第29陣 ネネ
眠れない私に話がしたいと話しかけてきたネネ。私も彼女とちゃんと話したかったので、丁度良かった。
「まず私はお姉様に謝らなければなりません。ずっと、ずっと隠し事をしていた事を」
「そんなの今更謝らなくていいよ。黙ってて辛かったのはネネなんだし」
「そう、ですが」
「私は嬉しいよ。ネネが自分のことをノブナガ様達にちゃんと話してくれたこと」
「それは、その」
「ヒッシーのおかげ、だよね?」
「そ、そんなこと、ありませんわ」
照れ隠しなのか言葉が途切れ途切れなネネに私は思わず笑ってしまう。
「な、何がおかしいんですか? 私は決してあの男を許してなど」
「それでもいいよ。ヒッシーの事、分かってくれたなら」
ネネの事に関しては心配な事が多かった。特にヒッシーに対しての態度は目に余る事が多く、この先の事に不安もあったけど、少しでもそれが変わってくれたならそれでいい。
「お姉様は意地悪です。そんな事言われたら、否定できないじゃないですか」
「そういうところもネネらしいよね」
「も、もう寝ます!」
「おやすみ、ネネ」
その会話を最後に再び静粛がやって来る。その頃には私の眠気もようやくやって来て、
(明日からもっと変わっていけばいいな……。ネネも皆も)
私もようやく深い眠りにつけるのだだった。
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翌朝、起きて居間へと向かうと既にノブナガさんが朝食の支度をしていた。
「おはようございますノブナガさん、何か手伝いますか?」
「あ、ヒスイ様。間も無く準備が終わるのでゆっくりしていてください」
ノブナガさんに言われ、適当な場所でくつろぐ。調理場からはいい香りが漂ってくる。
「昨日結構寝る時間が遅かったのに、よくこんな早くから起きれますね」
「少々寝れなくて。そういうヒスイ様も寝てないのでは?」
「俺は元から早起きは苦手ではないので、慣れているんです。それに意外とぐっすり寝れたので、寝不足でもないんですよ」
「すごいんですねヒスイ様は。私なんか昨日のネネさんの話を聞いてから、ずっと悩んでいるのに」
「やっぱり驚きましたか? ネネの事」
俺のその言葉に一瞬ノブナガさんの手が止まる。
「当たり前じゃないですか、と言いたい所ですけど、ここだけの話をしますと実は薄々勘付いていたんです」
「え?」
俺は少し驚いた後に、冷静になって考えてみると、あり得なくもない事に気がつく。
「あの子もなかなか不器用な所がありますから、隠せないものは隠せないんですよ」
止めていた手を動かしながらノブナガさんはそう呟く。きっと俺の知らないときにも何度かこんな事があったのだろう。
その度に彼女は誤魔化し、ノブナガさんは知らないふりをし続けた。
その理由は簡単だ。
「私から聞いてみようと思った事は何度かあります。ただ、本人の口から聞きたかったので、ずっと黙っていました」
「やっぱり……」
あくまでノブナガさんは知っていることを隠して、ネネ本人の口から聞きたかった。だから今回みたいな形で、それを聞いたのだろう。
(こういうところが人望があるんだろうな)
「さあ朝ごはんできましたよ。しっかり食べて、今日も頑張ってください」
「はい!」
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朝はそんな感じでまったりとした時間が流れたが、その後は昨日と同じようなメニューをこなし、
「皆さんお疲れ様です。これで全部の日程は終了しました。ミツヒデさん達を待たせるわけにもいかないので、すぐに城へ戻りますが、帰りの準備はよろしいですか?」
そして夕方頃になって全日程が終了。あとは城へ戻るだけとなった。
「朝の内に準備は済ませてあります。いつでも帰る準備はオッケーです」
「じゃあ出ますよ」
しかしその出発の直前の事。
「ノブナガさん、どうかされましたか?」
「これは非常にまずいことが起きました」
外へ出ようとしたノブナガさんは急いで中に戻り、他の窓からも外を確認する。
「ヒスイ様、ヒデヨシさん、ネネさん。落ち着いて聞いてください」
そしてノブナガさんは何かを確信づいたかのように俺達の所へ戻ってきた。
「私達は今、包囲されてしまいました」
「え? 包囲?」
「兵を見る限りではざっと百はいました。そして攻めてきた軍が……德川軍です」
「德川軍が?」
何ともタイミングが悪い。昨日の流れでネネも今日の合宿に参加していて、奪還するには絶好のチャンスに違いない。
「まさかとは思うけど、ネネを狙って……」
「恐らくそう考えて間違いないです。こちらの兵は私達四人、私を討ち取ると共に、ネネを奪う算段だと思います」
「つまり俺達は……」
「絶対絶命?」
恐らく德川はどこからか今回の休暇の情報を入手したのだろう。そしてそれを絶好のチャンスと見て動いた。
(あとはヨシモトもだろうな)
そうでなければこんなに早く兵が動かない。こちらが援軍を呼ぶ前に動けば確実に向こうが有利になる。
(最初から仕組まれていたって事か)
ヨシモトの一件はただの偶然かもしれないが。
「わたくしのせい……です。わたくしがいなければ」
「そんな事を今言うんだよネネ。誰一人お前のせいだなんて思っていないぞ」
「そう思ってはいなくても、わたくしに責任があります。わたくしがもう一度あそこに戻れば、全て解決します」
「たとえ全てが解決するとしても、ここからは出さないぞ」
「どうしてですか?! 私はいわゆる裏切り者。せめてその罪くらいは、償わせてほしいです」
今の状況に気が動転して、話を全く聞かないネネ。そんな彼女に言葉をかけたのは、
「何を馬鹿なことを言っているのよネネ! あんたが意地でも行こうとするなら、私が一人で外に出る!」
誰よりもネネの事をよく分かっているヒデヨシだった。
「お姉……様?」
「私もヒッシーと一緒。あんたが何者だろうと、あんたは德川のネネではなく織田のネネなの! だから絶対に差し出すようなまねなんてできない!」
「でも私は……」
「ネネさん、私も同じです。どんなに戦況が悪くても、私は仲間を差し出しません。あなたの過去にどんな事があろうとも、ネネさんは私達の仲間ですから」
「ノブナガ……様……」
よほど思いつめていたのか、ボロボロ泣き出すネネ。俺は彼女の頭に優しく手を置いたあと、こう告げた。
「分かっただろ? 誰もそんな事思ってないって。だからそんな事を言うな」
「ヒスイ……」
「とりあえず、今はこの状況をなんとかしないとな。そうですよね? ノブナガさん」
「はい。決して時間があるわけでもありませんから、皆さん戦いの準備をしてください」
ノブナガさんに言われて、全員がそれぞれの武器を取り出す。それを確認した後、ノブナガさんは今回の戦の説明を始めた。
「今回は非常に危険な状態での戦いになります。最優先事項は、ネネさんの護衛とこの包囲網の突破です。なるべく戦いを避けて素早く脱出します」
内容はシンプル。けど決して簡単な話ではない。
(それでもやるしかないんだ。何としてもネネを守りきる)
「皆さん、準備はいいですね」
『はい!』
全員が返事をする。ネネもしっかりと泣き止んでいて、作戦に備えていた。
そして最後にノブナガさんは、全員の顔を見て頷いた後、作戦開始の合図を宣言した。
「では包囲網突破作戦、開始します!」




