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魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
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第37陣 待ち続ける者

夕刻になる前に二人と別れた俺は、城に戻るなりノブナガさんにその事を話した。


「ふふ、何ともお二人らしい言葉ですね」


「いやいやノブナガさん、いくらなんでも楽観的に考えすぎですよ」


 式は上げないとはいえ、奇襲をかけるとか言われているのにその発言はどうかと思う。


「そもそも式はやらないんですから、その心配はいらないじゃないですか」


「それはそうですけど」


「それに、たとえ二人が奇襲をかけてこようが、私は負けません」


「すごい自信ですね」


「何度も二人とは戦っていますから」


 流石はノブナガさんだけど、一体何度戦を重ねてきたのだろうか? いつか話を聞いてみたいものだ。


「それはそうとヒスイ様。明日時間はありますか?」


「鍛錬する以外は特に用事はないですけど。明日何かありましたっけ」


「いえ、個人的に付き合ってもらいたいことがあるんです」


「個人的に?」


 これはもしかして、何かのフラグが立ったか?


「大切な用事なので、いかがですか?」


「分かりました」


「絶対にですよ」


「は、はい」


 ここまで強く言われると、どんな用事なのかかなり気になる。でも詳しくは聞けずに、そのまま翌日を迎えた。


ノブナガさんの部屋を訪ねると、早速用件を話し始める。


「実はですね、ヒスイ様に話しておきたいことがあるんです」


 最初にノブナガさんはそう切り出すと、近くにあった棚から何か箱のようなものを取り出した。


「これは?」


「開けてみてください」


 ノブナガさんに言われて、箱を開けてみる。だがその中には何も入っていなかった。


「あれ? 何も入っていないんですけど」


「本来そこにはある物が入っていました。しかしそれは少し前になくなってしまっていたんです」


「なくなったって、誰かが盗んだとか、落としたとか可能性はないんですか?」


「実はどちらの可能性もあり得ないんですよ。前者はまず、この箱が存在しているのを私しか知らない上に、その在り処も私しか知りません。後者はこの箱は手に入れてから一度も取り出したりしていないんです」


「じゃあノブナガさんが知らないだけで、実は他の誰かが知っているとかは?」


「その可能性も考えたのですが、それも考えられないんです」


「どうしてですか?」


「実はこの箱の中に本来入っていたのは、名前すらも分からない物だったんです。そしてそれを手に入れたのはヒスイ様がこの世界に来られた前日、そしてなくなったのがヒスイ様が来られた丁度その日なんです」


「え?」


 それだとまるで、俺がこの世界に来たからその箱の中身がなくなったみたいな話になるが、それってただの偶然なのかもしれない。


(いや、待てよ。もしかしたら)


「もしかしてノブナガさん、その箱の中身って……」


 俺は一つだけ思い当たることがあったので、その中身を絵に現してみる。


「これではないですか?」


 この世界にやって来る数時間前に、偶然拾った勾玉だった。


「そう、それです。って、どうしてヒスイ様がそれを知っているんですか?」



「えっと、実はですね」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「あれ? こんな物家にあったっけ」


 話は遡ること、この世界へやってくる少し前。新年度を迎えるにあたって、俺は家の大掃除を行っていた。その時家の床に手のひらサイズくらいの緑色の勾玉を発見した。

 最初は見知らぬ物に不気味がっていたが、よくよく見るとなかなか綺麗だったので、掃除が終わった後寝転がりながらそれを眺めていた。


「こんなの今時見つかる物なのかな」


 見た感じかなりの古物に見えるが、前に住んでいた人が落としたのだろうか? など色々な可能性に頭を巡らせていたが、結局結論は出なかった。


そしてその数時間後に俺はここにやって来た。


「じゃあもしかしたら」


「はい。俺がこの時代にやって来た事と、関係がある可能性があります」


「でもどうして、その勾玉という物が私達の所からヒスイ様の世界へと移動したのですかね」


「それは俺もちょっと分かりません。でも何らかの意味があると俺は思いますよ」


 とりあえずこの話は、保留という結論になり、それ以降その話をすることはなかった。


「ところでノブナガさん、個人的な用事ってそれだけですか?」


「あ、いえ。用事はそれだけではないんです。これからヒスイ様にはある所について来てほしいので、外へ出る準備をしてください」


「あ、はい」


 再び合流する時間を決めて、俺はノブナガさんの部屋を出る。


(そういえば今更だけど、あいつ元気にしているかな)


 ここに来る前の事を思い出したことによって、俺はもう一つある事を思い出していた。今更ではあるが、俺はもう二ヶ月近く留守にしている。

単純に計算するなら、もう日本は六月になっているはずだ。大学の単位の事もそうだけど、また行方不明になっているのだから、きっと他の人達に心配をかけているに違いない。


(もう居なくならないなんて言ったのになぁ……)


 帰ったらすごく怒られそうな気がする。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 彼がまた行方不明になったから二ヶ月以上が経っている。大学にも行かず、自宅にも現れず、彼はまた長い間家に帰っていない。


「なあ、あれからもうすぐどれくらいになる?」


「二ヶ月以上」


「警察も言っていたけど、もうあいつは……」


「何諦めているの? あんたがそこまで薄情な人間なだなんて私思わなかった」


「けどな桜、もう仁香月経つんだぞ? そろそろ本気で考えた方が……」


「そう言って、あの時は一年後にはちゃんと翡翠は帰って来たのよ。 だったら私は諦めない。帰って来るまで絶対に諦めない」


皆が彼が帰ってくることを諦めている中で、私、日向桜(ひなたさくら)は必ず帰ってくると信じて待っていた。


(もう居なくならないって、約束したんだからそれくらいは守りなさいよ馬鹿翡翠)


 あの日帰って来た時に交わしたあの約束。それがあるのだから彼は裏切らないし、私も破らないと決めていた。

ただ待ち続けることの辛さを翡翠は知らない。


(きっとあの勾玉だってそう。必ず帰って来ることを示すものだよね)


 何故か彼の部屋にあったこの勾玉。それを私は自身も同じものを持っていた。つい先日、自分の部屋に同じものが何故か落ちていた。

勿論心当たりがないので、今は大切にしまっているけど、きっと彼からの何かしらのメッセージだと思っている。


 きっと帰って来るというメッセージの。


(帰ってきたら、とびっきり怒ってやる。だから絶対に帰ってきて、翡翠)

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