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魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
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第31陣 誓い

 眠ってしまったヒスイ様を近くの木に寝かせた私は、家康が倒れている場所へと戻った。


「起きているんですよねイエヤス」


「やはりお主にはお見通しじゃったか、ノブナガ」


「あの程度で簡単に倒れる人ではないと分かっていましたので」


 声をかけられた家康はむくっと起き上がる。


「しかし随分と優秀な兵を得たのう信長」


「得たというよりは、拾ったと言った方が近いんですけどね」


「兵を拾うとはまあ、面白い言葉を使うようになったのう」


 しばしの談笑。ここが今戦場とは思えないほど、私達は力を抜いていた。


「まあ、今回はお主達の勝ちじゃ。目標に逃げられてしまっては、戦う意味がないからのう」


「だったらどうして、二人が逃げることに成功した時点で、撤退をしなかったんですか?」


「最近つまらん戦が多くて、飽き飽きしておったのじゃ。だから少しばかりちょっかいを出させてもらった」


「随分と余計な真似をしてくれますね、あなたは……」


 私は呆れながら首を振る。だがそれに対して家康は、


「じゃがこれで一つハッキリしたことがある」


「ハッキリした事?」


「あのヒスイとやらを我はほしくなった。じゃから今度会った時は、倒すのではなく奪わさせてもらう」


 宣戦布告をしてきた。ヒスイ様を奪い取るという、宣戦布告を。そして彼女は、目を覚まさないボクっ娘を担ぎ、その場を去ろうとする。


「そんな事は、絶対させません。ヒスイ様は私達が守ります」


「よい、それでこそ我がライバルにふさわしい」


 家康は最後にそう言い残し、今度こそ去って行った。


(ヒスイ様は、何があっても渡しません。絶対に。この命に代えてでも、守り通して見せます)


 私は心に強くそう誓い、ヒスイ様を担いでその場を後にした。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「ノブナガ様、よく無事に戻られました」


「すいませんミツヒデ、心配をかけてしまいましたね」


 その後は特に何も起きることなく無事私は安土へと帰還。真っ先に出迎えてくれたのは、ヒデヨシさんとネネさん、そして第二班として向かう予定だったミツヒデだった。


「ノブナガ様、ヒッシーにまた何か」


「怪我とかはしていませんよ。ただ慣れないことが多かったから、疲れてしまったみたいです」


「よかった……」


 背中に背負ってるヒスイ様について皆に説明すると、安堵の息が流れる。


(皆ちゃんとヒスイ様のことを心配してくれていたんですね)


 その大きな変化は私としても嬉しい。ネネさんでさえも彼の無事に嬉しそうにしている。


(今回の休暇はとても意味があった、って事ですね)


「どうかされましたかノブナガ様。顔がほころんでいますよ」


「ちょっと嬉しくなったんですよ」


「嬉しい? 何がでしょうか」


「それは内緒です」


 家康との戦いはあったものの、私の心はすごく晴れやかだった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 最初は二人きりだった旅。


 だけど道を進むに連れ、一人、二人、そして三人と仲間が増えていった。勿論その間には色々な出会いと別れを繰り返していた。


「なあサクラ、もうすぐ半年なんだな」


「何が半年なの?」


「旅を始めてだよ」


「そっか。もう半年なんだね」


 そして気づかない内に時間は過ぎて行き、魔法使いになってから半年が過ぎた。


「色々あったよな。この半年」


「うん」


 ある日の晩、偶然二人きりになった俺とサクラは、その半年を振り返っていた。


「もう半年か……なんと言うかあっという間だったな」


「最初はあんなに元の世界に帰りたがっていたのにね。随分と丸くなったよね」


「う、うるせえ」

 


 半年前にこの世界に突如呼ばれた時には、信じられなかった。どうして自分がこんな目に合わなければならないのか? 下手したら死ぬかもしれないだなんて、すぐに逃げ出したくなった。だけど、彼女が……


 サクラが俺を支えてくれた。


 勇者だからとか、そんなの一切関係なしに支えてくれた。だからここまでやって来れたと言っても過言ではない。


「今更だけどありがとうな、サクラ」


「何よ突然。気持ち悪いなサッキーは」


 俺はこの時この時初めて彼女に感謝の言葉を述べた。俺にとって彼女は心の支えだった。


 その支えは、いつの間にか好きとい感情に変えていた。


 ただ、その想いに気づいたのは、全てが終わってからだった。


(どうして今になって、気づいたんだろう)


 全てが終わって、サクラを失って、そこでようやく気づいた。自分の気持ちに……。もっと早くに気づいて、もっと早くに伝えて、もっと強くなって彼女を守りたかった。だけど、もうそれは叶わない。


 それはもう消えない後悔。


 それはもう届けられない想い。


 だけど想いはまだ残っている。


 届かない想いだけはずっと残っている。


 だから俺は……。


 もう人を好きになることなんて、できなくなってしまった。


 後悔するくらいなら。


 失って傷つくくらいなら。


 ずっとこの気持ちのままでありたい。


 それが俺がヒデヨシの申し出を断った本当の理由だった。

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