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魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
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第47陣ヒスイとノブナガ

 思えばノブナガさんと手を合わせることになるのはこれで三度目になる。最初は敵襲で中断、二度目は俺の勝ち。

 ただしどちらとも本気での戦いはした事がなかった。決して手を抜いたとかそういうのではない。二人ともあくまで手合わせという形だけの戦いで、今回の大会みたいな本気で相手と対峙はしていなかったのだ。


「夜風が気持ち良いですね、ヒスイ様」


「はい」


 夜も深まり始めた頃、俺とノブナガさんは二度目に手合わせしたあの場所へと来ていた。ここならお互い遠慮せずに全力でできると思ったからだ。


「ヒスイ様は明日ここをお離れになるんですよね?」


「明日の昼頃にはここを離れると師匠から聞いています」


「じゃあ本当にこれが、二人きりでいられる最後の時間ですね」


「そう……ですね」


 ノブナガさんの言葉を聞いて改めて痛感する。ノブナガさんとこうして話すことができるのも残り僅か。

 そしてこうして手合わせできるのもこれが最後。次いつ来るか分からないその日まで、もうこうしてノブナガさんに向いて刀を向けることもできない。それは俺だけでなく、この世界にいる皆がそうだった。


「その刀、ずっと使っていただきありがとうございました」


「ノブナガさんからもらったものですから、そう簡単に無くすなんてできませんよ」


「そう言ってもらえると、その刀も喜びますよ」


 そういえばこの太刀もノブナガさんにもらってからずっと使い続けていた。それだというのに刃こぼれもしないし、切れ味もほとんど落ちていない。一体どんな代物なのか、元の世界に戻ったら調べてみたいものだ。


「じゃあヒスイ様、そろそろ」


「はい」


 お互いに向き合って、太刀を抜く。動き出すのはどちらが先かは分からない。ただ、一瞬でも気を抜いたら負ける。だからこの最初の一手は譲れない。


(今回は魔法は使わない。俺自身の力だけで戦う)


 微かに吹いていた風が止む。そして……。


「はぁ!」


 コンマ数秒差で先手を取ったのは、


「まさか私より先に動けるなんて、やはり強いですねヒスイ様」


 意外な事に俺だった。


「こんなんじゃまだまだですよ、ノブナガさん」


 確実に入ったと思われたその一撃は、見事に受け止められている。しばらくつばぜり合った後距離が一度開く。


「その様子だと魔法使う気がないみたいですね」


「はい。魔法なしで、ノブナガさんと本気で戦いたいので」


「怪我してもしりませんよ」


 そう言いながらノブナガさんは俺の元へ走っていき、そのまま斬りかかってくると思いきや、俺の目の前で踏み切って……。


 飛んだ。


「え?」


 まさかの動きに驚く俺の頭上を飛び越えたノブナガさんは俺の背後に着地。


「実は私も、本気のヒスイ様と戦いたいので、いつもより何倍も力を出すつもりですから」


 そして彼女は、いつもとは違う口調で俺にそう告げたる。背後を取られてしまった事により、ピンチになった俺。だが俺だってそれだけで終われない。


「まさかあんなに飛ぶなんて驚きましたけど俺だって」


 ノブナガさんの次の一手を避けるために、俺は一度かがんで横転する。すると元いた場所には刀が振り下ろされていた。かがんだのは横薙ぎを避けるために、そして横転は今みたいな攻撃を避けるための行動だった。


「咄嗟の行動とはいえど、流石ですねヒスイ様」


「この世界で何度も戦ってきましたからね。自然と体が動くんですよ」


 再び向き合う俺とノブナガさん。そして俺は既に次の一手へと動き出した。


「だぁ!」


 彼女の横腹に向けて突きをお見舞いするが、それはガードされる。それを予想していた俺はそのまま体を九十度回転させてガラ空きの反対側の腕を狙う。勿論ノブナガさんはガードは間に合わないと思っていたが、何とそれを彼女は腕で止めた。


「手甲って知っていますか? こうやって反対側の守りもしっかりできるんですよ」


 刃を受け止めながら彼女は言った。そういえばそういったものがあるとは聞いた事がある。だが俺はそんなものをつけているわけではないので、


「と言う事で私の勝ちですね、ヒスイ様」


 ノブナガさんの次の一撃を防ぐ手立てはないのであった。


 ■□■□■□

「魔法を使えばまだ分からなかったのに、良かったんですか?」


「俺は最初に言いましたよ? 魔法を一切使わないで戦うって」


 戦いを終えた帰り道、俺とノブナガさんは横に並んで他愛のない会話をしていた。今この時間がとても幸せに感じているのか、自然とその歩むスピードは落ちている。


「改めて思ったんですけど、ノブナガさんってかなりの身体能力を持っていますよね」


「そうでしょうか? 私はこれが普通だと思いますけど」


「だってあの跳躍力とか、普通だったら考えられませんよ」


「まあ、あれはちょっと特殊なだけなんですけどね」


「特殊?」


「あ、いえ。何でもありません」


 突然不思議な事を言い出すノブナガさん。


(そういえばすっかり忘れていたけど、ここって俺の知っている本来の戦国時代ではなくて、全く別の世界なんだよな)


 ただ偶然同名の人物がいて、似たような世界が構築されている、それだけの話。だから特殊な何かがあっても、不思議ではないのか。


「あの、ヒスイ様」


「はい。何ですか?」


「ヒスイ様はいつ、またこの世界に来られるんですか?」


 突然な質問をするノブナガさん。さっきの手合わせが終わってから、急に様子が変わったけどどうかしたのだろうか?


「ヒスイ様は一度離れると言いました。ですが、いつもう一度戻ってこれるとは言っていません。それについてはどうなのでしょうか」


「それは今は分かりません。ですけど、いつかは……」


「離れる必要なんてないじゃないですか」


「え?」


 ノブナガさん?


「これからもずっとこの世界にいてくれたっていいじゃないですか!」


 ノブナガさんは怒りをぶつけるように俺の胸を叩く。その言葉の節々には涙声が混ざっていた。


「どうして無理して離れる必要があるんですか?! 私や……ヒデヨシさん、他の方々だって貴方に残ってほしい、そうやって願っているんです!」


 悲痛とも思えるその言葉に俺は思わずたじろいでしまう。そして俺は気付いた。急に様子が変わったんじゃなかったんじゃない、ずっと我慢していた事を。人前ではああ言っていたけど、本当はノブナガさんは誰よりも……。


(いや、ノブナガさんだけじゃなくって皆が本当は......)


「ノブナガさん、俺は……」


「もっと私と、いえ私達と一緒にいてください! もっともっと、私と……」


 本当に涙を流し始めるノブナガさん。その姿を見て俺は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。彼女がずっと隠していた想い、それは告白ともとれるような言葉だった。


 彼女を抱き締めたい。


 ここに残りたいって言いたい。


 それでも俺は......。


「ごめんなさいノブナガさん、やっぱり俺はこの世界から一度離れないと駄目です」


「どうして? もうあなたは私達にとってかけがえのないものなのに、それでもどうして……」


「ノブナガさんの居場所がここであるように、俺にも居場所があるんです。元の世界で待たせてしまっている人がいるんです。だから俺は一度自分の場所に戻ります。たとえ好きな人を置いていくような形になってしまうとしても」


 自分でも予想外な言葉が口から出る。まさかこんな形で自分が告白なんてするとは思ってもいなかった。


「え?」


 目を丸くするノブナガさん。


「こんな形で告白するのも少し恥ずかしいんですけど、俺ノブナガさんの事が好きです」


 いつからかは分からない。だけど二ヶ月同じ時を彼女や他の仲間と過ごして、とても幸せだった。サクラの事で色々迷惑をかけた事もあったけれど、その中で俺は俺自身の想いに気づけた。


(俺はノブナガさんを心の底から愛しているって......気づいていたんだ)


「ヒスイ……様?」


「必ずもう一度戻ってきます。今度はちゃんとした形で。そしてその時は結婚式でもなんでもしてあげますよ。ノブナガさんがその気ならば」


 正直な話ノブナガさんが俺をどう思っているのか、明確には分からなかった。だから今の言葉も彼女を安心させるための一種の保険にしかならない。それで彼女がどう思ってくれるのか、俺の中では少しだけ不安が残っていた。


「そんな事言われたら私……」


 涙をぬぐって、もう一度私と言った後に彼女はこう言った。


「いくらでもヒスイ様を待ち続けるに決まっているじゃないですか」


 こうしていつ果たされるか分からない約束を俺とノブナガさんはした。それは永遠に叶わない事かもしれない。けど、いつかは絶対果たされると俺は信じている。


 そして最後の夜が明け、最後の朝がやってくる。


 目覚めは悪くはなかった。ただ、この部屋で朝を迎えるのも今日が最後かと考えると、少しだけ寂しさを感じる。


「ふわぁ、おはよう」


「おはようございます、ヒスイ様」


「お、おはようヒスイ」


「おはようございますぅ」


 今日は珍しく朝から全員が集まっていた。ただ一人、ヒデヨシだけは除いて。


「ヒデヨシがいないみたいですけど、まだ起きてないんですか?」


「それが朝起こしに行ったら、既にいなかったみたいなんですよ」


「朝からどこかへ出かけるような奴じゃないのに、どうしたんだろ」


 まさかのヒデヨシの行方不明に俺は動揺を隠せない。こんな大事な日に何やっているんだヒデヨシは。


「お姉様の事は私に任せてもらえない?」


 そんなヒデヨシを探そうと一番に名乗り上げたのはネネだった。何か心当たりでもあるのだろうか?


「本当はあんたの為なんかに動くのは少し癪だけど、このままだとお姉様はきっと後悔すると思うから。だから私に任せてもらえないかしら」


 一々棘のある言い方だが、やはりネネは一番にヒデヨシの事を思っているからこそ、こういう行動に移せるのかもしれない。


(やっぱり仲良しだよな二人は)


「じゃあ頼んだぞネネ」


「あなた何かに頼まれなくても、やりますわよ」


 ■□■□■□

 とりあえずヒデヨシの事はネネに任せる事にして、朝食を済ませた俺は、帰り支度をしていた。


「ヒスイ、入りますよ」


 大方片付けや準備を済ました頃、タイミングを見計らったかの様に師匠が俺の部屋を訪ねてきた。


「どうしたんですか師匠。準備とかなら終わりましたけど」


「一応確認だけしに来たんですよ。ヒスイの準備は終わっているのかって」


「いや、だから終わっているって言ったじゃないですか」


「私は心の準備について尋ねているんですよ」


「心の準備?」


 この世界から離れる事に対しての事だろうか? それならもう俺は出来ているのだけど。


「この世界から離れる事に対してではありません。あなたがもう一度私達の世界へ来るという事に対しての心の準備です」


「え? それって別に心の準備が必要な事ではないかと……」


 別に魔力を回復させて、元の体に戻る為に行くだけだし、それに対しての準備は必要はないと俺は思うのだけれど。


「いいですかヒスイ、今からあなたが私達の世界へやって来るという事はですね……」


 だがその次に彼女の口から語られたのは、俺の一種の覚悟が必要になるものであった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 そしてついに迎えた最後の時間。先程の話で俺はかなり迷う事になってしまったけれど、最終的には一つの大きな決意として固まった。だからもう、心の準備も含めて全ての準備が整った。


「こちらの準備も整いました。あとはその時間まで皆さんと話すだけ話していてください」


 あちらの世界への転送として用意された魔法陣(転移魔法の一種なのだろうか)は、全ての始まりとなったあの場所にあった。


「いよいよ、ですねヒスイ様」


「はい。ノブナガさん」


 そしてその場所に集まったのは織田軍の面々。ただしその中にネネとヒデヨシの姿は見当たらない。


「寂しいですよぉ、ヒスイさぁん」


 珍しくリキュウさんは号泣している。まさかここまで泣かれるとは思っていなかったので、俺は涙もらいしそうになる。


「泣くなよリキュウさん。俺まで悲しくなるからさ」


「でもぉ、ヒスイさぁんがぁいなくなるとぉ、私のぉお茶を毒味……飲んでくれる人がいないんですよぉ」


「今明らかに毒味って言ったよね? せっかくの感動が台無しだよ!」


 そんなやり取りを見ていた他の人達から、笑いが込み上がる。


「もう最後の最後までおかしなやり取りしないでくださいよ、ヒスイ様」


「そう思うならノブナガさんがお茶を飲めばいいじゃないですか」


「それは嫌です。大将の権限としてらヒスイ様には一生リキュウさんのお茶を飲んでもらいます」


「まさかの職権乱用ですか?!」


 少しずつ場が和み始める。だがもうその時間も残されてはいない。


「ヒスイ、そろそろ行きますよ」


「え、あ、でも……」


 ついに師匠にそう言われ、俺は少しだけ戸惑ってしまう。このまま帰るのはいい、だけど、


「ヒッシー!!」


 だけど……。


「ヒデヨシさん?! よかった、来てくれたんですね」


 こいつが来ないと、帰ろうにも帰れないだろう。


「馬鹿野郎、遅いぞヒデヨシ」


「ごめんねヒッシー。私……」


 俺の前までやって来たヒデヨシが何かを言おうとしているが、なかなか言い出せない。そんな彼女の頭に俺は手を置いて、こう一言だけ言った。


「ありがとうな、ヒデヨシ」


 そして俺は皆に背を向けた。もうこれで思い残すことはない。


「じゃあ行きましょうか、ヒスイ」


「はい。師匠」


 後ろから沢山俺を呼ぶ声が聞こえる。それでも俺は、もう……もう……。


「ヒスイ様! 絶対帰ってきてくださいね!」


 その中でハッキリとしたノブナガさんの声が聞こえてくる。そうか、絶対帰ってくるんだよな俺、この世界に。たとえリスクを背負う事になったとしても、もう一度この世界に帰ってくる。


 だったら、最後に一言だけ。


「ノブナガさん、ヒデヨシ、リキュウさん、ネネ。そして、皆。行ってきます!」


 それは必ず帰ってくるという意を込めた一言。そしてここで会った沢山の人達への、一時的な別れを告げる最後の言葉だった。


(いつか必ず戻ってくるから、その時まで)


 さようなら、戦国の乙女達、


 第一部 完





 そして時は少し過ぎて。


「そういえば桜、お前が手に持っているその勾玉ってさ」


 師匠のおかげで自分のあるべき場所へと戻ってきた俺が、高校の同級生の日向桜があの勾玉を持っていることに気がついたのはあれから約一年が経った頃だった。何故今まで気がつかなかったのか少し不思議だが、その勾玉はどこか見覚えがあった。


「あ、これ? これはね」


 桜がそれについて説明をしようとしたその直後、その異変は起きた。


「な、何だ?」


 突然勾玉が発光するなり、周囲を光で包み込んだ。


「桜!」


「翡翠!」


 俺は彼女が離れない為に手を引こうとするが、その手は届かず……。


「嘘だろ、おい」


 桜は俺の前から消えていった。もうすでに光を失った勾玉だけを残して……。


「この勾玉、まさか……」


 かつてノブナガさんが、失くしたって言っていた物じゃ……。


(じゃあ桜は……)


 あの世界に行ったのか?

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