表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した  作者: りょう
新装版 第1章乙女だらけの戦国時代
116/143

第28陣信じる形

 ノブナガさんが去った後も眠れないでいた俺は、どうしたものかと悩んでいると、思わぬ人物が目の前に現れた。


「何情けない顔をしているのです? お姉様のことを考えているなら、すぐにやめてほしいですわ」


 それはネネだった。彼女とは昨日の事もあって、二度と話せないのではないかと思っていたが、彼女の方から話しかけてくるとは予想外だった。


「何だよネネ、帰ったんじゃなかったのか?」


「帰れと言われて帰らないのがこの私。あなたとは今一度話をしておかなければならないと思ったのです」


「話?」


 勝手に隣に座るネネ。そして彼女はそのまま、話を始めた。


「先日、あなたはあの忍から私の秘密を聞こうとしましたわね。あれの理由を教えてほしいのです」


「理由って言われてもな。単純にお前が何故徳川軍に狙われたのか、それだけが気になっただけだよ」


「確かに私が不覚を取って、迷惑をかけたのはお詫びいたしますわ。でもそれとこれとは、訳が違うと私は思いますわよ」


「違くはないだろ。現にボクっ娘はお前には重大な秘密があるから、狙ったって言ってたし、それを教えてくれようともした。だからそれが原因だと考えたって、おかしな話じゃないだろ」


「確かにそうかもしれませんわ。しかしそれを知った所で、あなたには何の意味もなさないはず」


「俺個人では意味がないかもな。だが、これが織田軍として考えたらどうなる? お前はこの前と同じようにまた捕まって、俺達が助ければいいのか? それだったら、予め理由を知っておいて、お前の守備も固めておいた方が楽だろ?」


「それは確かに、そうかもしれませんわ」


 最もらしい理由を並べて、何とかその道を開いてみる。ヒデヨシ以外にほとんど心を開かないネネの秘密を聞くのは、今しかないと思った俺は、迷わず彼女に尋ねた。


「なあネネ、教えてくれないか? お前がどうして徳川から狙われているのか。その秘密を」


「あなたの言葉は確かに正しいかもしれませんわ。しかしそれを教えたところで、何か変わるとでも?」


 一種の賭けに出た俺にネネはそう答えた。


「何者変わらないかもしれないな。だけど、お前もいつまでも隠す理由があるのか?」


「勿論ありますわよ」


「じゃあ何だよ、その理由って」


「もしこの秘密がお姉様に知られたら、私はお姉様のお側どころか、この城にもいられなくなってしまう。それだけは嫌なの」


「だったら尚更話しておくべきじゃないのか?」


「何故?」


「いつまでも黙っている方が、逆に不信を与えて、かえって居づらくなるだろ? いられるとかいられないとかお前だけで決めないで、もっと周りを信じてみるのもいいんじゃないかと思うよ俺は」


「周りを信じる……私が……」


 人間何が一番辛いって、孤独でいる事だ。誰かに自分の秘密を話せないという事はつまり、孤独につながる。

 つい最近まで自分がそうだったのだから、ネネの気持ちは痛いほど分かっているつもりだ。


「まあ話す気がないなら、俺は寝るぞ。お前もさっさと城に戻らないと、ノブナガさんにまた怒られるぞ」


 長く外にいた影響もあって、すっかり眠くなってしまった俺は、諦めることにして部屋へと戻ろうとする。


「待ってほしいですわ」


 そんな俺をネネは、何かを決意したかのように呼び止めた。


「ん? どうかしたか?」


「あなたにはこの前の戦での借りもありますし、その、信じられるか試してみたいから、特別に話しますわ。ただし、お姉様達には私自身が話すという条件付きです」


 素直に分かったと言えないのか、色々理由をつけたものの話してくれるらしい。


「分かった、約束する」


 俺はようやくネネが、心を開いてくれたことに一安心した。


「べ、別に心を開いてなんかいませんわ!」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 その日彼女から語られたのは、俺の予想を越えたものだった。


「つまりお前は、ボクっ娘と同じ忍だって事か?」


「そうですわよ。それも元徳川の」


「徳川のって、何で今はここにいるんだ? まさかスパイとか?」


「違いますわよ。私は徳川から逃げ出してきた忍、先日の件は私を無理矢理連れ戻そうとしたんですわ」


「なるほど」


 それなら確かに辻づまが合う。でもあそこまでして彼女を連れ戻そうとした理由は、もしかしたら他にもあるのかもしれない。


「お姉様には脱走した際に、森を一人さまよっていた時に助けてもらったのよ。だからその辺りの事情は知らなくて」


「だから隠していたって事か」


「そういうことですわ」


 ネネとしては、この事をずっと知らないままで、ヒデヨシと一緒にいたいのだろう。


「だとしたら、ちゃんと話すべきだろ。丁度二人とも起きているし」


「え?」


 けど残念ながらその願いは破れてしまう。何故なら今の話を聞いている人達がいるからだ。


「もう、分かってて話してたんですか?」


「バレてないと思いましたか? 俺人の気配を感じ取ったりするの、得意なんですよ?」


「だから言ったじゃないですかノブナガ様。ヒッシーならすぐバレるって」


 部屋から出てくる二人。ネネはというと、驚きを隠せないでいた。


「お、お姉様と、の、ノブナガさん、もしかして今の話全部……」


「勿論聞いていました」


「もしかして二人が聞いているのを知っててあなた」


「それはあくまで偶然だよ。まあ、これで話す手間が省けたんだし、お前の口からノブナガさんにちゃんと話しなよ」


「で、でも私は……」


 予期せぬ展開に震えだすネネ。けどノブナガさんは、彼女の頬に優しく手を添える。


「もう一度話してくれませんか? ネネさん。私はあなたの口からちゃんと聞きたいです」


 そして優しく語りかけるノブナガさん。ヒデヨシもちゃんと聞きたいのか、先程から黙っている。俺はネネがもう一度話をできるように、一度その場を離れた。


(まあこれで、一件落着かな)


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 十分くらい軽く散歩した後再び戻ると、もう話は終わったのか、いつもの雰囲気に戻っていた。


「あ、おかえりヒッシー」


「もうどこに行っていたんですか。明日も朝早いんですよ?」


「すいません。少しばかり散歩していました」


 色々言われながら寝室に戻る。時間も時間なので、ネネも今日は泊まって行くらしい。


(さてと、今度こそ寝るか)


 皆布団に入り、俺も静かに目を閉じる。何だかんだで色々あった一日だったけど、無事に終わりを迎えられそうだ。


「ねえヒッシー、起きてる?」


 いよいよ眠りにつこうとした時、ヒデヨシが小声で俺に話しかけてきた。


「もう寝るけど、どうかしたか?」


「ヒッシーはどうしてネネの話を聞こうと思ったの?」


「特に理由なんてないよ。ただ、いつまでもモヤモヤしているのは、お前だって嫌だっただろ?」


「それはそうだけど。まさか本当に聞き出せるなんて思ってなかったから私」


「俺も朝の時点ではそう思っていたよ。お前が言っていた通り、そんな簡単には話してくれるような人間だって分かってたからさ」


 けどネネは話してくれる気になった。誰かを信じたいという確かな一歩を彼女は踏み出した。


 それはまごう事なき事実だ


「誰かを信じる事って簡単ではないけど、いざ信じてみるとあっさりしているんだよ。自分はこんな事で悩んでいたのかって」


「それはヒッシーもそうだったから?」


「そうかもな」


「何かヒッシーって、不思議な力を持っているよね」


「不思議な力? 魔法じゃなくて?」


「うん。何というか人を引き付ける力みたいなもの」


「人を引き付ける、ねえ」


 俺自身はそんな事思ったことないんだけどな……。


「まあいいや。明日も早いし寝るね。おやすみ」


「うん、おやすみ」


 こうして色々あった休暇初日は、幕を閉じたのであった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

(信じる、か)


 ヒッシーとの話を終えた私は、やはり眠れずに天井をボーッと眺めてた。


(ネネの事流石に驚かされたけど、私達を信じてくれた結果なんだよね)


 ヒッシーもネネも私の知らない秘密を抱えている。そしてその秘密を話す事はとても勇気がいる事で、誰かを信じられなければできない。


「お姉さま、起きていますか?」


「ネネ? うん、起きているけど」


「少しこのままでいいですから、お話をしませんか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ