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魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
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第44陣いつかもう一度この星空の下で

「ヒスイ、話があります」


 そう言いだしたのはノアル師匠だった。安全も考慮して、皆には部屋に戻ってもらったあと、一人残った彼女が突然そう口を開いた。


「話?」


「これはあなたの今後に関わる重要な話です。だからどうか真剣に聞いてください」


「俺の今後に?」


「はい」


 その後師匠から語られた事は、俺にとって結構ショックな話で、今後どころかこの先の人生に関わる話だった。


「今回一週間も目を覚まさなかったのが、何よりの証拠です。今まで魔法が使えたのは、私達の世界が魔力で溢れかえっていたからです。だけどこの世界は違います」


「魔力どころか魔法すら存在しない世界だから、ですか?」


「はい。その世界の中であなたは魔力を大量に使い過ぎてしまった。そしてその結果、体内にあった魔力が底を尽きてしまったのです」


「そんな……」


 言われてみればそうなってしまっても、おかしくはない話だった。


(薄々は気づいていたけど、やっぱりいつかはこうなるのか......)


 師匠は言葉を続ける。


「そんな貴方に残されているのは、この世界での死かもう一度私達の世界へ来て、本格的な治療をしてもらうかです」


「つまりこの世界を離れる以外、選ぶ道はないって事ですか?」


「はい。むしろそうしてもらはないといけません」


「でもあの世界への扉はもう開かれないんじゃ……」


「私がどうやってこの世界に来たと思うんですか?」


「あ、そっか。でも俺の世界には?」


「勿論戻す方法がありますので、そこは心配なさらないでください」


 確かにこのままこの世界で死を選ぶよりかは、ちゃんと体を戻して自分の世界に帰る方がいいかもしれない。ただし、それは二度とノブナガさんに会えないことを示している。


 俺はその選択を今すぐ選べるのだろうか?


 二ヶ月という短い時間であっても、俺はノブナガさん達とこの戦国時代まがいの世界で生きてきた。最初は色々ありすぎて、何がなんだか分からなかったけど、馴染んでくると次第に、ここでの生活も楽しくなっていた。


 もっと長くこの世界にいたい。


 もっとノブナガさん達と一緒にいたい。


 まるで我が儘みたいだが、俺の本心はそうなんだ。だから俺は……。


「俺に時間をください、師匠」


「ヒスイ、時間がないのは分かっているんですよね?」


「分かっています。だからこそ……」


 だから俺は……。


「俺にどちらかを選ぶ決意ができるまで、時間をください」


 すぐに答えを出せなかった。


 ■□■□■□

 一夜明けて。


「ふわぁ」


「寝れてないの? ヒッシー」


「ああ。昨日ずっと考え事をしていてな」


 いつもの朝を迎えた。特に変わり映えのない朝。


(ここで迎えられる朝も、残り何回なんだろうな……)


 ただ、俺の心はいつものようなものではなかった。昨日師匠と話をした後、俺はずっと悩み続けていた。


 自分の命を取るか、この世界での仲間を取るか。


 どちらが正しい選択なのか分からない。それでもいつかは出さなくてはいけない。それがとても苦しくて、眠りなんてつけやしなかった。


「ヒッシーはちゃんと治療してもらって、元の世界に戻るべきだと思うよ」


 そんな俺を見て不意にヒデヨシがそんなことを言い出す。


「え?」


「正直な話私はヒッシーにここにまだいてほしいと思っているよ。だけどヒッシーには帰る場所があるし、命を大切にしてもらいたい気持ちもある。だって折角助けてもらったのに、その助けてもらった人が死ぬなんて後味悪いでしょ?」


「ヒデヨシ……」


 師匠、俺のことを話していたのか。という事はノブナガさんにも……。


「あ、でもこれはあくまで私の意見だから。ヒッシーが選びたいようにすればいいと思うよ。ただ、後悔しない選択をしてね」


 ヒデヨシは笑顔でそう言った。でもその笑顔はいつものような明るさはなく、どことなく寂しさを感じられた。


「ありがとうヒデヨシ。でもまだすぐには決められないかも」


「それでいいと思うよ。限られているかもしれないけど、悩むだけ悩んでら納得いく答えをヒッシーなりに見つければいいと思う」


「そうだな」


 俺は改めて思う。彼女の命を無事救えて良かったと。もし救えていなかったら、俺は今ごろどうしていたのだろうか? そんな事を考えると、少しだけ俺は悲しくなった。


 ■□■□■□

 その日の午後、ヒデヨシが無事治ったことの記念にとら何故だか俺とノブナガさんとヒデヨシの三人で、城下町のスイーツ巡りをしていた。


「病み上がりなのに、本当よく食べますねヒデヨシ」


 満腹の俺とノブナガさんを置いて、まだ食べ続けるヒデヨシを見て俺は言う。


「彼女は昔からそうですから」


 久しぶり三人だけで過ごす時間。でもその時間ももしかしたら、最後になるかもしれない。


「ヒスイ様」


「何ですかノブナガさん」


「私ヒスイ様と出会えて幸せでした」


 そんな光景を眺めながら、ふとノブナガさんがそんな言葉を洩らす。


「ど、どうしたんですか急に」


「私やヒデヨシさんや他の皆さんも思っていると思いますが、ヒスイ様はこの世界から離れるべきなんだと思います」


「え、でも……」


「だってこのままだとヒスイ様、死んでしまうんですよ? そんなの誰だって悲しいじゃないですか」


「そうですけど、治ったらもうノブナガさん達には会えないんですよ? そんなの寂しいに決まっているじゃないですか」


「それは私だって同じですよ。でも……それでも私は、ヒスイ様に生きてもらいたいんです」


 ノブナガさんの真っ直ぐな言葉に、俺は返す言葉が見つからない。


「そうだヒッシー、ノブナガ様。あれを見に行きましょうよ」


「あれ?」


「まだ私達とヒッシーが見に行ったあれですよ」


 そんな様子をヒデヨシが何か意味ありげな提案をしてきた。


(あれって......何だ?)


 そのままその日の夕刻、俺達はある場所へと向かっていた。


「この山って確か」


「ヒッシーが初めて戦った場所だよ。懐かしいね」


「二ヶ月前の出来事なのにな。今思うとあの時から義元はマルガーテだったんだな」


「そうなりますね。戦を仕掛けてきたのも、そういう意味も含んでいたのかもしれませんし」


「そうですね」


 この山に来た時点で、ヒデヨシが行こうとしている場所に気付いた。


「星空か」


「うん、今更思い出したのヒッシー?」


「悪い、すっかり忘れてた」


 そこはまだ来たばかりの頃に皆で一緒に星空を見た場所。そこに今回は三人だけで行こうという事らしい。


「あれから振り返ると、色々あったよね」


「そうだな。二ヶ月の間に色々あったものな。ヒデヨシに結婚を申し込まれたりしたし」


 その道中、この二ヶ月の間にあった思い出話に花を咲かせる。


「もう何でそこだけピックアップするの? 他にも色々あったでしょ」


「あれは私も吃驚しましたよ。しかもその直後に色々ありましたからね」


「そ、そうだよヒッシーだって、皆に迷惑かけたし。私の事を言えないよ」


「あ、あの時は少し気が動転していたんだよ」


 サクラの事に関しては二人には感謝している。


 乗り越えられるまで何度も皆に迷惑をかけていたし、ヒデヨシやノブナガさんを傷つけてしまった事だってあった。でもその間誰も俺を見捨てないでいてくれた。


「ヒスイ様がここを飛び出したと聞いた時は、私も気が動転してしまいましたけど、私にも責任があったんですよね」


「ノブナガさんは悪くないですよ。むしろ見捨てないでくれた事に俺は感謝しています。だから改めてお礼を言わせてください。ありがとうございました」


「そんな、まるでもう会えないみたいな言い方をしないでくださいよ」


 ノブナガさんがそう言った直後、俺は足を止める。


(こんな会話していると、この世界を去るみたいな感じだけど、それは……)


 本当になるかもしれない事なんだよな。どちらを選んだとしても長くはこの世界にいられない。本当はもっと一緒にいたいけど、それも叶わない。だとしたら俺はどちらを選ぶべきなのだろうか?


 一生会えなくなるか、もしくは僅かでも可能性を残して別れるか


 そんなの勿論後者に決まっている。たとえゼロに等しくても、僅かでも希望を残してもいいのではないか?


「ヒスイ様?」


「ヒッシー?」


 突然足を止めた俺に、二人は不思議そうに尋ねる。


「あ、ごめん。ちょっと疲れて休んだだけだから、さあ行こう」


 だとしたら俺が出す答えは一つしかない。でもそれを、二人は、いや皆は本当に受け入れてくれるのだろうか?


 この来るべき別れを。


 ■□■□■□

 山を登ること十分弱、目的地へと到着。まだ日が沈みきっていないからか、あの星空は見えない。


「ちょっと来るの早かったんじゃないか?」


「そう思って、軽い食事を私が用意してきました」


 俺がその事を言うと、ノブナガさんはそれが分かっていたと言わんばかりに、軽食を取り出す。とりあえず夜になるまで、お腹を満たしながら待つことにした。


(もしあの話をするなら、今しかないのかな)


「あのさ二人とも……」


 今しがた俺の中で固まった決意を二人に話そうと思い、俺は口を開こうとする。だけどその話を切り出したのは、意外にも


「ヒスイ様、私達に話す事があるんじゃないですか?」


 ノブナガさんだった。


「え? えっと……」


「ヒデヨシさんがお昼頃に私達を誘ったのも、ここへ連れてきたのも何かの意味があると私は思ったんです。それがヒスイ様の意志でないにしろ、話すことは話すべきではないじゃないですか?」


「ノブナガ様、私は別にそんな意図はなかったんですけど」


「ヒデヨシさんは少しだけ黙っていてください。私先程ヒスイ様に私の意見は話しましたが、ヒスイ様自身の答えは聞けていません」


 ヒデヨシの制止を振り切り、話を続けるノブナガさん。どうやら彼女達なりに気を遣わせてしまっていたらしい。


(ここまで来て話さないわけにはいかないよな)


「一日中あの事をずっと考え続けていたんだけど、さっき俺は答えを見つけたんです」


「やはりそうでしたか。じゃあその答えを私達に話してくれますか?」


「はい。でもその前に一ついいですか?」


「何でしょうか」


 俺はそこで一旦話を止めて、後ろを振り返る。


「そこにいる二人にも、聞いてもらいたいんです」


 一本の木に向けてそう言うと、影が二つそこから現れた。


「気配を消せていると思ったんですけど……」


「お姉様ー」


 その影の正体は師匠とネネ。山を登り始めた頃から、二人が付いてきていたのを、俺はとっくに見破っていた。


「ちょっ、ネネ。いきなり……きゃっ」


「盗み聞きするなら、最初からついてくればよかったのに」


 という事で改めて四人が揃ったところで、俺は改めて話を切り出させてもらった。


「ノブナガさん、ヒデヨシ、ネネ、師匠。俺は決めました」


 全員の名を呼んで、一旦間を空ける。そしてら俺は。自分の言葉でしっかりと、自分の答えを示した。


「俺は師匠と一緒に、この世界を去ろうと思います」


 俺は高校生のあの夏から今にかけて、沢山の事を学んできた。魔法とかそんな不思議な力だけでなく、もっと大切なもの。


 それは仲間。


 かつてサクラ達と旅をしてきた時だって、何度挫けそうになったか計り知れない。でもそんな時俺を支えてくれたのは、サクラを始めとする沢山の仲間。そしてここにいる師匠。

 別れはすごく辛かったけど、あの時も俺は誓った。いつかまた、会う事を。たとえそれが叶わないものだとしても、それだけは忘れなかった。

 それは今だって同じ事だ。ここで死ぬよりはもっと長く生きて、いつかもう一度会えるその時を待つ方がずっといい。だから俺は、そっちの道を選ぶ事にした。


「それがヒスイ様の答えなんですか?」


 俺の意志を聞いた上で、ノブナガさんは俺に尋ねた。


「はい。たとえこれから先会えなくても、いつかはきっと会えると信じています俺は。だからこうして師匠と再会もできたんです」


 その選んだ道が本当に正しいのか、それは分からない。それでも俺は、自分の選んだ道を貫く。


「私達とヒッシー、もう会えなくなるかもしれないけどいいの?」


「会えなくなるかなんて分からないよヒデヨシ。信じてればきっと、いつかまた会える」


 だからその時までは、この世界とはサヨナラする。


「やっぱりヒスイは出会った時から変わってませんね。そういう真っ直ぐなところは好きですよ」


「ありがとうございます師匠」


「い、一応お姉様を助けてもらった恩もありますから、私からも言わせてもらいますけど、必ず帰ってきてくださいよ」


 相変わらずツンとした言い方なものの、ネネもしっかりと俺の言葉を聞いてくれたようだ。


(これでいいんだよな)


「あ、もうすっかり夜ですよ。ほら皆さん、空に星が」


 ノブナガさんに言われて、空を見上げる。そこには二ヶ月前にも見た星達が、空に点々と輝いていた。


「うわぁ、綺麗」


「やっぱり綺麗だね、ヒッシー」


「ああそうだな」


 この二ヶ月、本当に色々な事があった。戦国時代にタイムスリップしたと思っていたから、命を張ることばかりだと思っていたけどそれは違う。

 時には城下町でスイーツを食べ歩きしたり、

 時には誰かと手合わせしたり、

 時には喧嘩をしたり、

 時には結婚を申し込まれたり。

 ノブナガさんやヒデヨシ、ネネやミツヒデ、それにリキュウさん。他にも沢山の武将と出会った。皆女性ばかりだったけど、皆それぞれ独特な性格をしていたし、皆強い人ばかりだった。


「ねえノブナガさん」


「はい?」


「いつかまたここに戻ってきたら、またこうして星空を眺めたいですね」


「そうですね……」


 その中でもノブナガさんは誰よりも強くて、そして優しい人だった。本当は沢山感謝したいところだけど、それはまた今度にしよう。


「また見れますよきっと」


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