第39陣 好きのままで
そしてあっという間に迎えた約束の日。俺はミツヒデと共に最初に俺が試験させられたあの闘技場へとやって来ていた。
「よく逃げないで来たなヒスイ」
「変に誤解されるよりはマシだと思ってな。それにそっちが本気だというなら、俺だって容赦しない」
「そうか」
そう言うとミツヒデは普段から使っている二刀流の小刀を手に持つ。俺は鞘から太刀を抜いた
「じゃあ行くぞ、ミツヒデ」
「来い!」
決闘開始の合図と共に俺逹は間合いを一気に詰め、そして刃を重ねた。
「何だ魔法を使うと思ったのだが」
「最初はお手並み拝見って事で、使わないんだよ!」
つばぜり合いから次の攻撃に投じたのは俺だった。二つの剣を受け止めた状態から、前に押し出し敵との距離を開ける。そしてそこから低く横薙ぎをする。
「甘い!」
だがミツヒデはそれを寸前の所で後ろに飛んで交わす。しかし追撃はやめず、前へと踏み出しミツヒデに迫り、今度は突きを見舞いする。
「くっ」
それでも彼女はそれを小刀で流す。態勢を崩した俺は、咄嗟に身を守る為の軽い風の魔法を使い、ミツヒデとの距離を再び開ける。
「やっと使ったな、魔法」
「こっちも本気だからな」
お互い再び構え直す。
次の一撃を繰り出そうとしたその時だった。
「実に面白い戦いをするようになりましたね。サクラギヒスイ」
俺とミツヒデの間に現れる一つの影。
「な、何者?!」
突然の事に驚くミツヒデに対して、俺は冷静に対応する。
「昨日の今日でもう姿を現すとはな、マルガーテ」
「やはり私の名前を覚えていましたか。てっきり父の事以外興味ないと思いましたが」
影から姿を現したのはマルガーテそのもの。どうやらもう今川義元に化ける事はやめたらしい。
「ミツヒデ、今すぐ伝令を出せ」
「伝令を?」
俺はマルガーテと対峙しながら反対側にいるミツヒデに指示を出す。
「こいつは敵だ。だから今すぐノブナガさん達を」
「分かった」
「そんな事私がさせると思いますか?」
それを阻止しようとミツヒデに魔法を放とうとするマルガーテ。
「焔・一ノ太刀!」
だが俺はそれよりも先に炎を纏った太刀で、マルガーテを斬りかかる。
「なるほど、付加魔法ですか!」
魔法を纏った片手でそれを受け止めるマルガーテ。
「ミツヒデ!」
「分かってる!」
注意がこちらに向いている間にミツヒデが伝令を出し、城内にいるノブナガさん達に知らせる、
(数がいれば何とかなる。頼れるものは頼らないと)
「仲間を呼んだところで死人が増えるだけですよ?」
「安心しろ。そうはならないし、させない」
「今のこの状況を見て果たしてそう言っていられるでしょうか? 」
「何?!」
俺は先ほどから炎の威力を上げ、マルガーテの手を魔法ごと燃やそうとしていた。しかし威力が上がるどころかどんどん炎が消えていくのを感じる。
「まさかこれは、魔法吸収?!」
「貴方の魔法、使わせてもらいますよ」
魔法吸収は相手が使った魔力を吸収するだけではなく、それをそのまま自分の魔法として相手にぶつけられる上級魔法。
その相手は……。
「ミツヒデ、逃げろ!」
「もう遅いですよ」
無情にもミツヒデだった。
「なっ」
マルガーテが放った炎の槍は、あっという間も無く、ミツヒデの身体をいとも簡単に貫いた。
「ミツヒデぇ!」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
ヒスイ様達が決闘しているほぼ同時刻。
「約束通り来ましたねヒデヨシさん」
「私も負けられないプライドがあるんですよ、ノブナガ様」
私とヒデヨシさんの戦いも幕を開けていた。
(私達の場合は戦いというよりは、ただの料理自慢な気がしますけど)
少し苦笑いを浮かべながらも、調理を始める。この戦いにそこまで意味はない。
(でも断れなかった。私にもブライドがあるから)
けどヒデヨシさんがヒスイに好意を持っているのは分かっているので、私も一人の女として負けられない気持ちになった。
(やきもち、でしょうね。これは)
「ノブナガ様はどう思っていますか?」
「え? な、何をですか?」
「ヒッシーの事ですよ。誤解だったとはいえ、結婚騒動にまで発展しましたけど、ノブナガ様の気持ちはどうなのかなって」
料理をしながらヒデヨシさんは核心突くような質問をしてくる、
「私……ですか? 私は……」
先日ヒスイ様が倒れた時に私が抱いた感情。それを言葉にするのなら……。
「私もヒスイ様の事を……」
「でもヒッシーには届かないのかな、きっと」
その想いを言葉にしようとした時、ヒデヨシさんがそんな事をボソッと呟く。
「どうしてそう思うんですか?」
「ノブナガ様も知っての通り、一度ヒッシーに振られているますし、それにヒッシーはこの世界の人間ではないですから」
「それは確かにそうですけど」
「だから私は」
「それでも諦める必要はないんじゃないんですか?」
「え?」
「好きなら好きで、いいと思います。その気持ちは大切ですから」
「ノブナガ様……」
自分も少し前まで自分の気持ちに迷っていたから、人の事は言えない。でも彼と同じ時間を過ごして、同じ気持ちを分かち合ってきたからこそ気づけた。
私もヒデヨシさんと同じ気持ちを抱いている事を。
「伝令! 大変ですノブナガ様」
少しだけしんみりした空気で料理が続く中、慌てた様子で伝令が入ってくる。
「何かありましたか?」
「ミツヒデ様が……ミツヒデ様が!」




