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魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
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第35陣 噂の二人

 ノブナガさんの大胆発言の日の晩、俺は体がなまらないように、この日から一人で少しずつリハビリに励んでいた。


(魔法だけじゃ駄目だ。もっと強くならないと)


 もし未来を変えられる可能性があるなら、魔法以外の面でも強くならなければならない。

 肉体的な面は勿論のこと。

 もう一つしなければならないことがある。


(ミツヒデが謀反を起こす事も避けなきゃいけないんだ)


 それに関しては現段階では方法は思いついていない。彼女ともっと接触をしなければ……。


「本来存在してはならないもの。あなたはいつしか、痛い目に合いますよサクラギヒスイ」


 突然暗闇から声がする。俺は冷静に太刀を構えた。


「誰だっ! と聞くのも野暮か。なあ義元」


 その声にら聞き覚えがあった。だから冷静に対処する。どうやら義元の方も、それは分かっていたらしく、あっさり姿を現した。


「思ったより怪我の治りが早かったですね。てっきりまだ寝込んでいるかと思いましたけど」


「残念だけど俺はそこまで弱くない。それよりお前に聞きたいことがある」


「あなたが聞こうとしているのは、先日の事でしょうか? それなら私からはお答えできませんね」


「あそこまでの事をしといて、よくそんな呑気なことが言えるな。答えてもらわないとこっちが困る」


「そんな事知ったことありません。私はあなたにただ、ひと時の夢を見せてあげただけじゃないですか」


「何がひと時の夢だ。俺どころかサクラの気持ちも踏みにじって。お前は何者だ」


 俺は徐々に怒りを抑えられなくなり始める。俺を騙した事はまだいい。けどサクラを弄んだ事だけはどうしても許せなかった。


「私が何者か。それは今のあなたに答えることはできません。いつかその時が来れば、教えてあげます。その時が来れば、ですけど」


「何を偉そうに言ってるんだ!」


 我慢しきれなくなった俺は、ついに彼女に切りかかった。その刃先は彼女を捉え……。


「魔法という力は、こういう使い方ができるのを知っておいた方がいいですよ。今後の為にも」


 られず、いつの間にか背後を取られていた。そして何かをかけられたのか、俺はその場に脱力して倒れる。


(ち、力が入らない)


 体を動かせずにいると、義元は俺を見下ろして何かを唱えた。今の魔法と、この魔法を唱える声、まさか……。


「天を裂きし雷よ」


「そんな、まさか……」


「この者に裁きを与えたまえ」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「ヒスイ様、起きてください、ヒスイ様」


 遠くからノブナガさんの声がする。いつの間にか瞼を閉じていたのか、俺はゆっくりと目を開く。

 開いた先にいたのは、ノブナガさん。その奥には夜空がある。


「ノブナガさん、どうしてここに?」


「突然雷が落ちたから、何かあったのかと来たんですが、どうしてヒスイ様は倒れているんですか?」


「どうしてって、俺はさっきまでヨシモトと……」


 そこまで言ったところで俺は体を起こす。


「そういえばヨシモトは!」


「私が来た時にはもういませんでしたけど、ヨシモトと何かあったんですか?」


「何かも何も、あいつは……」


「あいつは?」


「あ、いや、何でも……ないです」


「何もないなら、部屋に戻りましょ? もう夜遅いですし」


「……はい」


 言えなかった。何がったのかを。あの瞬間に何があって、俺が気づいてしまったある事にも。


(こればかりは本当に予想外だよ、本当)


 それはあり得ないことだった。だから俺もそれを受け入れられていない。嘘だとさえ思っている。


 だから俺は、何も言わなかった。


「どうかしましたか? 黙っちゃって」


「あ、えっと。その、すいません。考え事してて」


 そんな俺を心配そうに見つめるノブナガさん。この人の優しい目にはどうしても敵わない。


(この人には心配させてばかりだな)


「またですか? どれだけヒスイ様は悩み事を抱えているんですか」


「そ、そんなには抱えてないんで気にしないでください」


 いつまでも心配してもらってばかりなのはどうかも思った俺は、少しでも解消できないかと思いある提案をしてみた。


「そ、それよりノブナガさん」


「何でしょうか?」


「明日もし時間があるならわ一つ頼みたいことがあります」


「頼みたい事ですか?」


「俺と付き合ってください」


 ほんの少しだけ二人で城下町巡りでもしようかと思ったその言葉は、俺の考えとは全く違う方向へと転がってしまう。


「え、え? ど、どうしたんですかそんないきなり。あ、明日じゃなくて今からでも是非……」


 途端に顔を赤らめ動揺するノブナガさん。


(あ、やばい、変な誤解生んじゃったかも)


 昼のノブナガさんの発言を思い出し、それが失言だと分かった俺は慌てて訂正しようとする。


「の、ノブナガさん、俺が言いたいのはそういうことではなくて……」


「是非よろしくお願いします、ヒスイ様」


「だからそういうことじゃ……」


(どうしよう、困ったことになった)


 ちょっとした勘違いから生まれた誤解は、翌日になるとそれは手に負えないレベルになってしまっていた。


「ヒッシー、どういう事か説明してよ」


「どうも何も、あれはノブナガさんが誤解して……」


「突然結婚だなんて、私聞いてないよ。というか、二人はいつから付き合ってたの?」


「け、結婚? 付き合うも何も、全部ノブナガさんが……」


 噂が巡り巡って、いつの間にか俺がノブナガさんと「結婚」する事にまでなっていた。

 しかもその範囲が織田の間ではなく、ありとあらゆる場所に広まっているという。


(恐るべし、女子の噂話)


 結局その噂話がキッカケで、俺はノブナガさんと出かける事を断念せざるおえなかったのだった。


 翌日。


「ヒスイ様、申し訳ございません。私が、その、勘違いをしてしまったばかりに」


 ようやく事態の大きさを理解したノブナガさんが俺にお詫びをしてきた。


「ノブナガさんは悪くありませんよ。俺の言い方に問題があったんです。それにここまで噂が大きくなっているのは、他の誰かが話を盛ったからだと思います」


「誰かって、誰がでしょうか」


「そこまでは俺も分かりませんが、多分あの場に誰かいたんですよ」


 そうでなければここまで大きくならない。他の第三者がありもしない噂を作り上げたと考えるのが妥当。


(とりあえずこれ以上、話がややこしくならないといいんだけど)


 ただ俺はそう願うしかなかった。


 だけどその日の夜。


「サクラギヒスイ、お前に話がある」


 突然ミツヒデが俺の部屋を訪ねてきた。最初は何事かと思っていたが、彼女がかなり真剣な目をしていたので、何となくではあるが話が読めた。


「話ってまさかと思うけど、例の噂の事か? それだったら誰かが勝手についた嘘だから……」


「私はお前にノブナガ様と結婚する素質があるとは決して思えない」


「いや、だから嘘だって」


「だからその素質を知る為に、私と決闘してほしい」


「え?」


 本当どうしてこうなるんだ。


「いや、なんで決闘?」


「お前を見極めたい。ノブナガ様の婿になる資格があるか」


「頼むからまず話を聞いてくれ」


 必要としていたミツヒデとの接触は、悪い方向へと動き出していったのだった。


(これで謀反とか起こさないよな?)

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