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魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
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第42陣それが愛

 ミツヒデを失った傷が未だに癒えないまま三日が過ぎ、俺はあまり傷が癒えていないからか、しばらくは布団の上での生活が続いていた


「ヒッシー、ご飯持ってきたよ」


「ありがとうヒデヨシ」


 今日も同じように何もせずに天井だけを眺めていると、先に傷が癒えたヒデヨシが昼飯を持ってきてくれる。


(そういえばあれからまだヒデヨシと一度も会話していなかったっな)


「なあヒデヨシ」


「ん? どうしたのヒッシー」


「ごめんな」


 俺はまだ彼女に言えていなかった謝罪の言葉を口にする。


「そ、そんな急に謝らないでよ」


 突然の謝罪に慌てふためくヒデヨシだが、俺は言葉を続ける。


「俺が今回の戦いでもっと力があれば、こんな事が起きなかった。それにあいつが現れたのだって、俺に責任がある」


「でもそれだけで謝らないでよ」


「それだけ、じゃないだろ。俺は自分がしたことの責任を」


「謝らないでってば!」


 何としても謝りたい俺の言葉をヒデヨシが遮る。その声はどこか悲しみに満ち溢れていた。


「ヒッシーにだけは謝らないでほしくなかった。どちらかと言うと私が一番謝らなきゃいけないのに」


「何でお前が謝る必要があるんだよ」


「だって今回の事件の全ての発端は、私がただの誤解を大きなものしてしまった事から始まったんだもん。私に責任があるに決まっているでしょ」


「それは違うよヒデヨシ。誰が一番悪いとかそんな事はない。だからお前が自分一人で背負いこむ必要なんて……」


「ごめんヒッシー」


「あ、おい、ヒデヨシ!」


 言い合いの末に逃げるかのようにヒデヨシは俺の部屋から出て行ってしまう。俺はそれを止めることができない。


(馬鹿野郎……)


 心の中で呟く。


(何でもっと俺を頼ってくれないんだ......)


 去り際ヒデヨシは微かにだが泣いていた。



「ヒスイ様、今ヒデヨシさんが……」


 ヒデヨシが部屋を出てすぐ入れ替わりでノブナガさんが部屋に入ってくる。


「ちょっと言い合いになっちゃったんです。ミツヒデのことどちらが悪いかって」


「なら今すぐ追いかけた方が」


「こう言うと冷たいって思われるかもしれませんが、俺達はそれぞれで向き合わないといけないと思うんです」


 さっきヒデヨシと言い合いになったときに思ったことがある。ミツヒデの件、誰が悪いとか責任とかそういう話じゃない。まだ三日しか経ってない上に、ヒデヨシだけじゃなく誰もが彼女の死を受け入れられていない。


「俺達にはまだ時間が必要です。ミツヒデの死向き合うだけの時間が。だから今はヒデヨシを一人にしてあげましょう」


「......はい」


 結局その日、ヒデヨシがこの場所に戻ってくることはなかった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 翌日の晩、寝る支度を済ませそろそろ眠りにつこうとしたところで、誰かが俺の部屋を訪ねてきた。


「はぁ……」


「人の部屋にやって来るなりため息は失礼だろ」


「だってお姉様がいないんですもん」


 訪ねてきたのは何とネネだった。二日も行方が分からないヒデヨシを心配した彼女は、心当たりがある場所を探し回っているらしい。


「何が起きたのか話は聞いていましたが、お姉様がそこまで責任を感じる必要ないのに」


「それに関しては同感だよネネ。ヒデヨシは今回の事件を自分のせいだと思っているんだよ。いや、そもそも誰かの責任とかいう話じゃない」


「お姉様……」


 かつてヒデヨシがそうであったように、ネネも同じようにヒデヨシがいない事を心配していた。


(やっぱりこの二人はお似合いだよな)


 女性同士だけど。


「お前もそんなに気を負うなよネネ。ヒデヨシは多分、一人でゆっくり考えたい時間がほしいんだよ」


「一人で、ですか?」


「ああ。だからお前も下手に詮索しないで、少しの間だけでも一人にしてあげろよ」


「あ、あなたに言われなくてもそうします! ただ……お姉様が一人で苦しんでいる姿を見ているのは辛いです」


「気持ちは分かる。けど......」


 俺の言葉を最後まで聞かずネネは最後にそれだけ言って、部屋を出ていく。残された俺は天寿を見て彼女の顔を思い出した。


(ヒデヨシ......)


 彼女は今何をしているのだろうか。もしかしたら俺は無責任なことをしたかもしれない。ノブナガさんの言う通り、あの時彼女を追うべきだったのかもしれない。


 けどその後悔は悲劇の形で返ってきてしまう。


 それは更に三日後の話。


「ヒスイ様、ヒデヨシさんが、ヒデヨシさんが、帰ってきました」


「本当ですか?!」


 ノブナガさんに彼女が帰ってきた事を知らされた俺は彼女の部屋へと向かった。


「ヒデヨシ!」


 部屋の襖を開ける。そこで待っていたのは……。


「ヒッシー……?」


 あの元気だった頃とは全く違う、生気すらも失われてしまっているように感じられるヒデヨシの姿があった。


「どうしたんだよヒデヨシ、何があった!」


 慌てて彼女に駆け寄る。食事もろくに取ってないのか、体も以前よりも細くなっている。


「ごめんねヒッシー……。私……私……何もできなかった」


「え?」


 その言葉を聞いて俺は嫌な予感がした。まさかヒデヨシ……。


「今朝城下町で倒れているところをたまたま見つけたんです。今は目立っていませんが、その時ヒデヨシさんの身体には数え切れない傷がありました」


 一緒についてきたノブナガさんが後ろで説明する。その言葉を受けて、失礼ながら彼女の体を見た。そこにあったのは、


「この傷……」


 絶対この世界ではつけられない傷。闇の魔法によってつけられた幾多の傷の跡。そう、この傷は決してこの世界ではつけられない傷。それをつけられるのはただ一人。


「マルガーテ......」


 魔王の娘、マルガーテただ一人だった。


 ■□■□■□

 ヒデヨシが負った傷は酷かった。まだ早い内に助かったからいいものの、一歩間違えれば死に至っていたかもしれない。そのレベルだった。


「ヒスイ、お姉様の怪我は治らないんですか?!」


 それを知って、真っ先に言い寄ってきたのはやはりネネ。彼女が再び俺の部屋に訪れたのはその日の夜。涙を流しながら彼女は訴えかけてきた。


「落ち着けネネ。別に死ぬわけじゃないんだから」


「でもお姉様のあの傷は私も見たことがありません。どうにか治す方法はないんですか?」


「落ち着けって。お前が焦っても何も始まらないだろ」


「そうですけど。でもっ!」


 かなり動揺しているのかなかなか話を聞かない。俺だって今すぐにでも何とかしたい気持ちはあるけど、ヒデヨシのあの怪我を治せるのは、俺が知っている人間の中でたった一人しかいない。ただ、その人物はこの世界にはいない。


「お前が焦りたい気持ちは分かるし、俺も同じ気持ちだよ。だけど、俺でも何ともできないんだよ」


「どういう……事ですか?」


「いいかネネ、これから話すのはかなり大切な話だからしっかりと聞いてくれ」


 本来ならノブナガさんに話す事だった物を先にネネに話す。

 ヒデヨシの体にできたあの傷は『闇触(やみしょく)』と呼ばれているもので、魔族が持つある魔法を受けた者の身体を徐々に闇で蝕んでいくもの。数が多ければ多いほど、死に至る可能性が高まり、万が一助かったとしてもその命は長くないと言われている。


「そんな……お姉様を助けられないのですか?」


「一応助けられる術はある。ただそれも、果たしてこの世界でできるものなのか分からない」


「それでもお姉様が助かるなら、どうか助けてください! その為なら私も協力しますから」


 そう言いながら何と土下座をして頼んでくるネネ。今まで俺の事を散々悪く言ってきた彼女が、ここまでして頼んでくるなんて思ってもいなかった。


(そこまで慕われているってことか......)


 彼女にここまで頼まれてしまっては、俺も黙ってはいられない。


「分かったよネネ。お前がそこまで頼むなら、俺も尽くせる限りの手を尽くす。俺もノブナガさんも同じ想いだろうから、絶対にヒデヨシを助け出すぞ」


「はい!」


 俺はネネの申し出を受けることにした。


 ■□■□■□

 まず考えなければならないことは、ヒデヨシを蝕む闇蝕を治す方法だ。これを治せる人物は、俺の知り合いの中で一人しかいない


 上級治癒術師リアラ


 彼女もサクラと一緒に旅をした一人で、治癒術に長けていた。彼女の腕前は相当なもので、後に上級治癒術師となった彼女は、勿論この闇触の治癒方法を知っていた。何度もその腕で彼女は沢山の人達を救っていたし、今も恐らく彼女は治癒術師として世界を歩き回っているに違いない。


 ただ彼女はこの世界にはいない。


 ならどうすればいいかと言うと、そ彼女から俺はいざという時のために、その治癒方法を教えてもらっていた。だがそれが果たしてヒデヨシを治すのに繋がるのかが不確かだ。


(でも時間もない)


 やり方は覚えている。ただし、リアラのように上手くいかない方が可能性が高い。それでも俺はヒデヨシを救いたい気持ちの方が大きい。たとえわずかな確率の奇跡だとしても、俺はそれを信じたい。


(迷っている場合じゃない、救えるのは俺一人しかいないんだ)


 それが俺ができる皆への報いなのだから。


「なるほど。それがヒデヨシさんを救う唯一の手立てなんですね」


「はい。だからどうか、協力してください!」


 俺はその旨を翌日早朝ノブナガさんに伝えた。


「魔法を使うためには場所と時間が必要です。ノブナガさん、協力してもらえますか?」


「勿論です。私達にはヒスイ様を信じるしかありませんから全力で協力いたします。ヒデヨシさんのこと、お願いしますねヒスイ様」


「ありがとうございます!」


 俺は頭を下げる。頼まれる側ではあるがノブナガさんやネネは俺を信じてくれている以上、俺はそれに答えるしかない。


「今回だけは本当にお姉様をあなたに託します。だから絶対にお姉様を救ってください」


「分かってるよネネ。俺だって絶対にヒデヨシを救うってお前にも約束する」


「お願いします」


(絶対に失敗はできない......!)


 ■□■□■□

 今回ヒデヨシを救うにあたって、俺は先日の休暇で使用したあの場所を使用することにした。そこなら安全も確保できるし、何より魔法陣を描くために十分なスペースがあった。


「リキュウさん、俺が言ったものを用意してくれましたか?」


「勿論ですよぉ。ヒデヨシさんはぁ私にとっても大切な仲間ですからぁ」


 次にリキュウさんには、この世界で取れるできる限りの薬草類を用意してもらった。彼女は薬草の知識にも長けていてくれたお陰で、短時間でできるだけ効果があるものを集めることができた。


「ノブナガさん達は?」


「城の警備を含めて、時間を見ながらこちらに来てくれるそうですよぉ」


「そうですか。いざとなって誰もいないと困るし助かります」


 会話をしながら一通りの準備を終える。あとは俺の腕次第。


(少しだけ頑張ってくれよヒデヨシ)


 そしてリアラ、俺に力を貸してくれ。


 ヒデヨシを救うにあたって、俺はかなりの魔力を消耗する事を予想していた。何せ慣れていない治癒魔法だし失敗もできない。ヒデヨシの身体がどれほどの時間もつかも分からないので時間もかけられない。その中で俺は確実に成功させる。ヒデヨシの為に、皆の為に。


「俺も頑張るから、お前も頑張ってくれよ」


 丁度昼の十二時、俺の初めての命を賭けた戦いが幕を開けた。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「ノブナガさん、お姉様の事をヒスイに任せて本当に大丈夫ですよね」


 ヒスイ様がヒデヨシさんを連れて山へと向かって少しした後、ネネさんが私の部屋を訪ねてきた。


(不安なんですね、ネネさんも)


 私も少しだけ怖さがある。未知のものに彼に命を託す事を。だけど今の私達にできることは彼を信じて待つこと。


「今更何を言っているんですか、ネネさん。あなたも彼を信じたから見送ったんじゃないですか」


「そうですけど。それでも私はもしもの事を考えてしまうと、とても怖いです。私の目の前からお姉様がいなくなってしまいそうで」


 隠しきれない不安を吐露するネネさん。そんな彼女の頭を、私は優しく撫でてあげた。


「もしもの事を考えるから駄目なんですよ。ただ信じて待つだけでいいじゃないですか」


「ノブナガさん……」


 本当は誰だって不安だ。だけど、それを掻き消すのは簡単な事だ。


 ただ信じて待てばいい。


 もしも何て考えないで、ただ信じればいい。それが私が今思っていることだ。


「ノブナガさんは怖くないんですか? お姉様がいなくなってしまうかもしれない事を」


「私は怖くないです。ヒスイ様ならきっと、いえ絶対やってくれると思っていますから」


「すごいですね。どうしてそこまで言えるんですか?」


「愛、ですかね」


「あ、愛って。ノブナガさんも随分と大胆な発言しますね」


「毎日お姉様、お姉様と言っているネネさんよりはマシかと」


「そ、それこそ私のお姉様への愛ですから!」


 ついついからかってしまった私に、ツッコミを入れるネネさんは元気を取り戻していた。どうやら彼女の不安も無事に取り除けたようだ。


(それにしても、愛だなんて随分な発言をするようになりましたね。私も)


 これも全部彼のせいなのかな?


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「はぁ……はぁ……」


 慣れない作業を始めてからもうすぐ四時間が経つ。色々な行程等は終了し、あとは俺の魔力を使って彼女の闇触を消し去っていく作業だけなのだが、これがかなりの時間を要する。その為俺の体力も少しずつではあるが、衰え始めてきていた。


「ヒスイさん、そろそろ休んだほうがぁ」


 長時間この作業をしている俺を見かねたリキュウさんが声をかけてくる。心配なのは無理もないが、少しでも油断できないので、俺はその申し出は断った。


「マルガーテの事だから、ちょっとやそっとで終わるような事をしてないと思うんだです。だから気が抜けません」


「でもぉ、このままだとヒスイさんまでもがぁ」


「心配しないでくださいリキュウさん。そんなやわな事は起きませんから」


 少し強がってみるが、疲労が蓄積しているのは確実だ。でもこれは俺が起こしてしまった事だから、俺に責任がある。


「そんな事をしても無駄だと分かっているのに、よくやれますねサクラギヒスイ」


 そんな時少し遠くから声が聞こえる。嘘だろこんな時に……。


「マルガーテ、どうしてここが」


「影で監視さえしてれば、見つけるのなんて簡単な話ですよ。それよりも自分の身を案じた方がよいのでは?」


 一歩一歩近づく音が聞こえる。くそっ、こんな時にどうすれば……。


「ヒスイさんに手を出そうと言うなら、私がお相手いたしましょうか?」


 その間に立ち塞がるかのようにリキュウさんが立ちはだかったのを声で感じ取る。マズイこれだと、リキュウさんまでもが。


「初めて見る顔ですが、私の邪魔をするならもちろん死んでもらいますよ」


「上等です! 彼を守れるなら命の一つや二つくらい」


「リキュウ……さん! やめてください!」


 俺は一瞬だけ作業を止めて、リキュウさんを止めに入る。こんな所でまた誰かを失うなんて、そんなの御免だ。


「ヒスイさん!」


「かなりの魔力を消費しているはずなのに、私に挑むとは……。今度こそ死んでもらいますよサクラギヒスイ!」


 その俺を見るなりマルガーテは即座に魔法を唱え、そして俺に……ではなく魔法陣の上で眠るヒデヨシ目掛けて、闇の槍を放った。


「なっ、しまった……」


 それに数秒遅れて俺は反応する。もう間に合わない。


(俺はここでまた、誰かを失うのか)


 手を伸ばしてももう届かないそれは、確実にヒデヨシの元へ向かい、そして……。



 ■□■□■□

「っ!?」


「ノブナガさん?」


 あれから約五時間。まだ良い知らせが来ない事を心配していると、私は一瞬だけ空気の流れが変わったのを感じた。この感じ、まさか……。


「ネネさん、少し城の留守をお願いします。私、今から山の方へ向かってきます」


「え? あ、ちょっとノブナガさん!」


 何かの予感がした私は、すぐに馬を走らせあの場所へと向かった。

 十分後、慌てて到着した私を待ち受けていたのは、


「ヒスイ様!」


 先日見たばかりの光景。魔王の娘と呼ばれる者とリキュウさんと、ヒスイ様とヒデヨシさん。そしてヒデヨシさんを守るかのように、槍に貫かれている、いや正確には自分に刺さるギリギリのところで、それを受け止めている、


「し、師匠……?」


 一人の大人びいた女性がそこにはいた。


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