以上に体力を使ったので、息を整える。外で何が待っているのか分からないが、とりあえずここを出ないと始まらない。


「って、やっぱり開かないか……」


 だがそこは予想通りと言うべきか、鍵が閉められていた。しかも鍵穴もないので、ここからは出られないようだ。


「お主の他にも客人が来てのう。折角じゃから、もう少し楽しませてもらおうかのう」


「客人……だと」


「どうやらお主を探してここに来たみたいじゃが、果たして彼女は同じように抜けられるかのう」


「それってまさか……」


 ノブナガさん? だったら探さないと。だが、疲労がかなり溜まっているせいか、体が上手く動かない。


(いや無理をしてでも、動かさないと……)


 脱出できない以上、体を無理してでも動かすしかない。


(こんな事したらノブナガさんに怒られそうだけど)


 彼女が助けに来てくれているのに、無理しないでどうする。


「まだ動けるとはのう。お主は何故そこまでして無理をする」


「そんなのこの里がしてきたことが、許せないからに決まっているだろ。祭壇の下で見たあれは、絶対に忘れることができない」


 再び俺は走り出す。ノブナガさんがどこにいるかは分からないけど、早く見つけて一度ここを出ないと。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 里の中にある変な屋敷に入ってから、もうどの位経ったのか分からない。かなりの広さがある上に、何故か罠とかが多い。ただの屋敷ならここまで罠を張り詰める必要はないのに、まるでここに何かがあるみたいな造りをしている。


(祭壇もなさそうだし、早く出たいところだけど)


 その点が引っかかっていて、私はこの屋敷をくまなく捜索していた。本来の目的とは全く関係ないけど、ここに何かありそうなそんな予感がしていた。


「そんなに探っても、お主が探しているものは見つからないがのう」


 ある部屋を捜索中、突然誰かに話しかけられる。振り返るとかなりの高齢の人がそこに立っていた。


「何者ですか、あなたは」


 咄嗟に私は身構える。そんな私に対して、彼女は何も構えようとはしない。


「勝手に里に侵入しておきながら、よくもそんな事を言えるのう。まあ、裏切り者を連れて来てくれたのは感謝しておる」


 たけどその次の言葉で、私は彼女が敵である事を把握した。ネネさんを裏切り者と呼ぶのは、この里の者くらいしかいない。


「裏切り者? まさかネネさんの事ですか?」


「何じゃ分かってて連れてきておったのか」


「彼女は大切な仲間です。知っていて当然じゃないですか」


「ではお主は、彼女が自分の両親を殺めた事も知っているかのう」


「え?」


 初耳だった。彼女が何らかの理由で里を抜け出していたのは知っていたけど、それ以上の話は聞いたことがない。ましてや、そんな両親を殺めたなんて話しは。


「どうやらそこまでは知らなかったようじゃのう。では折角じゃから話してやろう」


 その後彼女から語られたのは、ネネさんが抱えている闇だった。それは私が知っておくべきだった話なのかもしれない。でもそんな悲しい話を、誰が話したがるだろうか。


「さてここまで話したところでなんじゃが、お主に客人がおるぞ」


「客人?」


 話が終わりを頃に、老婆はそう私に告げた。同時に部屋の扉が開かれ、そこに入ってきたのは……。


「ノブナガさん!」


「ひ、ヒスイ様?!」


 ここに来てからずっと探していた、祭壇の中にいると言っていたヒスイ様だった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「ノブナガさん!」


 ある部屋に入ると、奇跡的にノブナガさんを発見した俺。だが彼女の近くにはもう一人いた。全ての元凶とも言えるこの里の長だった。


「よくぞ見つけたのう、ヒスイ」


「俺も必死だったからな。よくも祭壇に閉じ込めてくれたな」


「言ったじゃろ、お主も罪人じゃと」


「そう言ってお前は、他の人達を殺してきたんだな」


「ヒスイ様、それはどういう事ですか? ヒスイ様は生贄にされそうになったんですよね」


「表面上はそうなるはずだったんです。俺が祭壇の下のあれを見つけるまでは、ですけど」


「やはり殺してからあの祭壇に入れるべきじゃった。まさかお主が生き残るとはのう」


「そう簡単には死なないんだよ俺は。あんたが殺してきた人達のようには」


 本来だったらノブナガさん達が助けに来て、無事に生き残る事になったのかもしれない。だけど、偶然祭壇の下のあれを見つけた俺は、自力で生き残った。

 それがあちら側にとっては予想外だったのかもしれない。何せ生き残るという事が、本当ならあり得ないことなのだから。


「お主はまだ勘違いしているようじゃのう。私は決して人殺しなどしておらぬ」


「じゃああれが何なのか、説明できるのか?」


「じゃから生贄と言うておるじゃろう。それに何を根拠にお主は言っておるのじゃ」


「教えてくれたんだよ、一つの魂が。この里の真実を」


「この里の真実? 何ですかそれは」


「ノブナガさんには後でちゃんと説明します。ネネにだってちゃんと」


 そして彼女に思わせたい。こんな里から抜け出して良かったと。それが俺の今の思いだった。


「魂じゃと。そんな適当な事をよく言える」


「まだシラを切るなら構わない。だけど俺は、あの涙だけは忘れない」


 形には見えなかったけど、彼女は涙を流していた。俺がこうして動いている理由に、それも含まれていた。まだそんなに年がいってない少女が、あんなに悲しんでいる。そんな事があるのが、俺は許せなかった。


「何を吹き込まれたか知らんが、お主の力で私に勝てるとでも?」


「勝てるさ。俺には新しい力があるから」


 だから俺は負けたくない。ここで悲しみの連鎖を断ち切る。


「勝負だ!」






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