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第52陣恋人初夜 中編

「こうして二人きりになるのも一年振りですか」


「そうですね。ノブナガさんの部屋で二人きりはもっと久しぶりな気がしますが」


「確かにそうかもしれませんね」


 色々と意識しているからなのか会話が長く続かない。俺の考えすぎなのかもしれないが、ノブナガさんの反応を見てしまうと、やはり気にせずにはいられない。


(こういうときどうすればいいんだ? こんな経験一度もしたことないぞ)


 先程から心臓の鼓動がやけに早い。


「あ、あの、ヒスイ様」


「な、何ですかノブナガさん」


「私達、恋人で......いいんですよね?」


「一年前の話ではあるんですが、ノブナガさんの気持ちが変わってないなら」


「そ、そんなの当たり前じゃないですか! 私はこの一年、貴方が来てくれることをずっと待っていたんです。変わるはずもありません」


「そう、ですよね」


 ノブナガさんの強い想いに俺はうまく言葉が出てこない。


(俺とノブナガさんは恋人だ。その仲の二人が、こうして夜で二人きり。その状況でやることなんて......)


 俺は少し震えるノブナガさんに手を伸ばす。


「ノブナガさん、俺は誰かとお付き合いしたことがないので、何ができるかよく分かっていません」


 そしてその言葉と共に彼女の体を抱き締めた。


「私もヒスイ様と同じ、です」


 ノブナガさんはそれに答えるように抱き締め返してくれる。


「だからこういうの、正直不馴れです。だから少しずつ前に進みませんか?」


「少しずつ......ですか」


「はい、少しずつです」


 時間は限られているかもしれないけど、もしその中で彼女の幸せを作れるなら精一杯の努力をしたい。


 したいのだが......。


「ヒスイ様、お願いがあります」


 ノブナガさんは一度俺から離れると真っ直ぐにこちらを向いてきた。


「はい、何ですか?」


「今日は私と一緒の布団で眠ってくれませんか?」


 少しずつ......?


 ■□■□■□

 同じ布団で寝る、と言っても決してやましいことがあるわけでなく、俺とノブナガさんは一枚の布団に背を向けて眠りについていた。


(余計な想像をした俺が馬鹿だった......)


 少しずつ以上のことを考えていたのは、他でもない俺自身だったらしい。ただ下手に期待しすぎたせいで眠れず、ずっと窓の外の月明かりを眺めていた。


「今日は月が綺麗ですよね」


 ふと、ノブナガさんが俺に話しかけてきた。


「起きていたんですか? ノブナガさん」


「そういうヒスイ様だって」


「まあ、眠れるわけがないんで」


「ふふ、私もです」


 背中で何かが動く音がする。恐らくノブナガさんなのだろうけど、数秒後俺の背中に柔らかい何かが触れた感触がした。


「の、の、ノブナガさん?」


「なので私はヒスイ様を抱き枕にして寝ます」


「え、ちょっ」


 背後からノブナガさんにギュッて抱き締められる。普段はあまり見せることのない仕草に、俺の心臓の鼓動がさらに激しくなる。


「暖かいです、ヒスイ様」


「そ、そうですか」


「このままずっと抱き締めていたいくらいです」


「そ、それh色々困るので」


「私は困りませんよ?」


「ノブナガさんはそうでしょね!?」


 俺がこの状態で見つかったら何が起きるか予想できない。


(死を覚悟しないとダメだな)


「でもこうしてないとまたヒスイ様がどこか遠くへ行ってしまいそうで、離したくないんです」


「それは......」


「ヒスイ様は......離れてもいいんですか?」


「そんなわけないですよ。俺だってノブナガさんともう離れたくありません。ただ......」


 俺にはもう時間がない、そう言いたいけど言葉が出てこない。


「ヒスイ様」


「は、はい」


「何か私に隠し事をしていませんか?」


「な、べ、別に何も」


「本当ですか? 私はうっとヒスイ様の様子が変なので、気になっているのですが」


 だがそれをノブナガさんに突かれて、動揺を隠せない。


(ノブナガさんにだけでも話すべきか?)


「お話できないならいいですよ。その代わり私がまだ誰にも話していない秘密を話します」


「ノブナガさんの......秘密?」


 俺が知っている歴史上で知られていない何か大事な話なのだろうか。


「先月の話になるんですが......」


 ■□■□■□

「今の話、本当ですか?」


「はい」


 今から一ヶ月前。私はヒデヨシさん達には秘密で、ある場所に訪れていた。


「ノブナガ様、お体の異変に気づいたのはいつからですか?」


「少し前からです。体が少しずつ言うことが効かなくなる時がありまして」


 彼女はドウザンさん。

 彼女は私の主に身体的な面で私を診てくれて、何度かお世話にもなっていた。


「やはり......」


 自分の身体で気になっていたことがあったので、彼女を訪ねてみたところドウザンさんは深刻そうな顔でこう私に告げた。


「いいですかノブナガさん、落ち着いて聞いてください」


「......はい」


「ノブナガさん、貴女の命はもう長くありません」



「え?」


 俺はノブナガさんの言葉を聞いて、思わず彼女に振り返ってしまった。


「ノブナガさん、今の話どういう」


 振り返った先にあった彼女の表情は、


「そのままの意味ですよ。私の命はもう長くないんです」


 今までに見せたことがない悲しげな表情だった。

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