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魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
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第38陣 魔王の娘

 一通り準備を整え、城を出るとノブナガさんが既に待っていた。


「すいません待たせてしまって」


「いえいえ。では行きましょう」


 ノブナガさんが歩き出したので、俺もそれについて行く。


「そういえばノブナガさん、俺どこへ行くのか聞いてないんですけど」


「実は今から向かう場所は、先ほどの話と関係がある場所です」


「さっきの話って事は、もしかして俺の世界の事と何か関係があるって事ですか?」


「あくまで私の予想なんですけどね」


 先程の勾玉の話といい、今からノブナガさんが連れて行ってくれる場所といい、もしそれらが俺の住む時代と何かしらの関係があるとしたら、それは一体何を示しているのだろうか?


 それはあくまで今回の転移と関係していればの話だが、こうとも考えられる。


 それはヨシモトのような第三者の存在によって意図的にこの世界に送られたのだとしたら話は変わってくる。

 俺に関係ある人物がこの件の意図を引いていたとしたら、その犯人は恐らく……。


(一番あって欲しくない可能性だけど、一番あり得る可能性なんだよな)


「到着しましたよヒスイ様」


「え? ノブナガさんここって……」


 歩くこと二十分。ノブナガさんがその足を止めた。彼女が連れてきたある場所、そこは。


「はい。ヒスイ様と私が初めて出会った場所です」


 そう、全ての始まりとなったあの場所。俺が倒れていてノブナガさんが拾ってくれたあの場所だった。


「ここに特に何かあるとは思わないんですけど」


「実はこれは、ヒスイ様にまだ話していないことなんですが」


 説明しながらその場を少し掘り始めるノブナガさん。


「あったあった、これです」


 そして何かを取り出す。それは……。


「ノブナガさん、これって……」


「ヒスイ様がこの世界に来た際に、一緒に落ちていた物です。そして私はこれと同じ物を一つ持っていました」


「もう一つ持っていたって、それはあり得ない話なんですけど」


「はい。そのもう一つも拾い物なんです。そしてその二つが揃ったことは、何か意味があるのかもしれないと思ったので隠しておいたんです。もしかしたらいつしか、この青年にこの事を聞く時に使うのではないかって思いまして」


「その言い方だとノブナガさんは、何かを知っているみたいですけどどうなんですか?」


「実はこのもう一つの物を落とした人物を私とヒスイ様はよく知っているんです。そして彼女もこの世界の人物ではないことも」


「その根拠がこのペンダントですか。異世界の人物の俺が持っているということは、もう一つを持っている人物も異世界の人物であるから、って事ですね」


「はい」


 この時代にも、俺の時代にも決してない、俺がかつて異世界を旅した際にもらった、世界でたった二つしかないとあるペンダントだった。


「ノブナガさん、そのペンダントを持っていた人物って、もしかして」


 そして俺は、そのペンダントとの片割れを持つもう一人の人物をよく知っていた。いや、忘れるはずがなかった。最近も会ったのだから。


「あのヨシモトです」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 話は遡って魔王の退治の旅を終えたあと。

 大切な物を失いボロボロの身体で俺は王国へと帰還した。誰もが慰めの言葉をかけてくれたが、その言葉はどれも俺にとっては辛い物ばかりで、早くもとの世界へ帰りたい気持ちにさせていた。


 でもそんな時でも俺に厳しかった人物が一人だけいる。


「外へ出てくださいヒスイさん」


「外へって……うわっ」


「男のくせにいつまでも落ち込んでいてどうするんですか!?」


 その人はどんな時でも厳しくて、


「サクラは俺のせいで……俺のせいで死んだんです。落ち込むのも当然じゃないですか!」


「そんなんで勇者様が喜ぶと思いますか? 何の為に勇者様はあなたに未来を託したんですか? あなたにこの先も強く生きてもらう為じゃないんですか」


 どんな時でも親身になってくれて、


「大好きだった人を守れないような人間が、強く生きれるわけないじゃないですか」


「そんなのこれから先守っていけばいいじゃないですか」


「え?」


「勇者様を守れなかっ分をこの先生きて、守り通せばいいんですよ。ヒスイさんにはまだ守るべき人が……帰りを待っている人がいるじゃないですか」


「俺の帰りを待ってくれている人……」


 どんな時でも優しくて、


「すぐに立ち直れとは言いません。けど逃げ続けるのもダメですよ。ヒスイさんはまだ生きています。彼女のために強く生きましょうよ」


 どんな時でも心強かった。


「……はい、師匠」


「それでこそ私の一番の弟子ですよ」



「じゃあこの片方は、そのヒスイ様の師匠の物なんですか?」


「はい。あの世界を去る時に一緒にもらったんです。師弟の証だって」


 それが今ここにあるということが一体何を示しているのか? その答えは一つ。そしてその答えは、俺にはあまりに残酷で、そして信じられない物だった。


「失くしたと思ったら、そこにあったんですね」


 その答えを言おうとした瞬間、背後から声がする。そして同時に何かが俺の身体を掠めた感覚がした。


「ヒスイ様!」


 俺は即座に剣を構えて、背後の人物と対峙する。


「まさかこんなに早く再会するとは思っていなかったですよ。しかもこんな形で」


「それは私の言葉ですよ、ヒスイさん」


「久しぶりにその呼び名を聞きましたよ、ノア師匠」


 背後で槍を構えていたのは、今川義元、いや俺の師匠だった人、ノアさんだった。


「師匠、答えてください。どうして貴方がこの場所にいるんですか?」


 嘘だと思いたかった。


 けどこの前師匠が使う魔法を見て、信じたくなくても信じるしかなかった。


「ヒスイさんが成長している姿を、この目で見たかったんですよ。可愛い弟子の成長した姿を」


「だったらどうしてこんな形で? もしかしてこの世界に俺を送り込んだのも師匠なんですか?」


「勿論」


「勿論って……」


 会いたいなら、こっちの世界へ来ればいいのに……。


「そっか。もう開かれないんでしたっけ。あの扉」


「そういう事です」


 勇者との旅を終えて、元の世界に戻ってきて二年。会いたい会いたいって言いながら、何故会えなかったのか。

 それはお約束の一度戻ってきたら、二度と旅した世界には戻れないという物だった。

 

(でも、だからと言って強引すぎるような……)


 師匠がやることにしては無計画すぎる。


「師匠、他にも何か企ててませんか?」


「別に私は何も考えていませんよ? 何か根拠でもあるんですか?」


「俺に会いたいとはいえどどう考えても強引すぎるんです。それにどうしてこの前俺に直接攻撃してきたり、何度も戦の中で戦いを挑むんですか?」


「それはヒスイさんの実力を見てみたかっただけです」


「じゃあもう一つ。どうして俺の世界とは別世界に住んでいるのに、俺の世界の歴史の人物になりきれるんですか?」


「それは……」


 おかしいとは思っていたが、よく考えれば不可解な所がいくつもある。もしこの人物がノア師匠だとしたら、普通では知らないことを知っているはずがない。


 それらを含めて出る結論は一つ。


「ヒスイ様、もしかしてこの方は……」


「はい。恐らく偽物です」


 この目の前にいる人物は偽物。そして俺はその偽物の正体も分かっていた。


「まさか正体がバレてしまうとは。だが、今日は剣を交えるつもりはない。さらばだ」


 そう偽物は言うと、突然煙玉を取り出してそれを地面に向かって投げた。それと同時に周りは煙に包まれ、何も見えなくなってしまった。


「ごほっ、ごほっ。逃げられた!」


「大丈夫ですか、ヒスイ様」


「俺は何とか……。ノブナガさんは?」


「私も大丈夫です」


 煙が晴れ、視界が元に戻るがそこにはもう彼女の姿はなかった。


「やはり生き残っていたのか」


「ヒスイ様?」


 その少女は変身魔法に長け、


「親を殺された恨みを、ここで晴らすってか。いい度胸しているじゃねえか」


 何度も俺達を惑わし続けてきた人物。


(なるほど、これで全部納得がいった)


 俺達が倒した魔王の娘、マルガーデ。


「ノブナガさん、城に戻りましょう」


「え、あ、はい」


「ミツヒデとの決闘以上にやるべき事が見つかりました」


 彼女こそがこの一連の事件の犯人だった。


◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

そもそも戦国武将が女性しかいない時点で、タイムスリップなのかは疑い深かった。だからここも別世界の可能性が高かった。


(いくら異世界の人物といえど、本当の歴史に干渉できるはずがない。もっと早くに気付くべきだった)


 城の書庫にある本を読んでみると、やはり本来の歴史の出来事とこの世界で起きていることは、ほぼなかった。

本当の歴史なら、ここに残されている歴史が本物なのか調べればよかったのに、俺はそれを怠っていた。


(でも一つ変なのは……)


 ここの年度と歴史の年度が全く一緒だという事。そしていつしかミツヒデがここの年を西暦と言ったところ。


 未だ謎が多い。


けどこの一件は確かな収穫だった。


「ヒスイ様、少々お疲れではないでしょうか? ずっと本を読んでいるみたいですし」


 無意識の中で本を読んでいた俺は、ノブナガさんよ声でハッとする。いつの間にか時間は日付を越えている。


「も、もうこんな時間ですか。部屋に戻ります」


「待ってください」


 書庫を出ようとしたらノブナガさんに呼び止められる。


「どうかしましたか?」


「ヒスイ様は先程から何を調べているんですか? ここの歴史の本を読んでいるようですけど」


「一つハッキリさせておきたかったんですよ。一体ここはどこなのかを」


「どことはどういう意味ですか?」


「前にも話しましたけど、俺は前からノブナガさん達の存在を知っています。だからここは俺の知っている戦国時代かと最初は思っていました。けど、よく考えれば違っていたんです」


 ここまで俺が立ててきた仮説をノブナガさんに話す。正直こんな事を話しても、ノブナガさんらは理解するのは難しいかもしれないけど、もう何度もこの世界じゃあり得ない事が起き続けている。


だからこんな話も今更だ。


「その話本当ですか?」


「ほぼ確実だと俺は考えています。ただ、これはノブナガさん達に協力してもらうわけにはいきません。敵は俺達の予想より遥かに強い可能性があります。ですから今の内に」


二つの異世界同士を股にかけた戦い。この先はノブナガさん達でも手の余る。


だから早めに手を引いて欲しかった。


「何を今更言っているんですかヒスイ様。私達は全力で協力させてもらうに決まっているじゃないですか」


「で、でも」


けどノブナガさんは俺の予想とは違う答えを出した。


「私達は同じ仲間なんですから、どんどん頼ってください。今は動きがないにしろ、いずれヒスイ様一人ではどうにもならない時がきっと来ますから」


それはとても懐かしい言葉。

かつてサクラが言ってくれたものと同じ言葉だった。


「……後悔はしないでくださいよ」


「するわけないじゃないですか。それにヒスイ様はもうすぐミツヒデとの決闘じゃないですか。このまま逃げようだなんて許しませんよ?」


付け足すようにノブナガさんは微笑みながら言う。


「い、いやそんなつもりは」


「なら少し休んでください」


「分かりました」


ノブナガさんが覚悟を見せてくれた以上、今更逃げるつもりなんてもうない。


マルガーテとの戦い。


 俺はミツヒデとの決闘。


ノブナガさんはヒデヨシとの料理対決。


この先に待つ多くの戦いのためにも俺は改めて気を引き締めるのだった。

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