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第82陣痛みと涙と誓い

 微かに異変を感じたのは、部屋に戻って少しした後だった。


(何だこの、気持ち悪い感触は)


 少し嫌な予感がした俺は、その発生源を探してみる。するとその微かな異変は、城の入口。そう、まさにヒデヨシが先程までいた場所あたりから感じられた。


(まさかっ!)


 急いで外へと出る。そこで待っていたのは、


「ヒデヨシ!」


「どうしたのヒッシー、そんなに慌てて」


 いつもと様子が変わらないヒデヨシただ一人だった。いや、違う。


「今度は身体を乗っ取ろうという作戦か、マルガーテ」


 ヒデヨシの背後に感じる全く違う次元の魔力。やはり俺の嫌な予感は的中してしまった。


「乗っ取る? 何を言っているのヒッシー。私はいつも通りだよ」


「そこまで言うなら、さっき誰かを待っていたみたいだけど、その人は来たのか?」


「来たよさっき」


「そうか。じゃあ誰に会ったか教えてくれ」


「えっと、それは」


 答えられないと分かっていた。とりあえずヒデヨシの背後に見えるもの、それが間違いなく俺が感じた異変そのもの。でもどうしてヒデヨシが狙われたんだ?


「じ、実は誰にも会えなかったんだよ」


「今更嘘ついても、無駄だと思うけどな」


 そう俺は答えてやる。今になって何もありませんでしたなんて嘘、通じると思うか普通。


「何を考えているか分からないが、さっさとヒデヨシの体から離れるんだなマルガーテ」


 全てお見通しな事はあちらも分かっているらしく、ヒデヨシではない声で微かにため息が漏れたのが聞こえる。


「簡単に見破られるとは思いませんでしたね。ただし、忘れないでほしいです。私はどんな時でも攻め込む事ができることを」


 そしてマルガーテはそれだけ言い残して消え去った。

 無事正気に戻ったヒデヨシは、俺を見るなり涙を流し始めた。


「ヒッシーィ、良かった助けに来てくれたぁぁ」


 よほど怖かったのか、泣き崩れるヒデヨシ。俺は彼女の元に寄るなり、その頭を撫でてあげた。


「ごめんなヒデヨシ、怖い思いさせて」


「私ずっと怖かたったよぉ。ヒッシーに一年前助けてもらってから、何かに付きまとわれていた気がしていて」


「一年前から……って、もしかして闇触は完治できていないのか?」


「分からない……えぐっ。でも最近になって、急に声が聞こえるようになって」


「原因はやっぱりマルガーテにあるか……。多分ヒデヨシに聞こえる声の原因もあいつだ。そしてヒデヨシには悪いけど、闇触は完全に治ってない」


「そんなぁ……。私怖いよヒッシー」


「大丈夫。俺がいるから」


 予想外の展開に俺は動揺を隠せなかった。マルガーテがまさか直接ヒデヨシに接近するなんて思っていなかったし、完治していると思っていた闇触もまだ残っていた。

 それに対してヒデヨシは一年も我慢していたことに俺は気付いてやれなかった。だからせめて今からでもいい。ヒデヨシを守ってあげないと。


(一体何がしたいんだマルガーテは)


 ノブナガさんへの攻撃、ヒデヨシの身体の乗っ取り、まるで彼女は俺達を狙っているというより、この世界を乗っ取ろうとしているように思えてくる。


(まさか、な)


 とりあえず今は悪いことは考えず、ヒデヨシを連れて城へと戻った。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「そんなヒデヨシさんが……」


 ヒデヨシの件は俺以上にノブナガさんがショックを受けた。一年も側にいたのに気付いてあげれなかったのだから、その気持ちは俺も分かった。だけど彼女は魔法を使えないのだから、仕方がない事だと俺は思う。


「ノブナガさん、こればかりは俺の責任がと思うんですよ。でもそれ以上に辛いのはヒデヨシですよ。何せ身体を一度乗っ取られてしまっているんですから」


「おまけに闇触が治ってないだなんて言われたら、私でも辛いですよ」


「しかも今後のことを考えると、ですよね」


 二人してため息を吐く。気づけなかった俺達も辛いけど、今後の不安とか色々含めるともっとヒデヨシは辛い。それに対して俺達は、今後どうすればいいのだろうか?


「どうやらじっとしていられないですよね。ヒデヨシの為にも俺達が動かないと」


「そうですね。私達が動かないと」


 もう迷っている時間はない。俺とノブナガさんの心は決まっていた。先日彼女が話した通り、他の将達の協力を得て、この世界に潜んでしまった闇を払う。ただ、簡単には協力を仰げないのは覚悟しなければならない。


「待ってください、ヒッシー、ノブナガ様」


 だがそれを止めようと言い出したのは、なんとヒデヨシだった。突然部屋に入ってきたヒデヨシは、俺達に向けてそう言い出したのだった。


「どうしたんだよヒデヨシ、このままでいいのかよ」


「よくないよ。でも、傷つくのは私だけでいい。だから……もうやめようよ」


「ヒデヨシさんが仮によくても、私達はそういう訳にはいかないんですよ」


「ノブナガ様、お願いですから……」


「ヒデヨシさん!」


 俺が何かを言おうと悩んでいると、ノブナガさんがいつもよりも強めの口調でヒデヨシをなだめた。


「もう私は……ミツヒデさんも、他の誰でもいなくなるのは……嫌なんです。だから……だからぁ……」


 さっきまでの涙がまだ消えていないのか、再び泣き出してしまうヒデヨシ。その彼女にノブナガさんは歩み寄っていった。


「ごめんなさいヒデヨシさん。あなたの痛みに私達は気付けなくて。でもここからは、私達に任せてください。必ずヒデヨシさんの借りは返しますから」


「ノブナガ様ぁぁ」


 この後ヒデヨシはよほど辛かったのか、ノブナガさんに身を預けて泣き続けた。俺はそれを静かに見届けることしかできなかった。



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